6話 この家は私が守る
「アナタに話があるの。」
そういってコルネリアが押し入ってきた。
表情は、なかなか敵意を感じるものである。
流石ゲームのキャラ、子供とはいえ美人だと迫力がありますね…。
「はい、何でしょうか?(どうよ突然の事態にも動じない俺のこの3歳児モーフ!)」
「とっととこの家から出て行ってくれないかしら?」
はい、これは戦いですね。子供相手ですがちょっと怖いです。俺はナイーブなんですよ?
さっき玄関で自己紹介したときには、まるで花が咲くような可憐な笑顔を見せていたというのにこの変わりよう。
きっと幾重にも猫を被っていたんだろうなぁ。人間不信になりそうですよ?
敵意は感じるがこちらとしても昨日の今日で出て行くわけにもいかないし、そんなつもりもない。
ここは何とか穏便に言いくるめておきたいな。
「えーと…理由を伺っても?」
「はあ?男爵家の子がどう取り入って公爵家に入り込んだのか知らないけれど、貴方の思い通りには絶対にさせないんだから。何が目的?お金?地位?でも残念!あなたにあげるものなんてこの家には何もないの!いつか私か弟がこの家の全部を継ぐんだから!」
「はぁ…。」
まずいな。もう面倒になってきた。これは理詰めで反論しても聞いてくれない気がする。
あと単純に3歳児のキャラ付けが面倒だ。ここは素で返しておこう。
「あのさ、俺は別にこの家に取り入ろうとして来たわけじゃないぞ。俺の本当の父親から打診があったとしても、養子として俺を引き取るって決めたのはお前の父親。つまり公爵様だ。こっちは高い魔力?だかをもった人材として囲われる。代わりに身を守ってもらうって取引のもと俺はここにいるんだ。文句があるならお前の両親に言ってくれ。」
「なっ!?それが貴方の本性なのね!いいわ!今からお父様たちに言いつけてくるから!出て行く準備をしておきなさい!」
そう言い捨てて、彼女は勢いよく部屋から出て行った。
おうおう、威勢のいいガキンチョじゃのう。
流石に貴族間のバランスとかを考慮して上位貴族が決定したことが覆るとは思えないけど、公爵が娘にゲロ甘で、方針を転換する可能性も0ではないか?
まあそれならそれでいい。神様的には、ドラマチックな展開がお望みらしいし。
養子に出たその日に出戻りなんて、なかなか派手なのではなかろうか。
できれば、こちらとしても公爵家にバックについてもらえれば楽ではあるが、絶対というわけでもない。
なんなら貴族でいること自体が絶対の条件というわけでもない。
3歳児が一人で生きていくのは難しいだろうが、できるだけ一つの考えにとらわれないようにしなければ。
まあ、わざわざついてきてくれたマリアンナだけでも残れないかお願いくらいはしてみるが。
とりあえずの目標は、この世界が崩壊しないようにしつつ、自分も破滅しないようにするという事だ。
攻略本を読んでわかったことだけど、この世界は十数年で魔王によって崩壊させられるらしい。
1000年前に施された魔王の封印が解けてしまうんだとか。
何故世界を崩壊させたいのかは知らない。そういうお約束なのだろう。
そして、そんな魔王を倒せるのではないかと期待されるのが、真の聖女と目されるゲームのヒロインだ。
全属性の魔法を使いこなし、同じ学園の仲間たちと力を合わせて魔王軍と戦う。
この戦闘がゲームだと物凄く難しいらしいが、そこはまあヒロインたちに頑張ってもらうしかない。
俺も世界が崩壊されたらこまるから、手助けできる部分は手助けしようと思っている。
問題は、俺によって上書きされてしまったアイーダが、元のゲームだと悪役だという事だ。
しかも、どのルートでもBADエンド以外ならアイーダは破滅する。
中でも一番酷いのは、攻略本に大団円エンドと書かれていた最高難易度のルートだ。
全攻略キャラとの親愛度を限界まで上げ、誰一人欠けることなく魔王を打倒した場合にのみ至れるエンディング。
この中でアイーダは、ヒロインに対する嫉妬の心を利用され体を魔王に奪われる。
ヒロインたちが頑張ってギリギリまで戦闘で追い込んでからの第2ラウンド。
アイーダの魔法適性は火しかなかったが、火属性魔術のセンスだけは全キャラの中でトップクラスだったらしい。
そこに魔王の魔力が組み合わさることで無類の強さを発揮するそうだ。
疲弊したヒロインサイドには地獄だろう。もちろん難しくはあるが倒すこともできる。
その際魔王ごとアイーダは死ぬわけだ。俺にとって地獄のような事実だ。
結局の所、俺にできることはヒロインたちが魔王を倒せるようにサポートしつつ、ゲームのエンディングを超えても自分が破滅しないようにする事だけなんだ。
そのためには、この世界の知識を集めつつ、世界トップクラスだという魔力を使った戦闘の習得しなければな。
公爵家ならいくらでも習い事をさせてくれそうだけど、追い出された時の身の振り方も考えておくのもいいかもしれない。
食事までの暇つぶしに、最悪を想定した計画を立てて、ちょっとだけヒロイックな気分になっていると、シャノンとマリアンナが夕食の準備ができたと呼びに来てくれた。
「すまないねアクセル。コルネリアが失礼な事を言ったようだ。許してほしい。」
「気にしていませんよ。男爵家の子供がいきなりやってきて家族になると言われれば、混乱も反発もあって当然だと思います。これから仲良くなっていきたいですね。」
食堂に入って早々エーリヒ公爵に謝罪されてしまった。因みにコルネリアは自分の席でブスっとしている。
数刻前被っていたネコちゃんはどこに忘れてきたんだ?
義理の父には大人な対応をしておく。あくまでこちらは自分の立場を弁えてますよーとアピールだ。
ただまぁ…こういう大人の対応をされるほうが、納得のいっていない人間には腹が立つだろうなと思って、心の中でニヤニヤしながら、めっちゃ睨みつけてくるコルネリアを見ているのは内緒だ。
とりあえず、初日で追い出されるということは無く、とても高級そうな美味しい食事と、これまた高級そうなベットを堪能して、その日は眠りにつくことができた。