侍女マリアの日記2
※こちらはあくまで物語の中の病気であり、実際の病気となにも関連性はありません。
闘病の描写の中に、髪の毛が抜けたり、介護するうえでの心の描写など暗い表現が続きます。
もしご不快に思われる、読むに堪えないと感じる方は読まずにこのページを閉じてください。
本日のリネージュ様…体調の変化あり。
治験の薬の副作用なのか食欲減退、胸の痛みは変わらずあり。
熱は微熱程度。
本日、屋敷の庭を15分ほど散歩される予定でしたが、脚が痛くて歩けないと訴えあり中止。
リネージュ様の体調を日々観察しているけれども、治験の薬が本当に効いているのかわかりませんでした。
リネージュ様本人にそのことを伝えましたら、
「そうねえ、もし効いてなくても仕方ないわ。」と仰っていました。
でも…夜にリネージュ様の部屋から微かにすすり泣くような音が漏れていました。
私は大馬鹿です。
苦しんでいる本人にその不安をぶつけるなんて…
本当に申し訳ないことをしました。
一番不安なのはリネージュ様なのに…
私はここにリネージュ様への恩を返しに来たのであって、不安を煽るようなことは決してしてはいけなかったのです。
それからは、リネージュ様の体調以上に心にも気を配ろうと思い直したのです。
リネージュ様の体調。
胸の痛みがひどく、嘔吐されました。
痛みは這うように移動したりしているとのこと。
声を出さないのか出せないのかわかりません。
それでも彼女の苦しみが緩和するようお手伝いするしかないと思いましたが…
身体を擦ると痛みが和らぐときがあったり、そうでなかったり。
日によってもまちまちで、私もひどく困惑してしまいました。
医師団にはその旨を伝えますが、薬は確実に効いていると仰います。
本当でしょうか?
一向に良くなる気配がなく私自身も焦燥感に駆られることが多くなりました。
痛みからの解放…つまり…
いいえ…いいえ…私がこんなことを考えてはいけません。リネージュ様に精一杯仕えると決めたのです。
私がしっかりしなくては…
そんなある日…
「今日はとても気分が良いの」
突然です。今までが食欲もなく痛みと戦っていたリネージュ様が、
「今日は痛みがないの、不思議ね」
と微笑みかけてくださいました。
私も嬉しくなり飛び上がってしまいそうでした。
「リネージュ様!!もしや治ったのでは?!」
「ふふっ、たまたまかもしれないわ。でも、昨日と違って全然痛みがないの。今日は食べられそうだわ」
「はい、すぐに消化に良いものをお持ちしますね!先に湯浴みをされますか?」
「そうね、お願いね」
「かしこまりました!」
私は、湯浴みの用意をいたしました。
そして、リネージュ様の御髪に触れた途端…
ぱさり
「きゃっ!」
私は自分の手の中にある髪の束を見て驚愕で手の震えが止まりませんでした。
「どうしたの?」
「あ、リネージュ様!!」
私は咄嗟に隠そうとしたけれども間に合わず、リネージュ様にそれを見られてしまいました。
「私の髪…?」
私はどう答えたらいいのかわかりませんでした。
でもリネージュ様は無言でご自分の御髪を触られました。
ぱさり…ぱさり…
リネージュ様の御髪が次々と落ちていったのです。