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第47話 キュスリーの惨劇 【前編】

ローベルグより遥か東に位置するエクシナ共和国。

狭い国土の大半を森が占め、都市や町の数も少なく、多くの若者が他国に移り過疎化も進む弱小国。


その最南端、『忘れ去られた地』 と呼ばれる場所には小さな集落があった。

それがキュスリー村。




――14年前――


東に大河、南に大海原、西に大森林を望むキュスリー村。

ここには僅か40余名の人々がひっそりと、だが平和に暮らしている。


キュスリーでは毎年、決まった日に収穫祭が行われる。

その年の豊作・豊漁を祝い、大地と海の恵みに感謝し、村の発展を願う一大イベント。


そんな村の収穫祭もこの年が最後となった。

有ろうことか年に1度の祭りに、村の存亡に関わる悲劇が重なったのだ。



その日――

収穫祭を夜に控え、村は朝から活気に満ちていた。

息子の居所を探すティリアは、準備に加わっている夫に尋ねようと広場を訪れた。


「ねぇ貴方、あの子知らない? 気付いたら家に居ないのよ……」

「あー…さっきニックと走り回ってたぞ? その辺に居るんじゃねぇか?」

「そう、なら良いけど……」


言って周囲を見渡すティリア。

しかし、子供の姿は何処にも見当たらない。


「遠くには行かねぇだろ、そのうち戻って来るさ。」


夫の言葉を背に受けて。

朝食の仕度を済ませる為、ティリアは広場を後にした。


一方、そんな妻を見送ったグレンは手を止める。

最後の台詞に自信が持てなかったのと、祭り前で羽目を外す可能性もある子供達の身を案じた為。


――最近はこの辺も物騒だしな……。


脇に立て掛けておいた巨大な剣を背負い、グレンはその場を離れた。

魔物に備え、グレンは常に武器を手放さない。 剣を扱える彼の存在は、この村にとって用心棒とも言えるべきものだった。






村の外れで会った村人から得た目撃情報。

それによって居場所を読み取ったグレンは、北へ少し行った所の岩場で子供達を発見した。


「村の北側には行くなって言い付け、忘れたのか?」

「……ごめんなさい」


素直に謝ったのはニック。

相手の恐さを承知の子供なら、それは当然の行動と言える。


「レグザ、お前には父さんがいつも言い聞かせてる筈だが?」

「……だって……」

「だって? 言い訳なら聞きたくないが?」

「ち、ちがうよ! …ここにしか咲かない花………お母さんにあげようと思って……おまつりだし……」


声を窄め、恥ずかしそうに俯くレグザ。

村への帰路を辿りつつ、グレンは息子の頭にポンと手を置き、そして優しく撫でた。


そうして村まであと少しという所で、突然レグザが立ち止まる。

何かを感じ取ったように振り返り、身動き一つしない。


「どうした?」

「なにか……来る……いっぱい……」


妙に怯える息子の様子から、グレンも咄嗟に振り向く。

しかし、その視線の先には何も見えず、別段変わった様子も窺えない。


「何が来るって………ん?」


その時、グレンは何か聞き慣れぬ音を耳にした。

それは継続的に聞こえる地鳴りのような音。 加えて、足元に感じる僅かな振動。


「まさか……」


直後、巻き上がる大量の土煙を視界の先に捉えて。

姿までは目視出来なくとも、グレンはその正体を確信する。


「レグザ、ニック! 村へ走れ! 皆を海岸へ避難させろ!」

「え……」

「魔物の大群だ! まず村長に伝えろ! 早く行け!!」


突然の怒号に戸惑うニックを、1つ大きく頷いたレグザが手を引き走り出す。


子供達を見送りつつ、背より大剣を抜き取るグレン。

迫り来る脅威に対し前方を見据え、遭遇ポイントを少しでも離す為その場から移動する。

決して村には踏み込ませない。 その強い意志こそが、無駄な争いを好まぬ彼の戦意を奮い立たせていた。






急いで村に戻ったレグザとニック。

グレンに言われた通り、2人は最初に村長の元を訪れていた。


「本当なんじゃな!?」

「うん! きっと今ごろお父さんが止めてくれてる! 信じてよ!!」


言って必死に詰め寄るレグザ。

とても悪ふざけとは思えぬその様子から、村長は子供達の言葉を信じる事にした。


そうして――

村長の呼び掛けにより、村人全員が広場に集められた。

子供の悪戯ではと疑う者も居たが、丁度そこに、逸早く真偽を確かめに行っていた村人が戻る。


「すげぇ数の魔物だっ!! グレンさんが食い止めてっけど…ありゃ多過ぎる!!」


祭り直前で浮かれていた皆に緊張の糸が走る。

無防備なこの村に魔物が侵入する事は多々あったが、群れを成して来た事は1度も無かった。


「大丈夫かな……グレンさん」

「海岸へ逃げろって言ってたのか!? どうするよ!」

「おい、数はどれ位だった!?」

「分かんねぇよ……大小色んなのが居たし……危なくて近付けねぇし……」

「…種類にも依るが、幾らグレンさんでも限度が……でも頼るしかないのか……」


かつて無い状況に、戸惑いを隠せない男達。

女達も例外ではなく、その雰囲気を読み取った幼子も泣き出す始末。

そんな光景を見ていた村長が、険しい顔つきで皆の前に進み出る。


「女、子供は海岸へ急げぃ!! 残りの者は武器を持ってグレンの元へ!! 村を守るんじゃ!!」


終始ざわめく一同に、村長の厳しい言葉が飛ぶ。

その指示は、忘れかけていた大事なものを皆の心に呼び覚ました。

各々がこの村を唯一の故郷としており、自分達の家を自分達で守るのは当然の事だった。


「よーし! 女は子供を守れ!! 男は全員で村を守るぞーーーーーっ!!!」

「おおおおおおおおおおお!!!!」


少数故の結束力がこの村にはあったが、圧倒的に足りないものが武力。

僅か10数人の男達が手に取ったのは、狩猟用の木製槍や農耕用の鍬に過ぎないのだ。

それら粗末な武器を扱う腕も足りない事は誰もが自覚していたが、村を守るという彼らの決意は揺るがない。


女達は子供を連れ南へ。 男達は武器を取り北へ。

共に戦う気でいた村長だが、危険だと制止されて悩んだ末、已むなく広場に残った。

自身の非力さを痛感しつつ避難する訳にもいかず、男衆に万が一の事があれば最期を共にしようと覚悟していたからだ。


「美味い肉を狩ってきたが……食事どころではないようだ」


そんな台詞と共に、獲物を引っ提げ広場に現れた1人の男。

咄嗟に顔を上げた村長は声の主を見据え、少し驚いた表情を見せる。

早朝の内に森へ向かった男の存在を完全に忘れていた故の反応だが、それもその筈、彼は唯一この村の者ではなかったのだ。



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