表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/70

第03話 魔物の巣窟

洞窟までの距離は、国境から村までより遥かに近く。

道中、小さな森で1度だけ出会った魔物は昆虫系統に分類されるカマキリの化け物。


これが意外とデキる奴で、実際のカマキリとの比率がまた半端ない。

小刻みに首を動かし威嚇する際の、その顔の位置はオレの目線の遥か上。 体高はおよそ3メートル近くあるだろう。

この国に来てから現時点ではとりあえず最強だが、まぁオレの敵じゃない。

お得意のカマ攻撃を避けて胴体に一撃、これで終了。


例の通りビビって木陰に隠れていたアリィ。

そんな彼女の実力の程を知りたかったオレは、確認の意味を込めて言ってみた。


「1度、魔法ってやつを見てみたいんだが」


対するアリィの返答に、オレは何ともガッカリさせられる。

何でも火と風の初級魔法は既に習得済みらしいが、その魔力を練るのにやたら時間が掛かるらしい。


本人は難しいからと言うが、単に腕が未熟なだけだろう。

そうと判断したオレは、現時点でアリィが全く戦力外のヘボ魔道士だとキッパリ諦めた。




洞窟に着くと、立ち止まったアリィが何やらゴソゴソと。

肩に下げた布製バッグから取り出したのは2本の棒。

その先端には白い布が巻かれ…成程、これは洞窟を探索する上での必需品だ。


すると次の瞬間、アリィの指先から小さな火がボッと。


「お、すげっ魔法!? なんだ使えんじゃん!」

「もーーうるさい、これ位ならすぐに出せるの」


言って2本の棒に火種を近付ける。

正直驚いたが、魔道士の便利さってヤツを知った瞬間でもある。

魔法によって灯された松明の火をかざし、狭い入口から洞窟内部へ。


当初より、魔物に出会えば逃げの一手を選ぶと断言していたアリィ。

対し、逃げの二文字など辞書に持ち合わせていないオレは、最初にしっかりと念を押しておく。


「逃げるなら奥へ、とにかく進め、魔物は全部オレに任せろ」


無言のまま、首を1度だけ縦に振るアリィ。

その返事を確認しつつ、漆黒に包まれた細い道をひたすら突き進む。


肩を並べ歩く2人。

一方は意気揚々と、一方は意気消沈といった感じで。


だが数分後、オレはこの任務に空腹で挑んだ事を大いに後悔する。






「逃げろ逃げろ逃げろ!! 奥へ走れぇぇぇぇぇぇっ!!!」

「キャァァァァァァァァァァッ!!! いいいいイイヤアアアアアアッ!!!!」


予想を上回る数の魔物に遭遇。

途中まで何の気配も感じなかったのだが、急に広くなった空間に出た所で一気にドワッと。


その内容は、というと。

大グモ5~6匹に、長さ4メートル程の不気味ムカデ2匹と、広げた両翼が1メートル程になる化けコウモリ8~10匹。

しかし群れを成すというのは余り例を見ない事で、これじゃまるで魔物さんちの大家族。


そしてこの視界の悪さ、というか暗黒ステージ。

個々に見れば雑魚に過ぎないが、余りの緊迫感溢れる戦場で、流石にオレのテンションも限界突破。

つまり、確実に空腹も増す。


「気を付けて進め!! あと松明落とすなよアリィィィッ!!!」

「キィィヤァァァァァわわ分かったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


「っしゃ! どぉらっ!!」


左手に松明、右手に大剣、そして対・複数戦。

そりゃ長く1人旅をしていれば、こういった状況は間々ある。

大剣特有の大振り動作モーションを使えないのは残念だが、短く握り素早く扱う片手持ち斬術スタイルも心得ている。


「来いやぁっ!!」


迫り来る相手に次々斬り掛かる。

クモの伸し掛かり攻撃を避け、ムカデの頭突きを足裏で受け止め、うっとおしいコウモリ共は蹴りではたき落とす。


完全に囲まれているが所詮は魔物、まるで息が合っていない。

誰の合図も指示も無い、統率力ゼロ集団の攻撃など決して食らわない。

――ましてムカデとか、気持ち悪くてソフトタッチもされたくねぇ…。


「ふんっ!」


ゴスッ、と。

グロさ満開ムカデ君の背に振り下ろす。

通常武器なら、どの種族が相手でも急所を狙わねば一撃で仕留める事は難しい。

だが、オレのパワーと大剣のコラボならば話は別。 例え片手持ちでもその破壊力は並みじゃない。

固い皮膚に覆われた背中も、頭部も、ヒットさえすれば大抵は即死だし、最低でも致命傷を与えられる。




「ハァ…ハァ…」


流石に息もあがってきて、しかし残りはコウモリ2匹にクモ1匹。

この状況で予想するのは増援の有無だが、まぁ体力には自信があるし、右手もダルいが問題無い。

――いや、腹が減るのは困る。


「おらぁ!」


ベシッ、と。

バタバタと耳障りな羽音で飛び回る2匹のコウモリを鮮やかな回し蹴りで仕留める。

残るはクモ1匹だが、さぁこれから華麗なフィニッシュという、この瞬間がまた堪らなく痛快。


「そぉらメインディッシュ!」


バズンッ、と。

真横に薙ぎ払った斬撃がクモの顔面を潰す。


最後という事で、右腕渾身の力を込めた一撃をプレゼント。

いつもながら醜い断末魔をあげ絶命したクモを含め、他の連中も既に息絶えている。

今回ばかりは返り血を避ける余裕もなく、オレの衣服は血と体液で相当汚れている事だろう。

これは早急に風呂を浴び、服も綺麗に洗いたい、そんな気分。


「なんだ、デザートは無しか?」


気になる増援の気配は無い。

だが1人で格好付けている場合じゃなく。

もう悲鳴は聞こえないが、奥へ逃げたアリィを護衛する役目はまだ終わっていない。


松明を口に咥え、両手で握り直した大剣をビュっと。

すると振り下ろした先に、付着していた汚いモノが無数に飛び散る。


本日もイイ働きをしてくれた親父の形見。

それを背中に納め、口の松明を左手に、と同時に前進を再開。

耳を澄ませ、精神を集中し、アリィが走り去った方向を思い出し、更に足運びを早める。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ