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第27話 少女と幼女の最恐コラボ

「よーし! 今日は前祝いだ! 派手にやろうぜぇぇぇっ!」

「待て……何を祝う気だ……」

「あーあ、レグザが壊れちゃった。」


清々しい朝、まだ人も疎らな繁華街。

両脇から揃って冷やかな視線を飛ばされたが、そんな事は別に気にしない。

大会を前日に控え、今日のオレは朝から異様なまでに上機嫌。 理由は……まぁ1つじゃない事は確か。


2人を引き連れ向かう先はマッチョ酒場(オレが命名)。

前祝いなんて宣言をしたが、別にパーッと飲もうという訳じゃなく、つまりオレの目的は3人揃っての魔物退治。

以前は無かった情報も、2日経てば新たなモノが得られるなんて事は多々ある。 それが酒場って場所だ。


「今のところ尾行は無し…か……」

「尾行?」

「あ、いや……セフィを操ったあの魔術師、野放しにしちまったから……」


独り言のつもりが本人に聞かれてしまい、少々焦るオレ。

ヤツを置き去りにした責任みたいなモノを感じ、宿を出てから尾行には注意を払っていた。

因みに、セフィってのはジョセフィーンの事で。


――――――――――


「お前は……私の名をずっとそう呼ぶつもりか? …呼び辛くないのか?」

「いや全然。 そんな風に考えた事もなかった。 まぁそうゆう名前な訳だし。」

「ほら…あれだ……戦闘中でも呼び易いように、略して構わないぞ……」

「ふむ、じゃあ間を取ってセフィって呼ぶ事にする。」

「随分と斬新な発想だな……」

「そうか? だってジョセよりセフィの方が可愛いし」

「……真顔で言うな」


――――――――――


…とまぁ、昨夜のこんな遣り取りで安易にオレが決めた呼び方。

急にセフィと呼び始めた事をアリィに鋭く突っ込まれたが、そこはまぁ適当に答えておいた。






「自宅も兼ねてるから構わないんだが、営業中に来てくれた方が嬉しいんだがね……経営者としては」


酒場へはこれが2度目の訪問。

文句を吐きつつ、店主は快く迎え入れてくれて。

以前と同じくカウンター席に3人並んで腰掛ける。 出されたのは、これまた同じく3杯のコーヒー。


「魔物の情報が欲しい、また何か無いか?」

「具体的な情報じゃないが……昨日の客から気になる事は聞いたな」

「お、どんなの?」

「最近、各地で魔物の動きが活発になってるらしい。 群れを成して町の防壁に突っ込んで来たり、国境沿いでも魔物が群れて暴れたり、色々ゴタゴタがあって討伐隊も手を焼いてるんだとよ。」


魔物――

突然変異により誕生、もしくは進化を遂げた生物。

長い年月をかけ繁殖を繰り返し、今や自然界本来の生物よりもその数を増したと言われる。

野山の昆虫、野生の動物とは似て異なる存在。 人を襲い、人を食らう凶悪な怪物。

百科辞典で調べようと、何処の偉い学者に聞こうと、魔物についてはそんな答えしか得られない。


店主からの情報を聞き、益々オレの自論が有力なのかもしれないと信じたくなる。

つまり地上に存在する意味だけでなく、自然界に散らばっているとはいえ、ヤツらは何者かの意志の元に行動を起こすのではないかと。


「物騒な世の中になったもんだ……で、やっぱ魔物が集まってる場所の情報とかは無し?」

「無いねぇ……まぁ明日の大会に出るなら、今日はゆっくりすればどうだい?」

「うーん……」


そこで本来の目的に考えが及ぶ。

これまでの6年間で各地を回り、唯一の手掛かりである自らの出身地を告げ、両親を殺した相手の存在を探って来た。

だが正直言って、その方法で手掛かりが見つかるとは思えない。 これまでに何一つ成果をあげる事が出来ていないからだ。

まず、オレの生まれ故郷の村を知っている人物にすら未だ出会った事が無い。

しかしながら、どうやら今日はソレに時間を費やす事になりそうで。


「ご馳走さん、今夜はゆっくり飲みに来させてもらうよ。 別の情報収集も兼ねて。」

「お、待ってるよ。 でも嬢ちゃん達は連れて来るなよ?」

「当然当然」


言いつつ、2人を促し席を立つ。

その時、店の奥からドタドタと慌しい足音が聞こえてきて。


「パパ~!!」


足音に勝る甲高い呼び声。

勢いよく店主の元に駆け寄ったのは1人の少女だった。


「こ、こらファナ! 店には出て来ちゃ駄目だって言ったろう……!」

「だって~ママがあそんでくれないんだも~ん」

「お客さんが帰ったら、パパは仕入れに出掛けないといけないんだ。 それから遊ぼう、な?」

「ヤダ! いまがいい~!」


巨体の店主が抱き上げた4~5才位の少女。

そりゃ娘が居ても何ら不思議ではないが、その余りに不釣り合いなツーショットに思わず笑みを零すオレ。

――しかもパパって……


一方、親子の微笑ましい光景に違った意味の笑みを零していたアリィ。

透かさず少女の傍まで歩み寄って。


「キャ~可愛いぃぃぃ!」

「おねえちゃんだ~れ?」

「私はアリィ! よろしくね~!」

「わたしファナ! アリィおねえちゃんあそぼっ!」


店主から飛び降り、抱き着く相手を乗り換えた少女は瞬く間にアリィと意気投合。

何だか異様なまでに騒がしくなった店内で、頭を掻く店主と、雰囲気に飲まれ店を出られなくなったオレとセフィ。


「参ったな……すっかり懐いちまった。 よし……この際だ、ちょっと娘の面倒見ててもらえるか?」

「え…」

「まぁゆっくりして行きなって、後で昼飯でもご馳走するさ。 妻にも話しておく。」

「はーい!」

「いや…え、ちょ……」


アリィの返事を聞き、止める間も無く店の奥に消えて行った店主。

この展開は完全に予測不可能だったが、どうやら暫く酒場に留まる事になってしまい。


「セフィ、どうするよ?」

「……良いんじゃないか?」

「は……?」

「子供は……別に嫌いじゃない……」


クールな言い回しの割に、最後ニヤッと笑みを浮かべるセフィ。

――うへ…アンタも子供好きですか……




結局、この日は昼食どころか夕食までご馳走になる羽目に。

途中1人で抜け出そうとしたオレだったが、まさかのお兄ちゃん扱いを受け、5才の少女に引っ張り回される始末。

店主の奥さんも大歓迎ムードで、成果としては家族の温もりに触れただけの1日となってしまった。

――いや、まぁ家族ってのも悪くないけど……子供だけはどうも……


この数日は色々あって長く感じたが、明日はいよいよ武術大会。

今夜は久々に酒場を満喫出来そうでホッとはしたものの、決して浮かれて飲み過ぎないと心に誓うオレであった。



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