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自分は恋愛に興味がないと思っていた。高校2年生の春、まだ恋を知らない16歳。
白凪翔成績普通、スポーツ普通、容姿清潔感はあるが特にモテるわけでもなく至って平凡な俺。思春期真っ只中の今、普通は女の子に興味を持ち、そういった性的な事を考えてもおかしくはない年頃。だけど俺の頭の中は常に自分の事で精一杯。他人との色恋沙汰にうつつを抜かすなんて考えられない。まるで空白のような人生。
何で産まれてきた?死ぬとどうなる?天国って何?悪い事したら地獄に行く?
そんな無意味な問いに答えなんてあるはずもなく、ただただ日々が過ぎていく。
クラスメイトとは普通に接している。女子も男子も別にどうでもいい。心の中にある自分の闇の部分は隠し通し、平凡な俺は俺という存在を何処にでもいる普通の高校生、としてこの高校生活を終わらせようとしている。
「なぁ白凪」
そう声をかけてきたのは春から同じクラスになった黒須響。髪は茶髪でその端正な顔立ちと女子曰く甘い低音ボイス、更に高身長のスタイルから女子の間では王子扱いされてる悔しいけどイケメンな奴。てか、何で俺に話しかけてきた。同じクラスってなだけで何の関わりもねーだろ。こいつみたいな奴と話すと後々面倒なんだよ。普通に生きたいんだよ俺は。
「えっ…と…何?」
馬鹿じゃね俺。いきなり話しかけられて返す言葉に詰まってしまった。無駄にイケメンなこいつはそんな俺に顔を近付けると
「放課後、体育館裏に来てくんね?」
…仮に俺が女の子だったとして、理想の夢見る相手がこいつだったとしたら…そりゃとんでもなく嬉しい言葉だっただろう。だけど俺は男。こんなんイジメの呼び出しだろ。
「は…?」
もうその一文字を声にするだけで必死だった。
いやいやいや、マジでどうして呼び出し受けたのか分からないんだけど。急加速する心臓の鼓動。ドキドキしてるわけじゃない。怖いんだよ。16年なりに築き上げてきた『普通』を頼むから壊さないでくれ。
黒須はじゃあ後で、と言って俺のそばから離れた。
「きゃー、ねぇ白凪君!今黒須君と何話してたのっ?」
ほら見ろ。いつも静かな俺の周辺で異常事態が起こっている。黒須に話しかけられた俺を女子達が羨ましそうな顔であれやこれやと俺から情報を聞き出そうとしてる。
あいつ…!マジで何なんだよ。
ムカつく気持ちと放課後何を言われるのかと不安な気持ち、色んな気持ちが織り混ざって混乱してきた。
そして一つ改めて分かった事がある。こんな風に不本意ながらでも女子に囲まれてるというのに俺の心は何もときめかないんだ。俺って…やっぱり女の子と恋愛出来ねーのかな。