1話 ガスの向こうは異世界でした
初投稿です。
いろいろ至らない部分はあると思いますが、生ぬるい目で見てください。
お願いします。
マジで。
「ここは……どこだ?」
気が付いて真っ先に出た言葉は、そんなどこかで聞いたような台詞だった。
自分が置かれている状況が全く理解できていない。今この瞬間、自分がここに発生でもしたかのように、突然意識がスタートした。
見渡す限り真っ白な空間。立っているので地面はあるはずだが、まわり全部同じように白いからよくわからない。
混乱しているが、とりあえず落ち着いて整理してみようと思う。
俺の名前は、相田あいだ 利晃としあき。年齢は20歳で大学2年生のチェリーボーイである。
思い出せる最後の記憶は、夏休みだからと始めたアルバイト中の物だった。
長くても数日で日給が高めという、畜産農家の仕事に応募した俺は、牛糞を貯めている施設に来ていた。
話によると、発酵させてたい肥にする予定が、異常気象による暑さで過剰発酵してしまい、なんとか早急に処理する必要があるらしい。
しかも、発酵で発生した可燃性のガスのせいで、重機を入れることができない。
そこで呼ばれたのが俺ともう1人、自己紹介をされたが名前もよく覚えていない金髪の青年、というかヤンキー。
とりあえず運び出しを始めたはいいけど、牛糞が多すぎて終わる気配がなく、とても臭く、おまけにとにかく暑いということでストレスが急上昇。
1時間経過した所でとりあえず休憩しようと申し合わせ、ふうと一息入れた俺の目の前で、ヤンキーがタバコとライターを取り出して着火をしようとした、という所までは覚えている。
記憶から察するに、あそこでガス爆発でも起き、俺は吹っ飛ばされて気絶した。
その後、ここで休まされていたということか?
だけど、農場の休憩室や、病院のベットの上ならわかるが、こんなよくわからない場所でいきなり覚醒することなんてあるんだろうか。
「おーい!意識回復しとる?」
突然の呼びかけに、驚きで飛び上がるように後ろを見ると、仙人のような爺さんが立っていた。
「ちゃんと聞こえておるようじゃな?まあ、何もわからず混乱しとるじゃろうから、とりあえず説明を聞いてほしいんじゃよ。」
「……えーと、貴方はどちら様でしょう?」
「ワシ?ワシは、戦の神じゃよ」
オゥ、ゴッド。いきなり胡散臭い感じになってきたぞ。
そんなふうに思っているのが表情に出ていたのか、自称神様は苦笑いをしながら説明を始めた。
「まずは、概要を説明してしまいたいし、質問は後にしてくれ。結論から言うと、君は爆死したんじゃ。糞尿から発生したガスによるガス爆発じゃな。即死じゃよ。君と一緒に仕事をしていた男から半径50m内の物は、悉くが吹き飛んでしまったんじゃ。なかなかの威力じゃったぞ。おまけに燃え盛る糞尿が辺りに散らばるから大惨事じゃな。それで、死んでしまったおぬしは、本来であれば元の世界で赤ん坊として転生するはずなんじゃが、丁度ワシが探しとる人材にピッタリじゃったんでな。他の神と交渉して、リクルートしたんじゃ。ここまでで何か質問はあるかのう?」
「……死んだ、という所までは、納得できなくてもまだ理解できるんですが、であれば今ここに存在している俺は何なんでしょうか?あとリクルートとは?」
「今の君は、まあ言わば魂のような状態じゃな。本来、死んだ者の魂は不定形で、自己認識なんてできないんじゃが、君にはこちらから干渉して記憶や意識ごとここに構成されてるんじゃよ。だから自分が何者であるか覚えておるし、自分の姿のイメージもあるから体も生前のままなんじゃ。リクルートについては、他の世界に転生して、その世界の運営を手伝ってほしいんじゃ。」
「他の世界の運営……?」
「君の世界の乙女ゲーというのを参考にして作られた世界じゃ。」
「乙女ゲーって……。」
戦の神様によると、ある神によって新しい世界が創られたが、その神が管理を放棄したため、急遽戦の神様が管理することになったらしい。
しかし、戦の神様自身あまり世界の運営なんて仕事は経験がない。
それに加えて、乙女ゲーをモデルにしたという特殊な条件下で創られた世界なので、サポートしてくれる人材がほしいらしい。
乙女ゲーを知り尽くしたスペシャリストが。
「いや待ってください。俺は、乙女ゲーなんてやったことないですよ?」
「なーに、乙女ゲーなど女性向けの恋愛ゲームじゃろ? 男性向け恋愛ゲームの経験でも十分通用すると思うんじゃよ。」
「男性向け恋愛ゲームだって3作品くらいしかやったことないんですが。」
「それでも、今回選べた候補じゃと、君が一番適任だったんじゃよ……。」
曰く、戦の神様が干渉できる人間にも相性があり、戦闘に関係ある事柄で死んだ者でないといけないらしい。
例えば、戦闘で死んだ者やそれに巻き込まれた者。爆死は、ギリギリ戦闘に関係ある死に方として考えられるらしい。
そして、転生させる側の人間に魂が宿る瞬間と、ほぼ同じタイミングで死んでいなければならないらしい。
今いる空間は、時間が止めてあるらしいが、俺が死んでから元の世界では1秒も経っていないんだとか。
上記の条件が満たせて、尚且つ恋愛ゲームをしたことがある人間が俺だけだったらしい。
だが、俺のプレイしたことのある恋愛ゲームは、かなり特殊な物だ。
初めてプレイした作品は、スタート時点でメインヒロインが死んでいて、主人公の回想がメインで進行するスッキリしない物だった。
2作目は、比較的普通かもしれないが、メイドロボのヒロインが一番人気だったな。
3作目は、主人公が事故で負った頭の怪我で、通常の人間が異形に見え、異形のヒロインが絶世の美女に見えるというキワモノだった。
そんな経験でいいのか疑問に思ったが、同時刻に戦闘で死んだ者たちは、ゲームもしたことがない兵士や、誤爆されて死んだ子供くらいだったらしい。悲しい世界だな。
「突然の事でまだ混乱しとるとは思うんじゃが、君には是非この話を受けてほしいんじゃ。君にとってもメリットのある話じゃしな。君が転生するのは、大貴族の令嬢という設定のキャラなんじゃ。つまり、贅沢し放題なわけじゃな。」
「いや俺男なんですけども。」
「そこは心配ないぞい。無理やり男だったことにするんでな。」
「そんな無理やりな事可能なんですか?」
「このキャラクターは特殊でのう……。どうも、悪役令嬢というらしくてな。主人公の女の子を邪魔する役割らしいんじゃが、邪魔して退場する所さえ描写されていればよかったらしくてのう、他の部分の設定が穴だらけなんじゃよ。だから強引ではあるが君をそこに上書きしてしまうぞい。選択によっては、魔法でガンガン攻撃してくるラスボスになるらしいんでな、おまけで世界最高の魔力をもたせておくぞい。できれば最初から男のほうが楽なんじゃが、管理を引き継いだ時点で、設定が緩くて、かつ話の本筋に関われるキャラは、もう全員魂が定着してしまってたんじゃよ。」
サラッと説明したけど、割と強烈な情報があったな。
「魔法がある世界なんですか?」
「あるぞ。あらすじを説明しとくと、剣と魔法が存在する中世ヨーロッパ的な世界で、一定以上の魔力を持った貴族の子息たちが集められる学園が舞台じゃな。そこに、平民ながら高い魔力と魔術の適性をもったヒロインが聖女候補として入学させられて、顔のいい男たちと乳繰り合いながら成長し、最後には世界を救うという壮大な物語じゃな。」
「乳繰り合うって……。それにしても、どうしてそんな世界の運営を戦の神様が任されたんですか?接点無さそうに感じるのですが。」
「このゲームは戦闘パートがあってのう。むしろ恋愛要素がおまけと言ってもいいくらいに戦闘が重要なんじゃ。更に言うと……この世界を作って放棄したのがのう……、ワシの孫娘である愛と美の女神でのう……。まあ責任とってお前が管理しろと、ワシより上の神から押し付けられた訳じゃな。」
まさかの身内の尻ぬぐいでした。面倒な臭いがしてきたため、神様相手とはいえ、キッパリ断ろうかと考え始めた辺りで、俺の体が光り出した。
「悩んどる所悪いんじゃが、実はもう君が転生することは確定事項でのう。新しい世界は、神が見て楽しむために作られた世界じゃ。ただ設定がキツ目でな。セーブとロードもないという事をまったく考慮されとらん難易度じゃ。だからこそワシの加護を持った君を送り込んで、できるだけ円滑に進めて欲しいんじゃよ。まあ円滑にいかなくても、それはそれで神々は楽しむとは思うんじゃが、ドラマチックな方がワシの信仰値が増えて嬉しいぞい。まあ君には、必死に生きてさえくれれば文句は言わん。何か困ったことがあれば、ヘルプと念じれば攻略本が出るから参考にしてくれ。じゃあ頼んだぞ!」
「ちょっとまっ」
制止の声が届くこともなく、俺の意識は途切れて行った。