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第44話 キングロード

「ほれ、食え」

「キュウ」


走る馬車内。 美味そうにフルーツを頬張るワンダを見つつ、景色にも目を移す。 

ノルディーを発ってから約半日。 そろそろ日没も近いが、周囲には町も宿も見当たらない。 目的地もまだ遠い。

――こりゃ久々に野宿かな…でも女には危ないしな。


次の目的地というのが王城都市カルバナ。

ノルディーの真北に位置するこの国の首都で、そこに向かう理由はマコの占い結果にある。


その前に、2つ目の内容にあった 『宿命を背負いし者』 についてだが。

それが誰の事を示すのか、アリィ本人はまだ知らない。 因みに、口が軽そうなのでチックにも話していない。

唯一、全てを知っているホヴィンと相談した結果…取り敢えず母親の死も含め、今は隠しておくべきという結論に至ったのだ。


そして本題。

同じく2つ目の内容にあった 『魔力の満ちた場所』 について。

こちらは全員参加のミーティングの末、その表現の示す場所がローベルグ西部の町ラスターシャではないかと予想。

そこは魔道の町と呼ばれ、数多くの魔道士が隠れ住む秘境とも言うべき場所らしい。


そうして行き先は決まったものの、ラスターシャは無法地帯と呼ばれる特殊な地域に在るらしく。

そこに踏み入る為には正式な立ち入り許可が必要だという。 つまり首都に向かう理由は、国王から直々にその許可を得る為。


各地の大型都市から首都へは、舗装された幅広の道が敷かれていて。

それはキングロードと呼ばれるこの国最大の主要ルート。 年に1度、国王主催・参加のパレードに用いられる事からその名が付いたらしい。

言ってみれば 「立派な街道」 という感じで、道沿いには国境と見紛う程の高壁と、延々と張り巡らされた魔法障壁も確認出来る。

――セフィに同意…金かけ過ぎだっての馬鹿国王。


金で思い出したが、今回移動に使っているのは大型馬車(別名、金持ち専用馬車)。

内装&外装は無駄に豪華で、御者2名付きに加え、前後に分かれた座席には合計10人は座れる程のゆったりタイプ。


金欠のオレ達が何故こんな高級馬車に乗っているのか。

答えは単純。 武術大会で有名になったセフィが、更には町を救った英雄まどうしの仲間だと勘違いされたからだ。

保安兵から報告を受けた国側がこの馬車を手配してくれた上に、低額だが謝礼金まで出してくれて。


正に至れり尽くせりな結果を招いた訳だが、セフィ本人は出発寸前まで乗車を渋っていた。

まぁ気持ちは分かるが、旅を続ける為には馬車も金も必要だし、礼を受け取るべき魔道士が既に立ち去っていたのだから仕方ない。


『世界を救う旅に国民の税金を役立てる、最高だと思わないか? 貰える物は貰っとけばいいさ』


奔放な価値観を曝け出したオレの適当発言。

その柔軟な思考がセフィを頷かせたらしく、いざ馬車に乗り込む場面で彼女の足枷は外れた。 


そんなこんなでノルディーを発った馬車は、今も順調に北へ進行中。






「そういえば、マコさんって何才なんですか?」


沈黙の中、唐突に切り出したのはアリィ。

オレも気になるその質問で、少々気まずかった車内の雰囲気を変えてくれそうだ。


「二十と二」

「22!? 大人だぁ…ジョセよりまだ3つも年上だったのかぁ」

「アリィさン、お幾ツ?」

「16でーす、最年少でーっす」


そんな受け答えと共に満面の笑みを浮かべて。

最近どこか元気の無かったアリィだが、何らかの悩みが解消されたのか、心の迷いが吹っ切れたのか、一見するとそんな感じ。

ともあれ彼女の笑顔を見るとホッとする。 反面、母親の死を知った時の反応なんかを想像して胸が痛んだり。


「あれ、レグザは21だけど…チックさんって幾つ?」

「20才! それとさ~俺の事も呼び捨てでオッケーだかんね、アリィちゃん!」

「う、うーん…それはちょっと…っていうか、ちゃん付けされるのやだなぁ」

「ハッハッハ!! やっぱ悪党は嫌われる運命ってかぁ!?」

「ちょっ、オッサン!! 俺ぁもう盗賊稼業から足を洗ったんだぜ!?」

「足、洗っタ?? チックさン、足、汚れテいタ? 臭かっタ?」

「いやややや違う違う! 違うってマコさん! そうゆう意味じゃなくて…完全に盗賊を辞めたってこと!」


――ふん、スリ常習犯が何を言う。

なんて疑うオレを余所に、いじられ役のチックを中心に盛り上がる車中。

談笑に加わるアリィの横顔を見つつ、1人静かに景色を眺める隣のセフィが気になって。


「…考え事か?」

「…早く…魔王の居場所を突き止めなければ」


誰より危機感を持ち、常に冷静なセフィの漏らした言葉。

その胸に秘めた想いを、視線は外に向けたままでそっと打ち明けてくれた。


「この国だけじゃない…他の国でも…魔物の不穏な動きは始まっている…きっと」

「…かもな」

「小さな町や村は…守りが薄く保安兵すら居ない…多くの死者が出ているかもしれない」


つまり、セフィが案じているのは世界各地の情勢。

これまで余り深く考えた事は無かったが、言われてみれば他国の現状も気になる。


「お前の両親に…私の弟…そしてアリィの母親……もう人の死は御免だ」

「…そうだな」


そんな言葉しか返せない自分。 少々もどかしい。

依然そっぽを向く彼女の表情は窺えないが、その悲痛な叫びは充分に伝わってくる。


何というか、身が引き締まる想いだった。

両親の仇討ちなんて偉そうな目的を掲げながら、オレのやってきた事は雑魚敵を片っ端から倒すのみ。


考えてみれば、この国に来る前のオレは実に小物だった。

仲間なんて面倒だと笑い飛ばし、決して自分以外の者を信じず、己が最強だと自惚れていて。

6年も世界を巡りながら何一つ学べていなかった。 親の仇も二の次で、自分の腕と活躍に酔い痴れていたに過ぎないのかも。


この時期にローベルグを訪れたのは幸運。

今こそが自分にとっての転機。 愚かさを悔い改め、新たな自分に生まれ変わる好機。


「セフィ、オレ…もう誰も死なせない。 …いや、少なくとも…この手の届く範囲の人は…」

「……」

「えっと…上手く言えないけど、まず仲間を守る。 それで、魔王ぶっ飛ばして…この世から魔物を消し去って…死とか、涙とか…少しでも減らす」


我ながら頼りない宣言、だと思った。

しかも呆れる程に意味不明で、話の要点が自分でもよく分からない。


「なら…私はお前を守…」

――ヒヒィィィィンッ!!!!

「え…」


絶えず続いていた振動が止まり、馬の雄叫びと共に急停止した馬車。

最後セフィの言葉を聞き取れなかったが、それを聞き返す前に別の声が邪魔をした。


「着きやしたぜー」


言って1人の御者がこちらを覗き込んでいる。


「え…もう着いたのか?」

「んーや、まだ首都とちゃいます。 キングロードの中間地点、癒しの町イーファでっせ」


成程、立派な街道には宿場町的なモノもちゃんと在るらしい。

――やっぱ女の子に野宿はキツいし、これで安心安心。


気付けば辺りはすっかり暗くなっていて。

そんな夜道に皆揃って颯爽と降り立ち、点々と散らばる街の灯りを眺めるのだった。



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