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Act6 訪ねてきた少女

 ──みんな聞いてくれ! 魔法少年が引退したぞ!


 ↪︎それってアマカゼ? それともセツ?


 ↪︎アマカゼだ。


 ↪︎嘘だろ、ショック!


 ↪︎つーか、どこ情報だよ、信用できん!


 ↪︎弟からきいた。軍で働いてる


 ↪︎なんで引退?


 ↪︎もう戦えない体らしい


 ↪︎うそ、ショック……



 

(どうか偽りであってくれ)


 噂を聞いたイヌイは、祈るような気持ちで魔法少年、アマカゼ・サクラとの面会を軍に要求する。

 しかしすぐに拒絶の返事があった。理由が述べられないことで「引退」の真実味が増す。


 助手(AI)の頭脳をかりて色々と調べていくうちに、イヌイはついに噂の真相を突き止める。

 

「アマカゼ・サクラは、異星人との戦いのあとから意識不明のまま、眠りつづけている……だと?」


 戦いで傷ついたのか、それとも別の症状なのか。

 しかも軍では、いつ目覚めるか知れないアマカゼの処遇について困っていることが窺えた。


(厄介者扱いか……、ひどいな)


 現実世界で、アマカゼ・サクラは孤独な環境にあった。家族や友人は仮想世界にいて、他に頼れるような親類もいない。何かあっても彼を支えるために駆けつける者は誰もいなかった。


 イヌイの胸に罪悪感がこみあげる。


 ──仮想世界のせいで孤独になってしまった人がいる。


 もとは苦しむ者を救うためだった。

 周りの研究者たちも賛同してくれたし、自分がしたことは正しいと思っていた。

 

 だが、今になって完璧に正しいことなんて無いと気付かされる。現実世界と仮想世界、それぞれに分断されてしまった者たちがいる。


「すまない。全部、オレのせいだ……」


 償うには、あまりにも大きな罪だ。


 それでも、せめて出来ることを……。


 イヌイは厄介者になってしまった、アマカゼの身体を引き取った。


 



***





 魔法少年が眠り続けて一年ほど経った頃、イヌイのもとにひとりの少女が訪ねてきた。


 年の頃は、十五、六歳くらいだろうか。

 日本人特有のしなやかな長い黒髪。細く湾曲したナイフのように冴えた眼差しの少女。幼さの仮面をつけながら、どこか達観した落ち着きがあった。


 少女は「アマカゼに会わせて」と言った。


「ここにいることは知ってる。会わせて」

「キミは、()()()()()知り合いなのか?」


 イヌイの問いに、少女はかたい表情のまま頷く。

 

 普通に考えれば会わせるべきじゃない、と思う。

 だがこの一年、アマカゼを探してたどり着いた者は、少女の他にはいなかった。時間の経過に比例して世間でのアマカゼの存在は希薄になっているというのに……。


 睨むように訴えてくる眼差しと、耐えるように唇を噛み締める姿は切実で、心が動かされる。


(会わせてあげたい)


 アマカゼが存在していることが、この子にとって希望となるならば。

 

「会わせるまえに言っておく。ショックを受けるかもしれない。一年も眠り続けてるんだ。……健康体じゃない」

「かまわない」


 少女は即答した。

 

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