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美少女天使に生まれ変わった、最年少死刑囚のオレの話  作者: 和泉公也
3章

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27話

 ――なっ!?

 その一言で、オレは脳内が真っ白になる。

 真喜人が、既に死んでいる? この世界に、死刑囚福音拓斗はいないはず。つまり、他に誰かが真喜人を殺した、のか?

「もしかして美喜人さん、が?」

「いいえ、彼は何もしていない」

「……凛花さん、じゃないですよね?」

「一歩間違っていたらそうだったかも知れないけど……、残念ながら私じゃない」


 と、いうことは。

 もしかして……。

「まさか、かの……」

「勿論、佳音でもないわよ」

 ――良かった。

 と同時に、かなり拍子抜けしてしまう。

『それじゃあ、一体誰が……』

「殺したのは、アイツに脅されていた女性客の兄だったわ。妹さんは売掛金から売春に手を染めて、自殺に追い込まれたの。その復讐に、待ち伏せていた男にナイフで刺されて、海に沈められたわ」

「あなたはそれを目撃したんですか?」

 凛花さんは頷いて、

「ええ。私と、美喜人はしっかりと、ね」

「えっ?」

 ――美喜人を、殺そうとした?

 病院で真喜人のことを話したとき、そのことは全く言っていなかった。あのときに言うべき内容だったはずなのに……。

 つまり、美喜人はそのことを、忘れている?

「勝手に自分の名前を使ってホストになっていたことを、真喜人は許せなかったみたい。私と一緒に始末するつもりだったみたい。だけど結局、二人で真喜人の最期を見てしまう羽目になった。『この悪魔!』と叫びながら、ナイフで刺される兄の様を、ね。」

 ――そういうことか。

 これで「悪魔」と「刃物」が繋がった。その光景が美喜人の中で強く鮮明に残ってしまったということか。

 この世界で真喜人は既に死んだ。オレが手を下さなくても、他にも奴を憎んでいる奴がたくさんいた、ということか。

 ――なぁんだ。

 オレは笑いが込み上げてきそうだった。しかし、ぐっと堪えて、

「そこからなんとかして逃げてきた、と」

「えぇ。もう、それは無我夢中でね。これであの男に振り回されなくて済むと思ったんだけどね。けど、奴は最後にとんでもない置き土産を遺していったの」

「それが、美喜人さんの……」

「そうよ! 長いこと兄の振りをしていたことや、目の前で兄を殺されたショックで、彼の中に真喜人の人格ができてしまった! 本人も気づかないで、ずっと行方不明だと思い込んでいるみたいだけど、まだいるのよ! あの忌まわしい男の存在が、私の愛する人の中に!」

 愛、する……?

「やっぱり、あなたは美喜人さんのことが本当に好きだったんですね」

 凛花さんはまた頷いて、

「えぇ。同じ顔なのに、どうしてこうも違うのかってずっと思っているわ。優しくて、純粋で、彼に会うためだけに今でもクラブに通うぐらいよ」


 ――そうか。

「は、ははっ、あははははははッ!」

 やはり、笑いを堪えることができなかった。

「あなた、なんで笑って……」

 可笑しい。こんなのってアリか!?

 オレが何もしなくても、どっかの誰かが真喜人を殺していたなんてな。


 ――なんのために。

 オレは一体、なんのために、死刑囚になったんだよッ!

 悔しい。目的が達成できたはずなのに、ただひたすら悔しい。

 最早何が幸せで、何が不幸なのかワケが分からない。

 気が付くと、オレの頬に何かが伝っていた。


『タクトさん……、泣いて……』

「どうしたのよ、本当に……」

 何のために。

 何のために、何のために、何のために、何のためにッ!

 オレは外道に堕ちて、最悪な結末を迎えていたんだッ!

 やり場のない怒りに、オレはただひたすら打ちひしがれていた。

「なんで、なんで……」

『あの、タクト、さん……』

 セラが横から話しかけてくる。煩い。今はオレに話しかけるな。

「なんで、なんで、なんでだよ……」

『私の独り言なんで、そのまま黙って聞いていてくださいね』セラはそう言って、オレを抱きしめる。『タクトさんを天使にしたのは、本当に正解でした』

「せ……、ら……?」

 温かい。なんだ、こんな優しい抱擁、随分と久しぶりだ。

『あなたは本当に優しくて、誰かのためになら悪にでもなれる凄い人です。でも、もう何でもかんでも独りで背負うことはありません。私たちは天使、ですから』


 ――あれ?

 オレは、この世界では誰も殺していない。

 感覚だけは今でも沁みついている。が、実質誰も死んではいない。


 ――なぁんだ。

 あるじゃないか。

 あの男を救う方法。

 アイツは、オレと一緒なんだから。

「分かりました。それだけ聞ければ充分です」

 オレは涙を拭って、再び凛花さんを見据えた。

「えっ……?」

「凛花さんはここに隠れていてください。オレが、真喜人と、決着をつけにいきます」

 そう言って、凛花さんはガッ、とオレの腕を掴む。

「ダメよ! 相手は拳銃を持っているのよ!」

『そうですよ! あの人、もう完全にマトモじゃないです!』

 オレは勢いよく振りほどき、

「行かなきゃなんないんです。これは、オレ自身が過去に犯した罪へのケジメ、なんです」

「ま、待ちなさ……」

 それだけ言って、オレは物陰からゆっくりと出ていく。

 もうすぐ鹿野がここに来る時間だろう。その前に、何としてでも決着を付けないと。こんな光景を彼女に見せてしまえば、それこそまた世界が崩壊しかねない。

 真喜人の姿がそこにある。奴の目はまだ血走ったまま、それどころか飢えた獣のように狂気に満ちている。

「このガキ……、まだいやがったのか」

 真喜人の拳銃がオレに向けられる。

 既に懐かしくさえ思える。オレが奴を殺害したときも、同様に向けられたっけ。まさかの返り討ちに遭うとは思わなかっただろうが、な。

 重苦しい空気が屋上中に漂う。飾られた笹の葉が風に揺れる音が、微かに響く。

「アンタを、元に戻しに来た」

「元に戻すだぁ!? てめぇ、何様だ!?」

 パキュン!

 と、俺の頬を掠めるように弾丸が発射される。

『タクトさん!』

 ツー、とオレの頬から血が滴り、地面に数滴垂れていく。

 すぅ、っとオレは目を閉じて深呼吸した。


 ――あのとき、できなかったこと。

 今なら、出来そうな気がする。

 意識を集中させる。この重い雰囲気に似合わない、柔らかな感触が自分の肌に触れる。

 ふわり、とした優しい感触に撫でられたかと思うと、背中から大きな羽が生えていた。


「オレは天使……、天使の、タクトだッ!」

「天使、だぁ!? ふざけんじゃねぇッ!」

「ふざけてなんかいない。オレは本当に、アンタを救いたいと思っているんだ」

「ナメくさった口を……」

 ――ナメくさった口、か。

 思えばそんな連中ばかりだったな。オレの周りは。

 自分事じゃないから、好き勝手「死刑にしろ!」「とっとと死ね!」とか言いたい放題だったっけ。まぁ、オレはそんなの知ったこっちゃなかったけどな。

 本当に、笑えてくる。

「なぁ、真喜人。お前、いつまでこの世界にしがみついてんだ?」

「……なん、だと?」

 オレは不敵に笑いながら、挑発するような目付きで奴を睨む。

「既に死んでいる分際で、どれだけまた大勢の人を苦しめる? はっきり言ってやるけど、お前、もうこの世界にいらねぇんだよ。とっとと成仏して、幸せになるべき人にその席を譲ってやんな!」

「クソガキがあああああああああああああああッ!」


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