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3話 神姫のアリア

この世界に俺が産まれてから3年が経った。

前世の記憶があるんだから、もっと有意義に過ごせるんじゃないかと思っていたが、赤ん坊の体でできることなんてたかが知れている。

過保護なのか、家から出ることも殆どないので、脚で情報を探ることすらさせてもらえない。

精々が周りの人の会話から情報を集めるくらいしかできなかった。


ただし、俺は神様によって送り込まれた者!

普通なら知ることなど不可能な情報まで得ることができるのだ!

まあ、ヘルプって念じたら攻略本がでてくるだけなんだけども。

この攻略本は、俺以外の人間には見えないどころか触ることもできないらしい。

タイトルは、『神姫のアリア 完全攻略ガイド』。

つまりこの世界の基になったゲームは神姫のアリアって言うんだろうな。

攻略本なんて今時あんまり見た覚えが無いけど、今でも発行されてるんだろうか…?


見聞きしたことと、攻略本の情報を組み合わせて整理しようと思う。


俺の名前は、『アクセル・プジー』というらしい。横文字の名前で違和感がすごい。

そして、今俺が住んでいるこの国の名前は、『ユークガルド王国』と言うんだそうだ。

この国の貴族は、公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵の順で下っ端になって行くらしい。

この貴族たちが、王と王族の下について運営されているのがこの国だ。

つまり、うちは貴族の中で一番の下っ端に当たるわけだ。


基本的に貴族は、国から領地を与えられて、その範囲内で税をとったり、自分たちで商売をして稼いでいるらしい。

日本で言えば地方自治体の長みたいなものだろうか。

しかし、領地を持たず、王城などで役職に就いて、国から給料を貰って生活している貴族もいる。

これが法衣貴族と呼ばれる奴らで、プジー男爵家もその中の一つのようだ。


プジー男爵家は、貴族といえば聞こえはいいけど、あまり裕福というわけでもないらしい。

家族構成は、現当主である俺の父『エリック・プジー男爵』、その妻で俺の母の『サーシャ・プジー』、長男で俺の兄である『トマ・プジー』、そして俺の4人家族だ。

そこに執事1人とメイドが3人、料理人が1人、護衛が2人。これでプジー男爵家メンバー全員だ。


そういえば、俺のファーストキスを奪って行ったメイドは『マリアンナ・マナリノ』というそうだ。

驚いたことに、俺が産まれた段階ではまだ6歳だったらしい。随分大人びた見た目に思える。

この世界の人々は、皆美男美女ばかりだけど、日本で生まれ育った俺には見た目から年齢がわからなくて、実年齢によく驚かされる。


この国では、苗字を名乗れるのは貴族だけらしく、平民は名前しか持たないらしい。

なのに、マリアンナに苗字があるのは、『マナリノ伯爵』という大貴族がメイドに産ませてしまった娘だからだそうだ。

上位の貴族は、王室や他の上位貴族の所に、自分の子供を行儀見習いで送り込むこともあるらしいが、伯爵や男爵の場合、婚外子はあまり良い待遇を受けられないんだとか。

そういう意味では、まだマリアンナはマシな状態と言えるのかもしれない。


マリアンナの母親は、既に流行り病で亡くなっているらしい。

マナリノ伯爵には気に入られていたようだが、その夫人に疎まれたために家から出され、うちで住み込みのメイドなんてしているらしい。

因みにこれは他のメイドたちが洗濯場でしていたコソコソ話から得た情報だ。

マリアンナ自身は、自分の身の上の事は特に話してこないが、いつもまじめに仕事をしていて好印象である。


ところで、貴族ではないけど、貴族に近い権力を持っている者たちもいる。

ユークガルド王国の国教であるアイラシア教という宗教組織だ。

トップの教皇ともなると、王様に直接意見を言える程の力があるらしい。

アイラシアとは、愛と美の女神様の名前らしい。多分この世界を作って放棄したヤバイ神様ってのはこいつだろう。

邪神教なのでは?


アイラシア教の神官は、試験に合格さえすれば、貴族でも平民でも関係なくなれるらしい。

ただし、お金を積めば簡単に試験が突破できるらしい。神様のために寄付ができて偉い!って事だ。

神様の懐には多分一つも入らないんだろうが。


ゲームの方だとヒロインは、アイラシア教から聖女候補に認定されたために、王立魔法学園に通う事になる。


この世界の人々は、皆魔力をもっている。ただ、殆どの場合は有っても無くても誤差の範囲のようなごく少量だけらしい。

しかし、ユークガルド王国においては、王族や貴族に高い魔力を持った人間が生まれやすいらしく、高位貴族貴族であればあるほど、保有する魔力は多くなる傾向がある。


例外として、何十年に1人の割合で、平民から高い魔力を持った人間が産まれる。

ヒロインがまさにその1人で、しかも王族を凌ぐとすら言われる魔力保持者らしい。

更に、回復魔法が得意なものだから、アイラシア教から注目されたんだとか。


回復魔法は、他の魔法と違い、神の存在を感じられる程効果が上がるらしい。

信仰心が重要なのかもしれないけど、少なくとも俺にはよくわからない。

なので、アイラシア教が大々的に騒いで聖女認定し、神様の存在をアピールしたんだとか。


まあ、俺からすると胡散臭い感じがすごいけど、回復魔法の使い手は殆どがアイラシア教の神官なので、このゲームの中では必ず関わることになる。

俺は、もともと悪役令嬢らしいから、多分ヒロインに回復役をしてもらうこともできないだろうし、できれば有能な神官を1人は見つけておきたい。

何故なら、元になるゲームだと、貴族の子弟はほぼ全員王立魔法学院に入れられるが、そこでの課外学習などで、アホみたいにバトルしまくるらしいのだ。


ユークガルド王国が、元々冒険者と呼ばれる人たちが作った国らしく、王都があるこの場所には、とても巨大なダンジョンがあったらしい。

それを攻略したの者たちのリーダーの子孫がユークガルド王族なんだとか。

そんなこんなで、貴族たるもの戦えてナンボとされてるらしい。


ゲーム通りなら、ヒロインと一緒に行動するなら、わざわざ他の回復魔法の使い手を探す必要もないんだろうけど、こちとら悪役である。

最悪の場合は、回復用のポーションがぶ飲みを覚悟しなければならない。


そういえば、攻略本キャラ紹介を読み込んでみたが、アクセル・プジーという名前は全く出てこない。

元々女キャラなのだから、名前が違うのは当然かもしれないけど、プジーという苗字も出てこない。

恐らくだけど、俺はこれから養子に出されるんだろう。

規格外の魔力を持つ子供は、大貴族の養子になることもあるってお父様が言ってたしな。


ただ、とても不安な点がある。俺の容姿だ。


俺の容姿が前世の子供の頃と同じなのだ。

美男美女ばかりのこの世界で、前世と同じ見た目の俺はとてもブサイクに見える気がするんだ。

両親やマリアンナは、黒髪がカッコいいとか言ってくれるが、それ以外の人々からは疎まれてる気がする。

兄にはあからさまに嫌われている。見た目が自分や両親と全く違うかららしい。

このままプジー家で生活するなら、味方もいるから我慢もできるが、養子に出された先ではどんな扱いを受けるんだろうか。


容姿が前世の俺と同じなのは、多分戦の神様が、元のキャラに俺を上書きしたからなんだと思う。

雑な上書きは思いもよらないミスの元なのだ。

就職したり、大学でレポートを書くようになるとよくわかるから子供たちは気をつけるんだぞ。


容姿は置いておくとしても、他にも何かしら前世の俺のまま上書きしてとんでもない事になってる気がする。

例えばレベルが上がらないとか、回復魔法が効かないとか。

なんせこちとら前世はメタンガスにすら吹き飛ばされた一般人だ。

剣と魔法の世界ではトムソンガゼル並みにモンスターの良い餌かもしれない。

ましてやヒロインたちの敵に回ったら秒殺される可能性すらある。

ゲームを基にした世界というのが、どこまでゲーム通りに作っているかわからないので何とも言えないが、ものによっては致命的な気がする。



そんな事を自分の部屋で一人黙々と考えていると、ドアがノックされた。

マリアンナが呼びに来たらしい。

お客様が来てるから父さまが俺を呼んでるんだとか。

普段客が来たところで、挨拶するのは長男の兄だけなんだが、何の用だろうか。


不思議に思いながら、俺はマリアンナに連れられ、客間へと急いだ。

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