Act4 英雄の目覚め
ブクマくださった方、ありがとうございます!
──みんな聞いてくれ! 〈英雄〉が覚醒したぞ!
↪︎へぇ、生きてたんだ
↪︎冷凍睡眠してたんだっけ
↪︎ていうか、いま何歳だよ。こわっ
↪︎こんな時代に目を覚ますなんて可哀想
↪︎私だったら寝起きに異星人襲来してたとか無理だわ
↪︎はげしく同意! オレなら二度寝するぜ
↪︎大丈夫じゃない? 魔法少年が居るんだしさ
↪︎アマカゼ・サクラかっこいい
↪︎はげしく同意!!
西暦2225年。
イヌイが冷凍睡眠から目覚めたことで、世間はにわかに沸き立った。
反対にイヌイは愕然とする。
太陽系外惑星からの異星人の襲来により、地球人類は危機に瀕していたのだ。
その元凶こそ、イヌイのつくった「仮想世界」というのだから悲劇でしかない。
『──地球人類よ、目醒めよ!!』
異星人は警告する。
肉体を通して得られる「魂の進化」を捨て、仮想世界に逃れた地球人類に向かって。
肉体とは、惑星を源とする原子の集合体だ。
人の細胞は微細な「光」でできている。
ゆえに識者は肉体をライトボディと謳い、魂を内包するための神聖な器だとよぶ。
つまり……神々から与えられた尊い肉体をおざなりにし仮想世界で生きることは、宇宙神に反すると異星人たちは言いたいのだろう。
(オレは過ちを犯した──!)
イヌイは頭を抱え、絶望する。
だが一方で、地球人類は俯いてなどいなかった。
最先端の文明を駆使して宙に浮く防御壁をつくり、異星人がはなつ「目醒めの周波数」から、地下に眠る人々の眠りを守り続けていた。
壊れても、すべてが無になっても、また生み出せる底力が人にはある。そうやってこれまで歴史を重ねてきたのだ。
どんなに困難でも諦めている者などいなかった。
なにより人々の心の支えになっていたのは、最前線で戦う「魔法少年」と呼ばれる新人類の存在だった。
***
のまれて、消えてしまいたくなる罪悪感に溺れてしまわないようイヌイは必死だった。
眠っていた時間を取り戻すように学習をはじめ、魔法少年についての調査も開始した。
「魔法少年とは、いったい何者なんだ」
望めば、すぐにデータは送られてきた。
国家機密から個人情報までを網羅するデータバンク、そこにアクセス権限をもつAIがイヌイの助手だ。
異星人と戦う筆頭魔法少年の名は、アマカゼ・サクラ。現在、十七歳。東北出身。
遺伝子操作により、日本人でありながら金色の髪の毛に、金色の瞳をもって生まれる。
地質学者の父親と、農業を生業にしていた母親は、アマカゼが十五歳になるときに仮想世界へ移住。仲の良い友人の多くも仮想世界へ移住。恋人はおらず、現在は一人暮らし。
(ひとり、現実世界に残ることを決めたのか……)
理由は、異星人と戦うためだろう。
幸福な夢を視る者達のために、ひとり、戦う道を選択したのだ。
(こんな……、あまりにも過酷じゃないか)
想像すればするほど、少年の境遇が哀れに思えてくる。
データのなかには、魔法少年の模写画も添付されていた。
エーテル体で戦う魔法少年の姿を目にできるのは、ごく一部の霊感に秀でた者達だけだ。
描かれたこの姿が、果たして真実なのかイヌイには判別できなかったが、そのどれもが背中に天使のごとく白い両翼をそなえた神々しい姿をしている。
「これが魔法少年、アマカゼ・サクラなのか……」
模写画の一部には、アマカゼ・サクラのほかに、もうひとりの魔法少年の姿を描いたものもあった。名を「セツ」と言うらしい。
アマカゼが純白のように輝く戦士として描かれているのに対し、セツは漆黒を纏い、冴えた赤い瞳をしている。
(会ってみたいが……)
希望の象徴になりつつある魔法少年。
イヌイが全身全霊をこめて作り上げた仮想世界を守るため、戦う者がいる。
それは救いであり、希望でもあった。
会ってみたい。いや、しかし……。
顔を合わて、自分は一体なにを語ろうとしているのか。感謝か、それとも懺悔になってしまうかもしれない。
赦されたいという自己満足からの願いなら、今はまだ会うべきではないだろう。