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元夫視点1

順次アップしていきます。

お待ちいただいて有難うございます

「最初に(いだ)いた愛を忘れないでね」











結婚した当初贈られた母からの言葉を、色を失った空間で思い出した…



















僕とリネージュが出会ったのは親の紹介だった。

勿論貴族なので、政略結婚は当たり前だと思っていた。


榛色の瞳に金色に近い茶色の髪を持つ女性だった。

貴族の女性らしく、最初の印象は物静かな女性だった。


数か月付き合ったのち特に問題もなく、僕たちは結婚した。


結婚する前夜、母が僕に贈った言葉が、



「最初に(いだ)いた愛を忘れないでね」




よく意味が分からなかった。



でも僕は


「わかりました」


と口に出していた。





リネージュは勤勉家だった。彼女の家は伯爵家で格上の僕の家に嫁ぐことになったときから随分勉強をしたらしい。



「貴方の支えになりたいのです」



初夜の晩、彼女のはにかむ様な笑顔と言葉に僕は胸を熱くさせた。


大切にしよう

彼女を幸せにしたい

もっと領地をよくしたい



そういった思いが溢れてきた。




何度も甘い夜を過ごした。激しい恋ではないけれど、僕は確かにリネージュに愛を抱いた。


彼女の甘い匂いが

彼女の柔らかい身体が

彼女の穏やかな言葉が

彼女の芯の強さが


僕にとって得難いものだった。




夫婦生活は順調にみえた。



しかし僕たちは貴族としての責務を果たせないでいた。






”子ができない”




それは段々僕たちに重くのしかかってきた。




”〇〇家では子供ができたそうだよ、次は君のところだね”

”いつ子供は生まれるの?”



そういった言葉に何度僕も彼女も傷つけられてきただろう。


僕は彼女を慰めようと

「僕はリネージュさえいればいい。子は親戚から養子をもらおう」


その言葉を吐いた。


それが彼女を傷つけているとは思っていなかった。


けれど段々、そう段々僕たちの間に溝ができていた。

僕はそれを見て見ぬふりをした。


だってどうすることもできない。

そんな中、悪魔のようなささやきをされた。




「おい、あのモントワール伯爵家はどうだ?」



「何が?」


「子供だよ、子供。モントワール家は多産で有名だぜ?」



僕はムッとして友人の言葉をきいていた。


「お前の奥さん、子ができないんだろう?だったらモントワール家に頼めばいいじゃねえか」


ヘラヘラ笑う友人に吐き気がしたけど、一瞬その言葉に光を見出したかのように感じてしまった僕は本当に愚かだと思う。

頭の中でぐるぐると回る。


子供ができればもうとやかく言われないのだろうか?

リネージュが傷つかないだろうか?


根本的に間違っているはずの考え。

僕はもう正常な判断ができなくなっていた。



ある日、友人が例のモントワール伯爵家の娘であるレイラを連れてきた。


リネージュと同じ榛色の瞳で髪の毛はこげ茶色だった。


それから僕たちは肉体関係を結んだ。


レイラの言葉は甘くひび割れていた僕の心に入ってきた。


「可哀そう、私ならそんなこと言わせないわ、アレク…」


「レイラ…」




僕たちは激しく体をつなげた。



レイラの匂いは香しく

レイラの艶やかな肢体

レイラの甘い言葉と

レイラの性に対する貪欲さに


僕は溺れていった。



いつの間にリネージュのことを同居人のように扱い、夫婦の寝室を別にした。



それから、レイラから届く、僕に抱かれたいという情熱的な手紙を読むたびに体を熱くし、

彼女とずっと居たいがために視察と嘘をついて旅行に出かけた。


一度、リネージュが

「視察なら一緒に行きたい」と言われたときには、


激しく憎悪した。


お前のせいで

お前の為なのに



そういった思いでいっぱいになった。



それからもレイラと最高潮に盛り上がり


「私、侯爵夫人になってあなたを支えたいわ」



その言葉を聞いた翌日の夜、リネージュに離婚を言い渡した。




もうすぐ解放される、そう思っていた。



その間に専属医師のゼンが我が家にやってきていたのは、リネージュのいつもの気鬱のせいだろうと思っていた。




「侯爵様、お話がございます」




そうリネージュが呼んだとき、自分の胸が微かに痛んだことを無視した。



「二か月間、あなたの名前を呼ぶ権利と、朝晩のお見送りと抱擁する権利をください」



リネージュに知られているとは思わなかったが、まあいいかと楽天的に考えていた。

二か月くらいなら良いかとおもった。

その間にレイラとの結婚の準備を進めようと…



「なにそれ!あつかましくない!!?」


レイラが怒ったので、彼女が満足するまで抱いた。

それをしないとちゃんと結婚できないと理解してくれたらしい。




「アレク、行ってらっしゃい」


「アレク、お疲れ様、お帰りなさい」



その言葉は久しく聞いていなかった。


リネージュの笑顔が

リネージュの体温が


僕を惑わせた。




一か月くらいたったある日、


彼女はこんなに細かっただろうか?

そう疑問に思って久しぶりに彼女の顔を見た。


「君は…こんなに痩せていただろうか?」


「そうかしら?あまり変わらないと思うわ」


彼女の言葉を鵜呑みにしていた。




離婚まで三週間を切っていた。


そんな折、レイラがふと言った。


「アレク、私の家が多産で有名でしょ?」


「ああ、…そうだな」


「モントワール家はね優秀な医師に男性も女性も子供ができやすいかどうかを調べてもらうの。結婚する前にね」


「なるほど、だからそれを僕に受けろと?どうしろというんだ?」


「貴方のね…子種が欲しいの」


「は?」


「今日は抱くのではなくて、お互い気持ちよくなってそこであなたの子種をちょうだい?」


「…わかった」



屈辱的とは思ったけど、でも自分は悪くないと肯定したかったのかもしれない。



けれどもあっさりそれは覆された。





「貴方の子種は本当に少なく子供ができる確率は限りなく低いでしょう」


という医師の診断結果を持ってきたレイラは




「あ、それじゃあ私が頑張っても無駄みたいね、別れましょ」




実にあっさり僕を捨てていった。





自分に子種がない?

子供ができないのは僕のせい?

ならば僕が今までしてきたことは?



リネージュを邪険に扱い

彼女に離婚を言い渡した




呼吸ができなくなった。



謝ろうリネージュに

そうだ、こう言うんだ


「子は親戚から養子をとろう」


そうしないと



まずは花束を渡して

贈り物には宝石を


最後の日に、


「もう一度やり直そう」









そう言うんだ。












二か月の区切りの朝、



僕とリネージュは朝の抱擁をしていた。



彼女の穏やかな笑みと心地よい体温を感じることが嬉しくなってきた。

今日はびっくりさせよう。

夜まで待っていてくれと言い出せず、僕は彼女が待っていてくれると勝手に思っていた。









夜、戻ったときに何か違和感があった。


胸が激しく鼓動する。

何だ…何かがおかしい。



「誰か!!!誰かあるか!!!!」





執事のマルコが慌てて出てくる。



「出迎えもせずに申し訳…」




「そんなことは良い!!リネージュは!!?」





「え?」





ようやく顔を上げたマルコはうっすら目が赤かった。






「なんだ?お前泣いていたのか?リネージュはどうした?」




「だ、旦那様…リネージュ様はもう…」


そう言うと彼は目を潤ませた。




「で…出ていったのか…?」



手から花束が抜けて、バサッと床に落ちた。



「役所の方から離婚が成立したと伝言を受け取ってございます」



「嘘だ!」


「嘘ではございません!!」



僕と同じように張り上げたその声にそれが現実なのだと思い知らされる。



「奥様…いえ、リネージュ・アントレット伯爵令嬢様は、本日このお屋敷を出られたのち、役所に行き書類を提出されました。彼女の最後の指示は、“自分の物はすべて処分するように”でございました」



「何だと!?」



そうしてようやく気付く。




玄関の中央にぽっかりと空いた闇色の空間に。



そこには僕と彼女が寄り添う絵姿が…あったはずだった。




そこでようやく、母が言ったことを思い出した。



「最初に抱いた愛を忘れないでね」









母上…僕は遅すぎたようです…















その後、執務室に入ってからマルコに言われたのは、彼女が処分した分のお金が計上された表だった。

そこには、僕が結婚してから贈った宝石やドレス、二か月の間に贈った宝石などがリストに上がっていた。





「貴方の支えになりたい」





どれだけ彼女を傷つけたんだろう。

謝りたい。

彼女にあって謝って、もう一度愛を乞いたい!!





次の日の朝、彼女の実家のアントレット伯爵家を訪れていた。

門前払いをされると思ったけど、そんなことはなく、彼女の父である前伯爵と夫人が迎えてくれた。




「今更何用か?」



ご尤もだ。



「リネージュはここにはおりません」



夫人が言った。


「え?ならばどこに??」



「知りません」



「なぜ!?」


僕は立ち上がった。




「なぜ…ですって?外に女を作って、私の娘を蔑ろにし、挙句の果てに離婚までしたあなたになぜと言われないといけないのですか?」



夫人の憎悪が炎のように揺らめいているようだ。



「サーラ…止めなさい」


「ですが…!!」


「言ってもしょうがない、クロス侯爵よ、娘はいない、あなたからの手切れ金で旅行に出かけると言っていた。私たちは居場所も把握していない。多分…」



苦々しい顔をする前伯爵。


「多分…?」



「出戻りしたら居場所がないと思ってのことだろう、さあ、もうここに居ないことが分かったんだ、帰ってはくれないか?」



「もし居場所がわかったら僕に教えてくれませんか?」


「なぜ?」



前伯爵の目の中に僕に対する憎しみがともっていた。


「貴方に教える義理はない。婚姻関係はなくなった。これからの付き合いもない。娘をこれ以上傷つけないでほしい」



「僕は!!謝りたいんです…彼女ともう一度やり…」



「その無駄口をいい加減閉じなさい。君はどこまで娘を馬鹿にすれば済むのだ?もう二度とこの家には来ないでくれ、もちろん娘に取り次ぐこともしない、去れ!!」




這う這うの体で僕は伯爵家を出た。



リネージュ…君は今どこにいるんだろう。


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