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第42話 先を見据える

滞在期間の長い町は、ある意味ホームの様に思えて。

オレにとってノルディーという町は、そんな感じの場所になっていた。


そのホームへ戻る為、東に進路を取った馬車が深い森を突き進む。

行きと同じくホヴィンが馬を操り、膝の上にワンダを乗せたアリィが右隣に。

そして――


「ワタシ、馬車乗ル、久シぶり!」


目を輝かせ、無邪気な笑みを零すマコが左隣に。

この馬車は通常より小型で横一列に並んで座るしかないのだが、女子2人に挟まれると、その密着感たるや半端無い。


ミクサの住人であるマコが同行している理由。

それを説明するには、少し時を溯る必要があって――






巨鳥の爪を持って下山し、真っ先に向かったのはマコの家。

玄関先で迎えてくれたのはリトと名乗るマコの姉。 顔はよく似ていたが、妹と違い清楚で物静かな雰囲気だった。 

家の中へ案内され母親にも会わせてもらうと、オレ達の事を紹介する上でマコは家族に全てを話した。

山頂に住んでいた巨鳥のこと。 その爪が病気を治せる万能薬だということ。 オレ達の協力を得て、遂にソレを手に入れたこと。 

そして、父親の行方を知った事。


全てを語り終え、マコが見せたのは父親の遺骨。

真相を知った母親と姉が泣き崩れ、そこにマコも加わって。

悲しみに包まれた部屋で、部外者のオレ達が非常に居辛かったのは言うまでもない。


「お父さんと娘さんが苦労して手に入れた薬、どうか飲んであげて下さい」


空気を読んで、暫く待った末に発したオレの第一声。

しかしここで肝心な事を忘れていたのを、次にアリィが呟いた一言で痛感する。


「爪を削った粉が…そのまま薬になるのかな?」


鋭い質問だと、その場の誰もが思ったに違いない。

これまで、誰も薬の調合方法にまで気が回らなかったのだ。 

情報源であるマコに確認すると、主成分が巨鳥の爪という事を知るのみで、その他の必要な材料については分からず終い。


「お父サン、なら…知っテいたカモ」


行き詰まった状況の中、ある打開策を見出してくれたのはリトさん。

試しに爪を削った粉だけを飲ませてみようかと、そう考えていた自分の軽率さを呪った。


「知ってイタなラ、手帳か何か、書き留めテいたカモ…」

「手帳…ア!」


姉に言われ、マコが何かを思い出した様子。

もしかしたら父親の荷物が何処かに落ちていた可能性がある。

急いで下山した事を悔やむオレの目に、懐から取り出した短剣を念入りに調べるマコの姿が映って。


「あっタ!」


姉妹の機転により、状況が打開された瞬間だった。

父親の形見である短剣の柄から、薬に必要な全材料と調合方法を記したメモが見つかったのだ。

その材料というのが特殊な漢方薬の類らしいが、この町なら格安で手に入ると言い残したマコがメモを片手に街へ走った。


数十分後――

驚くべきスピードで戻って来たマコは、姉を連れて台所に籠もった。

薬の調合に関わるのが恐かったオレ達は、マコの母親と談笑を交わしつつその完成を待った。


十数分後――

姉妹が調合した薬は、不気味な色の液体に仕上がっていて。

ソレが本当に奇跡の妙薬なのかと、揃って疑惑の目を向ける。 しかし母親は違い、娘達が作った薬を快く受け入れた。


薬の効果が現れるまでには一晩かかる。

効能を確認する為、宿探しへ出向こうとしたオレ達を呼び止めたのはマコの母親。

幾ら薬探しを手伝った者とはいえ、物騒な大剣を担いだ若僧や、むさ苦しい巨漢をあっさり宿泊させようと言うのだから、実に寛大な人だと思った。




そして翌朝――

どうやら薬の調合は成功していたらしく。

前日とは打って変わって良くなった母親の顔色と、元気に立って歩くその様子から、薬の絶大な効果を窺い知る事が出来た。

家族一同が胸を撫で下ろし歓喜に震える中、オレは唐突にノルディー帰還の旨を告げた。

すると、母親とリトさんが何か必死に訴え始めて。


「ドウかお礼ヲ、させテ下サイ!」

「少ない、デスが、このお金ヲ…!」

「今晩ゆックリしテ行って下サイ!」

「せめテ朝食デモ、御一緒に!」


だが断った。

それよりこの親子。 余りに声が似ていて、どちらが何を言ったのかまで覚えていない。


とにかく、当初から薬さえ手に入れば即ノルディーに戻ると決めていた。

朝食位はご馳走になろうとアリィ達からも言われたが、異常なまでに拒んだオレ。

セフィを置き去りにしてから直に丸1日が経つ訳で、一刻も早く戻って元気にしてやりたいのだ。


「レグザさン! とテも、感謝! 感謝感激!!」


それまで黙っていたマコが、深いお辞儀と共に声を張り上げて。


「お母さん、元気になって良かったな。 でも一応、医者に診てもらっとけよ?」


礼を言われる事に慣れていないオレは、必要以上に素っ気なく言い返す。

家族と同じく、マコも何か訴えたいような目をしていて、オレはアリィ達を促し早々に家を出ようとした。

だがその時――


「恩は返ス! コレ、トワセム家の習ワシ! ワタシ連れテ行っテ、下さイ!」

「な…」

「お姉チャン、お母さンのコト、お願イ! お母さン、許しテ!」


驚きはしたが、言っている意味は即理解。

断る理由は無いのだが、透かさず家族に同意を求める時点で、もう決定事項として扱われている様な気が。


「分かっタ任せテ。 お母サンと2人、コノ家で待っテル」

「マコ、貴女もう立派ナ大人…止めませン。 デモ恩返し、ダカら決しテ、迷惑をカケてはイケませんヨ」

「ハイ!!」


オレの返答を待つ事なく、3人共すっかりその気で。

強引というか、マイペースというか、この家族…色んな意味で恐ろしい。 いや逞しいと言うべきか。


アリィとホヴィンも苦笑いを浮かべており、どうやら同じ事を考えていたらしく。

腕利きの弓使いとしても、気持ちを受け取る意味でも、彼女を仲間として迎え入れる事に誰も異議を唱えなかった。

すっかり忘れていたが、彼女は占い師でもあり、加えて体力自慢の肉体派。 万能さではホヴィン以上の逸材かもしれない。






話は現在へ戻り――


つまりは、そうゆう事。

恩返しを望むマコの熱意にトワセム一家の押しが加わり、彼女の同行を受け入れたという訳。 


4人を乗せた馬車は、道無き山間をひた走る。

行きと同様、やはり魔物の気配は感じられないが、出現しない=生息しないという公式が安易に成り立つ訳ではなく、何処かに密集している可能性も充分に考えられる。


道中、アリィは1度もマコに話しかけない。 苦手なのか、まさか嫌っているとでもいうのか。

そして、オレにすら話しかけず、常にワンダと遊んでばかりのアリィが少し気に掛かる。

マコは相変わらず元気だが、服装のせいか最初に会った時と随分イメージが違うのは気のせいだろうか。 見た目は年上に見えるのだが、中身は思ったより子供っぽいようだ。

御者役のホヴィンは気楽なもので、たまに 「ハイヨーッ!」 なんて叫びつつ鞭を振り回していて。


ふと今後の事を考える。

セフィが復帰すれば、5人+1匹という大所帯になる訳で。

その人数で旅を続けるとなれば、頼れるリーダー的な人物が必要とされる。 つまり纏め役だ。

仮に全員で話し合って相応しい人物を選出する場合、おそらくだが必然的に 「レグザ」 と言われてしまいそうで。


それはマズい。 非常にマズい。

仲間に対する気配りみたいなモノは自然と身に付いて来たが、そんな大役は御免だ。

常に全員へ気を配り、人間関係を観察し、拗れていれば積極的に対応する。

――そんな役回り…損な役回り…ぁ。


くだらない心の声を捻じ伏せたオレは、自然と次の行動に。

両側の2人に向け、意味の無い質問を投げ掛けたのだ。 話題を提供する意味で。

極めて気苦労を嫌うオレだが、いつの間にか進んで対応している自分に全く気付いていなかった。



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