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第05話 vs おしゃべりネコ

精神を研ぎ澄ませ、只ひたすら己の強さを信じる。

と同時に、思考回路を完全な戦闘形態バトルモードに切り替えて。


ここから先、必要なのは戦略と判断力のみ。


「はぁぁぁぁぁっ!」


ガキン、と。

頭部に次いで横腹を狙った2連撃は、いとも簡単に止められてしまう。

透かさず反撃態勢に入った野獣の巨大斧が猛威を振るう。


ギギィィンッ。

そんな鈍い摩擦音と共に、受け止めた一撃を薙ぎ払う。


やはり力では圧倒的にこちらが劣る。

敵の重過ぎる攻撃は受けずに避けたいところだが、この狭い通路ではそれも容易くはない。


「どらぁぁぁっ!!」


ガィンッと、またしても響いた金属音。

次は敢えて足首を狙ったが、これもやはり止められる。


武器の面では引けを取らないが、腕力の差は歴然。

斬り合いでの長期戦はスタミナの関係で不利と判断したオレは、まず機動力を削ぐ為、足元狙いの戦法に切り替えていた。


だが、その結果――




――ガキィィィンッ!!


やはり無駄。

既に狙いを読まれているようで、全て確実に止められてしまう。


――くっそ…もっと早く!

図体に似合わぬ俊敏性と、相当な反射神経を持つ化け物。

今のオレが繰り出せる最速の斬撃を持ってしても、全くダメージを与えられない。


手数で勝負といきたいが、反撃もまた脅威。

無駄な消耗を避ける為、再び間合いの外まで下がり戦略を練り直す事に。


「オイ」

「!?」


――待て待て待て。

思わず自分の耳を疑った。

今はっきりと聞き取れた 「おい」 という言葉。

唖然とするオレは自然に構えを解き、仁王立ちでこちらを見据える敵を睨み返す。


「オマエ、ニンゲンニシテハヤルナ」

「ちょっ…!」


どうやら耳は正常らしい。

しかし取り敢えず、驚いたという表現ではきっと生温い。

そもそも魔物という存在自体が不可思議だが、喋る魔物なんて余りに幻想的過ぎる。


ここで封印していた思考能力を叩き起こして。

目の前の現実を早くも受け入れる事が出来たオレは、適応力が有り過ぎるのかも。


「答えろ、お前なんで喋れるんだ?」

「シラン」

「知らんって…じゃあ、お前は何者だ?」

「オマエラニンゲンガ “マモノ” トヨブモノダ」


――OK、理解した。

やはり正体は魔物で間違いないらしい。

こうして実際に会話が成り立ってる以上、これまでの常識は完全に覆された事になるのだが。


つまり、この世界にもまだまだ未知なる魔物が存在するという事。


「ココヲトオリタイノカ?」

「…あぁ」

「ココハオレノスミカ、アラスモノハユルサナイ」


凶暴な牙が剥き出しの口で、しかし落ち着いた物腰の野獣。

まず、この棒読み感たっぷりの言葉遣いを何とかしてほしいが、まぁ一応聞き取れるレベルで、言いたい事もよく分かった。


「つまり、お前がこの洞窟の主って事か?」

「オレノナワバリダ」

「よし…1つ聞くが、お前この国から出て人を殺した事はあるか?」

「…ナイ。 オレハココデウマレ、ココデソダッタ」

「OK、それだけ分かれば充分」


吐き捨て、剣を握り直し構える。

喋る魔物とは聞いていなかったが、これが村長の言っていた 「避けては通れない相手」 らしい。

予想外の出会いに予想外の強敵だが、後ろで待つアリィを奥へ通す為には、この化け物を倒す他は無い。


「おしゃべり野獣ネコさんよ!! 覚悟しなっ!!」

「…オモシロイ」


先刻の攻防でヤツの動きは掴んだ。

巨体の割に素早いが、この狭い空間では巨大斧を有効に使い切れていない。

スピードで掻き回せば充分に勝機はある。 1つ問題は、こちらも武器を有効活用し切れていないという事だが。


「どぉぉらぁぁぁっ!!」


ガッキィィン、と。

弾き合い、激しい衝撃音を生み出す剣と斧。


それが第2ラウンド開始の合図。

出来る限り小振りで素早い斬撃を繰り出しつつ、隙を見つけては大振りに切り替える。

単純な戦法で、しかしこれが最も効果的。 考える頭を持っている魔物に、下手な小細工など通用しない。


あと、決して攻撃パターンを読まれてはならない。

故に斬撃の種類も、狙う場所にも規則性など作らない。


「ふん! はぁっ! ぬぁぁぁらああああ!!」


まず右腕、素早く体ごと反転し左腕、向き直って脳天狙い。

と、そんな感じで基本的に手を休めず、ひたすら攻め側に回る。


相手を強敵と判断した場合、オレは一撃で仕留める事をキッパリ諦める。

リスクの少ない動きで、掠り傷でもいいから負わせていき、敵の動きが鈍る頃合いを見計らって止めを狙う。


まぁそれが、オレの常勝スタイル。


「はぁっ!」


――ギャリィィンッ!!!


「勝機っ!!」


肩先に向けて放った斬撃、それを受け損ねたヤツの体が一瞬傾く。

スピード重視の連続攻撃に相手の防御が崩れた瞬間で、このチャンスを逃す程バカじゃない。


最適な間合いに飛び込み、ヤツのすね目掛けて最短軌道の斬撃を。


「ぬっ!」


瞬間、目の前の巨体がフワリと浮かび上がる。

ここにきて予想外の展開。 この狭い空間で、背を丸めてジャンプしたのだ。


つまりそれは、ヤツの罠で。

体勢を崩したのは、オレに隙を突かせる為の偽装フェイク


――ガキィィイイイィィィィンッ!!!!


「ぐっ!!」


対応は遅れつつも、上方からの斬撃を間一髪で受け止める。

しかし宙を舞い、全体重が上乗せされた巨大斧の破壊力は凄まじく、受けた反動で体ごと後ろへ吹き飛ばされてしまう。


更に不覚だったのは、余りの衝撃から武器を手放してしまった事か。


キィン、と。

足元に落ちた剣。

同時に、勢いよく尻餅を付いたオレに、間を置かず斧を振り上げ迫り来る。


――殺られる…!!

そう悟ったオレは人生初の敗北感を前にし、思わず顔を伏せてしまう。


だが、次の瞬間――


「はぁっ!!」

「ッングァァァアアアァァ!!!」


一瞬、何が起こったのか分からない。

背後からアリィの声が聞こえた直後、周囲がパッと明るくなり、背中にぶつかる熱気を感じた。


恐る恐る顔を上げてみる。

すると、そこには上半身を真っ赤な炎に包まれ、もがき、苦しみ、喚き散らす化け物の姿が。


「今よ! 決めちゃって!!」


咄嗟に振り向き、仁王立ちで両手を前に突き出すアリィを確認。

闇の通路を鮮明に照らし出す程の炎、それに包まれたヤツの方を改めて見たオレは、状況を全て把握する。

――くそっ…助けられた!


透かさず立ち上がって剣を拾うと、再度振り向き、魔道士様に感謝の意を示す。


「恩に着る!」

「うん!」


少女に助太刀されるという、何とも不本意な展開。

目を背け、完全に死を覚悟したオレだが、実際こんな所で死ぬ訳にはいかない。


「すぐあの世に送ってやる」


敵の強さに敬意を表し、熱地獄からの解放、即ち瞬殺を約束する。

尖端を相手に向けたまま剣を後ろへ引き戻し、僅か数歩の距離を全速力で突っ走る。


熱気と蛮声を浴びつつ、急所と思われる胸に強烈な突きを繰り出す。


「グウオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



それがヤツの断末魔。

炎上する体をよろめかせ、ズンッという鈍い音を立てその場に倒れ込む。


アリィから放たれた魔法、その炎は徐々に消えてゆく。

焼け焦げた皮膚の匂いが鼻を突くが、別にそんな事は気にしない。

歩み寄ったオレは、既に息を引き取った野獣にささやかな黙祷を捧げるのだった。



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