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7話 決闘のすゝめ

「決闘よ!」


ノックも無く、勝手に早朝から突撃してきた少女がそう告げる。

今日はいい天気だ。着替えを手伝ってくれているマリアンナとシャノンも心なしかウキウキしている気がする。

昨日の夕食はとても美味しかった。朝食にも期待できるだろう。

できれば朝食の席で、魔力を使った戦闘や、剣の先生を宛がってもらえないか交渉しておきたいな。

公爵家の一員となったとはいえ、俺は部外者だ。忙しいであろう公爵とどのくらい顔をあわせられるかわからない。

だから、できれば食事の時に可能な限り伝えるべきことは伝えきってしまいたい。

ゲームの開始地点までに、ヒロインたち全員を相手取っても勝てるくらいにはなっておくには、時間を無駄にはできない。

あー忙しいなー。


「ちょっと!」


なんとか無視したら諦めてくれないかと期待したが、コルネリアにその手は通じないようだ。


「何なんですか一体?公爵家の令嬢が男性の部屋にノックも無く勝手に入っていいんですか?」

「うっ…。確かにマナーがなっていなかったかもしれないけれど、貴方を排除することが何より優先されるわ!」

「それで決闘ですか?」

「そうよ!」


今日も朝から猫の被り物は行方不明だ。

昨日似たような事をして父親に怒られていたはずなんだが、あまり効果はなかったようである。


「決闘とは言いますが、具体的にはどういう物を想定しているんですか?」

「決闘っていうんだから、剣で戦うんじゃないかしら?」


かしら?って言われてもよく知らないが、コルネリアにとって決闘とはそういう物らしい。

これがルール無用のデスマッチだったなら手詰まりだったが、手段が限定されているなら、交渉の余地もある。


「実は僕、まだ剣を使ったことが無いんです。それなのに剣で決闘というのは、流石に理不尽ではないでしょうか?」

「私だって剣なんて持ったこともないわよ!あとその喋り方気持ち悪いわ!昨日の話し方にしなさいよ!」


うん、めんどくさいガキンチョだ。これはもうそれとなくチクって終わりにするか。

そんな事を考えていると、黙って事の成り行きを伺っていたメイドが助け舟を出してくれた。


「あ…あの!それでは、お二人とも剣を習ってから対戦するというのは如何でしょうか…?」

「え?…アナタは確か、こいつと一緒に来たマリアンナ…だったかしら?」

「はいそうです!私の主であるアクセル様は、まだ3歳という幼さです。コルネリア様も4歳だと伺いました。互いにまだまだ決闘なんてされていい年齢ではないと思います。ですから、お2人とも剣の稽古をある程度積んでから行わなければ、公爵家の人間としての品位に関わるのではないかと…。」

「うーん…なるほど…。」


マリアンナの説得にコルネリアが悩みだす。

コルネリアは、俺の話を全く聞く気無かったようだし、第三者に口出ししてもらえて助かったかもしれない。

マリアンナに向かってグッっと親指を立てると、ちょっと照れながら嬉しそうにしている。


「お話はそれくらいにして、そろそろ食堂へ向かいましょう。旦那様方に怒られますよ。」

「あ!」


シャノンからの援護射撃も決まった。これが決め手となり、とりあえずこのめんどくさいやり取りはお開きとなった。

食堂へ到着すると、他の家族は全員既に席についていたようだ。

挨拶を済ませて俺たちもさっさと席に着くと、すぐに朝食が始まる。

そういえば、朝から変な因縁をつけられて忘れる所だったけど、公爵に頼みがあるんだった。


「エーリヒ様」

「アクセル、私の事は、父上もしくはパパと呼びなさい。」


頼みごとをする前にピシャリと言われてしまう。まあ、養子として来たんだからそう呼ばないと駄目か。

ただこちらとしては、20歳まで成長してから人生をリスタートしているわけで、この世界での実の両親の事を父とか母とは思えなかったし、この公爵を父と呼ぶのも抵抗がある。


前世の両親にあまりいい思い出が無いのも原因かもしれない。

父親は、爺さんの代から新興宗教にはまっていて、うちの財産をほぼ全て寄付しようとした所で母から離婚を言い渡された人だ。

その後どうなったかは知らないが、宗教関係以外でもケンカばかりしていたので、ろくなものではないだろう。


母は母で、仕事はできたらしいが、家の事には無頓着だったらしく、俺が保育所に預けられるようになってからは、あまり顔もあわせていない。

それでも、小学3年生くらいまでは食事を用意してくれたからまだマシだっただろう。

その後は、金だけ渡されて、買い出しも調理も自分でやるように言われていたし、高校に入ってからは、学費も自分で稼いでいた。

オオクワガタと、小さくてクリスマスツリーの飾りのようにピカピカなパプアキンイロクワガタというのを養殖しつつ、そいつらの餌になる菌糸瓶を作ってネットオークションで売っていた。


大学は、夜学がある所を選んだ。俺が選んだ大学の場合、夜学だと学費が半分になる上に倍率も高くは無かった。

これならバイトしながらでも通えると判断し、やっと大学も後半に差し掛かったと思ったら死んでしまったが。


まあ、減るもんじゃなし、呼び方くらい相手の希望に合わせるか。


「えーと、父上?」

「なんだいアクセル?」

「実は、剣と、魔力を使った戦いを学びたいので、先生をつけて頂けないでしょうか?」

「剣と魔力…か…」


そうつぶやくと、父上は顎に手を当てて考え込んでしまう。

てっきりこの程度上級貴族のなかでは当たり前かと思ってたけど、難しい内容だっただろうか?


「魔力を使った戦い、というのは魔術という事かい?」

「魔術でもなんでも構いません。僕は魔力がとても多いということでしたので、とにかくその利点を活かせるようになりたいんです。

「うーん…。」


父上によると、剣は今すぐにでも講師を手配できるけど、魔術の訓練は難しいという事だった。

というのも、この世界の魔術と言うのは、5歳の誕生日を過ぎて初めて訓練することを許されるそうだ。

あまり幼い時に魔術を使うと、肉体への負担が大きいのと、心を病む確率が高いと言われているらしい。

それまでは、魔術を使うことはおろか、魔法の適正を調べる事すら禁止されているらしい。

「ただし」と父上が続ける。


「アクセルの場合は、ちょっと特殊なんだ。アクセルは今、大量の魔力を漏らしてしまっている。本来、平民よりは魔力を大量に持っている我々貴族であっても、明らかにわかるような漏れ方はしない。でも、アクセルの場合は、元となる魔力が多すぎて、溢れる量も桁違いであるように感じる。もっともそれは、私や、マリアンナのように、魔力探知が得意な人間じゃないとそこまで感じ取れないだろうけどもね。」


まさか自分の名前が出るとは思わなかったのか、後ろで控えていたマリアンナがかなりびっくりしている。


「それで、アクセルには、5歳で魔術を勉強するまえに、今から自分の魔力をコントロール術を学ばせようと思う。魔力を直接コントロールするのは、そこらの貴族が行ったとしても大した成果は得られない。魔術を発動させてしまう方が効率が断然いいからね。しかし、アクセルみたいに魔力が多い者なら、魔力が漏れるのを防ぐだけでも、魔力効率がかなり向上するんだ。魔術を使うのと違い、体に負担がかかるどころか、むしろ体を守る効果も期待できるしね。」


まあドバドバ出てるのを止めれば当然他で有効活用できるようになるわな。

それにしても魔力コントロールか。どんなふうに覚えればいいのか全く想像がつかない。

講師は仙人みたいな感じかなぁ。


「というわけで、魔力がとても多くて、魔力コントロールが得意な講師を用意しよう。」

「それはどんな人なんですか?」

「フッ…私だ。」


父上がドヤった。

















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