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14話 後ろから話しかけられるのは心臓に悪い

この世界では、砂糖がそこそこ貴重な物らしい。南方の領地で収穫されるサトウキビから作られているものしか流通していないと聞いた。

日本でも、ビートを大量に作ってガンガン砂糖を作るようになるまでは、高級品だったらしいから無理もないのかもしれないが、ファンタジーな世界なのだから、そのくらい融通してくれてもいいのではないだろうか。

そう言えば、サトウキビがあるのならビートもあるのだろうか。もしあるなら、砂糖業界に革命を起こせるかもしれない。まあその場合、今まで砂糖業界を牛耳ってきた奴らに狙われる危険性もあるわけだけども。


現時点では、金には全く困っていない。衣食住のうち、衣と住に関しては、義理の両親から提供されている。食に関しては、殆どが自分で狩ったものだが、金もかからずに入手できている。それどころか、狩った獲物の素材で、食べられない部分はこっそり売り払っているため、そこそこの金はもっている。

だから今無理に金儲けをする必要は無い。無いが…甘い物があまり流通してないのは悲しい。


砂糖が高級品とはいえ、貴族たちなら気にせず買えてしまうだろう。だが、一般市民が簡単に手に入れられるものではない。そうなると、この世界で提供される甘いものといえば、果物を除くとキラッキラした高級菓子に限定されてしまう。そういう食品が嫌いなわけではないけれど、前世で貧乏だった人間からすると、気後れしてしまう部分がある。


実の所、ケーキやシュークリームなんて物は、前世で小学生になるまで食べたことが無かった。

初めて食べたのは、確か……初めてできた友達の家に行ったときだろうか。


思えば、一般的な娯楽と呼べるものは、殆どが彼女に教えてもらったものだ。主にゲームだが。

お互い友達が全くいなかったせいで、時間があればずっと一緒に過ごしていた気がする。

まあ、殆どの場合俺が彼女の家にお邪魔している状態だったので、非常に肩身は狭かったけど、貴重な食料を補給できる場所であり、実家より安全が確保されているせいで、ついつい入り浸ってしまった。

そのせいで、最後は家の人たちに手酷く追い出されてしまったが、彼女は今も元気にやっているのだろうか。

正直、追い出される理由がいくつも思い浮かぶから、それ自体は納得しているし文句も無いけれど、ボッチ精神が俺を超えていた彼女のその後だけが気になっている。


高校3年で交流が絶たれる前には、そこそこクラスの同級生たちと会話できるようになっていたけれど、アレは、かなり無理をしていたらしく、家に帰って来てから30分くらいは無言で部屋の隅に蹲っていた。

それでも、俺に入り浸られる必要も無い程度になったからこそ、俺は見切りをつけられたのだろう。

事実、学校で見かける分には、俺が居なくても問題なく生活しているように見えたから大丈夫だとは思うんだが…。

結局その後死ぬまで話しもしなかったからなぁ。

一応大学は同じ所だったはずだが、あっちは一般の学部で、こっちは夜学だったから、日中の仕事を終えて大学についたときに、友達に囲まれて帰る姿を何度か見た程度だ。


そう言えば、彼女は乙女ゲーも結構好きだった気がする。俺にもやらないかと誘っていたが、何が悲しくて男を落とすゲームをしなきゃいけないんだ…と断り続けていたの思い出した。

あそこで、文句を言わずプレイしていたら、もう少しこの世界でも過ごしやすかったのだろうか……。

いや、無いな。ラスボスの性別が変わってる上に、魔法の才能まで無いんだ。ゲームの知識も頼りにならなかっただろう。

むしろ、ゲームの知識が無いからこそ今この程度の苦労で済んでいるのかもしれない。

なんでここまでゲームと違う事になってんだって文句も、ゲームが未プレイなら大して出てこないしな。


攻略本なら持たされてるけども、この攻略本も正直大して役には立っていない。

大まかな設定とか、アイテムや魔物の図鑑は載っているが、それ以外は、選択肢のフローチャートと、結末のあらすじくらいしか載っていない。


つまり、なんでそんな選択肢が出てきたのか、その選択の結果何が起こるのかが殆ど不明という残念さだ。

仮に、このフローチャートを参考に進めようと思っても、これは主人公にとっての選択肢だ。当然、悪役令嬢のフローチャートではない。


悪役令嬢ルートなんてものがあればまだわからなかったが、アイーダに関する記載はとても少ない。

結末のあらすじでは殺されてるか、国外追放されているか、そのどちらのようだ。

そして本人のキャラ紹介の部分では、傲慢だの冷酷だの否定的な内容しか載っていない。

他のキャラの紹介欄には、アイーダにこうこうこういう嫌がらせを受けた!なんてことは載っているけれど、それだって本当に少しだ。

製作スタッフは、アイーダをよっぽど嫌いだったのだろうか。

何もかも悪いのはアイーダだって事になっている気がする。


とはいえ、それはゲームの話だ。

今俺がいる世界は、神様曰くゲームを参考にして作られた世界らしいから、攻略本は、参考程度にしておくのがいいんだろう。

対策を立てようにも、アイーダじゃなくなっている以上、国外追放されても生きていける技術を身に着けたり、処刑されそうになっても逃げ延びられる戦闘力を手に入れるくらいしかないのだが。


前世では、基本ぼっちで生きてきた俺に、ここまでマイナス要素ばかりの未来が予想される状態で、良い選択肢だけを選んで助かるなんて期待は持てない。

そんな対人スキルは無いのだ。

しいて言うなら、前世での俺のように、できるだけ周りから認知されないように生きて行くようにするくらいが関の山だ。

互いに対人能力が低い友達の女の子との会話を除くと、バイト先でのビジネス会話くらいしかしてこなかった人生だからなぁ。


ともあれ、国外追放、もしくは、逃亡の果てに貴族ではなくなった時のために、収入を得る方法としてビートを探しておくのもいいだろう。

俺は、一般的な甘い物が食べたいんだ。チープな駄菓子とか、カロリーに全振りした菓子パンでもいい。

……考えれば考える程食べたくなってきた。

せめてここに置いてある高級菓子でも食い溜めしておいてやろう。


俺が、公爵家の人間はそうそう持ち得ないだろう貧乏性を発揮していると、集まって姦しくしていた令嬢たちが立ち上がり始めた。

どうやら、お開きの時間が来たらしい。俺もコルネリアの元へ近づくと、非常に満足した笑顔になっているのが伺えた。


「今日は、とても充実した1日だったわ!友人が何人もできたのよ!?」

「おめでとう姉上!(今まで友達いなかったもんな…)」

「それにしても、アクセルはダメね…。全く会話の輪に入っていなかったじゃない!」

「俺は、今回別に主役側ではないですからね。それでも1人友人ができましたよ?」

「それはボクの事かい?」


振り向くと、そこにはイケメン美少女エヴァが立っていた。


「おう友達よ。女の子の友人は増やせたか?」

「まあまあ…かな?コルネリアが一緒にいてくれたから、他の娘達も話しかけてくれて助かったよ。」

「わ…私も、まあ、会話がしやすかったから助かったわ…エヴァ…。」


既に互いに呼び捨てで呼び合う仲らしい。妬けちゃうね。俺も一応呼び捨てだけども。


「アクセル・フォン・シュベルトマン」


3人で今後一緒に遊びに言ったりしないかとわいわい話していると、不意に背後から声をかけられた。

振り返るとそこには、ツヤッツヤのサラサラ銀髪に、ピンク色の瞳の女の子がいた。

服装は、なんだかファンタジーのお姫様みたいな…、てかティアラ的なの被ってんな。

この人ってもしかして…。


「ユークガルド王国第2王女、アイラシア・セシール・ユークガルドよ。」


王女様でしたわ。









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