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第29話 vs 巨漢ディロス ~イメージって大切~ 

折角の晴れ舞台だというのに、怪しげな雲行きの天候。

珍しく厚い雲に覆われた空模様を見ると、胸騒ぎというか、心がザワザワする。

だがこれは単に、迫り来るセフィとの対戦を心の何処かで躊躇っているオレの弱さ故の事だと、自身に強く言い聞かせ喝を入れる。


『Bブロック1回戦の第13試合、勝者はパトリオ選手ぅーーーーー!!! お~っとぉ! Aブロックの方も決着が着きそうでーーーっす!!!』


―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


曇天になど全く左右される事なく、順調に進む予選トーナメント。

戦況に変化が訪れた時、または決着後、いちいち巻き起こる客席からの大歓声。

まだ予選にも関わらず、会場が異常な盛り上がりを見せる最大の要因として、実況のお姉ちゃんが気合い充分って事にある。


その声は巨大拡声器を通し、控室にまで余裕で届く大音量。

出番が来るまで昼寝でもしようかと考えていたのだが、とても眠れる環境ではない。


「16試合目だろう、もうすぐだぞ。」

「お、やっとか。」


セフィに促され、立ち上がって大きな伸びと欠伸あくびを1回づつ。


対戦表で数えるのも面倒なので係員に聞いたところ、Aブロックは114名、Bブロックは63名だと分かった。

つまり1回戦だけでAブロックは57試合、Bブロックで31試合(奇数人数の為、1名は不戦勝で2回戦の第1試合へ回される)もあるのだ。

セフィはAブロックの22試合目らしく、オレはBブロックの16試合目。

もうとにかく、待つ事がこれ程までに苦痛なのかと思い知らされる大会である。


「油断するなよ、もし相手がプロの格闘家なら勝ち目は薄いぞ……」

「プロ? おいセフィ、オレを誰だと思ってんだよ。」

「まぁ……とにかく油断はするな」

「おう、剣は預かっててくれ。」


実況は嫌でも聞こえてくるが、進行具合など全く把握しておらず、控室を出ると速攻で係員に捕まった。

どうやらBブロック15試合目がもう始まっているらしく、早く所定の位置に待機してくれとの事。

――ふぅ……さんざ待たせておいて急かすなっての。




『続きましてぇーーーBブロック1回戦の第16試合でぇーーす!!』


指定された待機場所で、肩を並べた対戦相手に高い位置から睨まれる。

相手はオレより首1つ分はデカい筋肉モリモリ男。 レスラーですね、分かります。


『ディロス選手対レグザ選手の闘い!! さぁ両選手どうぞぉーーーーー!!!』


そこで背後に居た係員に背中を押される。

登場するタイミングまで決まっているとは、面倒な事この上ない。


『おっと~これまた体格差のある組み合わせ!! 一体どんな闘いが繰り広げられるのでしょうか!!』


目指す戦場にリングなどは存在しない。

地面が剥き出しの円形バトルフィールドを丁度2分割した半円状の舞台で、つまり場外負けといったルールも無い。


客席からの耳触りな歓声と、対戦相手からの鋭い視線。 

冷静に、しかし闘志を滾らせ所定の開始位置に着くと、実況からの合図を大人しく待つ。


『それではBブロック1回戦、第16試合!! 始めぇ!!! …おっとぉ! ここでAブロックのリッケル選手がぁ…!!』


――おいおい……実況さん、働き過ぎだろアンタ……


「おらおらぁ!! 余所見してるとあの世行きだぜぇ!!」

「!?」


ゴスッ!!


不意打ちとも言える相手のラリアットはオレの首元へ直撃。

完全に油断していた為、その衝撃で後ろへ2、3歩下がってしまったが、そこで相手が意外と素早い巨漢だと理解する。


『これはディロス選手の凄まじい一撃ぃーーー!! レグザ選手、まともに喰らったぁーーーーー!!』


「実況うるさいな……でもやるじゃんオッサン」

「なっ……」


驚きはしたものの、ダメージなど皆無。

透かさず前に踏み出し、見事に分かれた腹筋目掛けて素早い拳をドスッと1発。


「ぐはっ…!!」


『おっとぉレグザ選手!! お返しと言わんばかりの反撃だぁーーーーー!!』


隙だらけの顔面を狙わず、敢えて堅固な部位を狙ったのは一撃で実力の差を思い知らせる為。

勝利条件というのが相手に敗北を認めさせる事なのだが、気絶させても勝利だと聞いた事を今になって思い出す。


「ぐっ……てめぇ……中々良いパンチ持ってんじゃねーか……!」

「そりゃどうも」


明らかな強がり。 そして、見るからに苦しげな表情。

まだ強気な発言が出るとは流石レスラー(だと思うけど)、それなりに頑丈なようで。

だが、辛うじて立っている感が否めない故、透かさず歩み寄り屈辱でも与えてみようかと。


「降参しとく? もうちょい足掻く? どっち?」

「…て、てめぇ!!!」


怒りを露に両腕を広げた相手は、ソレを腰に絡ませてきて、更にオレの体をヒョイと持ち上げる。

密着感たっぷりの体勢で気色悪い限りだが、実はわざと持たせてやっただけの事。


「へっ! 舐めんなガキがぁ!! 捕まえりゃこっちのもんだぁ!!」


『おーーーっとレグザ選手!! これはピンチかぁーーー!!?』


グイグイと引き付け、締められる両腕の力。

どうやら背骨でも折ろうって気らしいが、何とも歯痒い軟弱っぷり。

腹部に感じる生温い鼻息に耐え切れず 「見せ場はここまでネ」 と心で呟き次の行動へ。


「う……うぇ……ぬあああああああああ……!!」


自由な両手を使って “こめかみ” をグリグリ弄んでやると、呻き声と共にその力を緩めてくれて。

束縛が解け、地に足が着くと同時に相手の頭をガシリと掴み、今度は逆にその巨体を持ち上げる。


「ぬぁ……うぉ……おおお……おぉぉぉ……!」

「どうした? 力自慢だろう? オレなんかに力で負けるのか?」


『これはすごぉーーーーーいっ!!! なんとレグザ選手! ディロス選手の頭を掴み取り、その巨大な体を持ち上げたぁーーーーーーっ!!!!』


なんて細かい実況だろうと呆れつつ、更にビビらす意味で決め手の脅し文句を一言。


「もう反則負け覚悟で、このまま頭を握り潰そうと思うんだが……どうだ? 一遍死んでみる?」

「ま、ままま負けでいい…!! 降参降参!!!」


その言葉をはっきりと聞き取った上で、素直に手を放す。  

ドサッと崩れ落ちた相手は尻餅を付いたまま後ずさり、怯え切った目でオレを見てくる。

――殺す訳ないじゃん。


『審判がディロス選手の敗北宣言を確認しました!! Bブロック1回戦の第16試合、勝者はレグザ選手ぅーーーーー!!!』


―――わあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!


耳を劈く大歓声に見送られ、早々と戦場を後にする。

予想外に目立ってしまった事を後悔したが、もう時すでに遅し。

控室まで戻って来たオレは、待機中のほぼ全員から物凄い眼差しの注目を浴びてしまう事に。


「あぁ……やっちまったぁ……」

「お疲れ、どうした? 快勝だったんだろう?」

「いや、まぁそうなんだが……」


不思議そうに見つめるセフィに、今の本音を言うべきか否か迷った末に。


「最初に怪力的なイメージ持たれると、後から見せる剣士的なイメージが低くなりそうでさぁ……」

「………」

「いやほら、怪力拳闘士レグザとか呼ばれたら嫌じゃん?」

「……妙な所にこだわるんだな……お前……」


結局、この想いを理解してもらえぬまま、予選トーナメントは更に進む。

セフィの出番もそろそろ近い。


 

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