第01話 出会いと訪問
余りに期待外れな獲物との出会いで幕を開けた、オレのローベルグ滞在記。
この国で最初の魔物がこれだと、オレのテンションもダダ下がり。
それと、昆虫系統の魔物は狩っても食料に出来ない。 つまり 「汚い・食えない・達成感が無い」 の3点揃い踏みでもう最悪。
「おーーーい」
大グモの死体を素通りし、猛烈な勢いで岩場を通り過ぎた少女を探す事に。
このまま立ち去っても構わなかったが、あの勢いで走って転び、周りの岩に頭でもぶつけてたら大変だ。
「おーーーい、大丈夫ーーー!?」
岩陰に隠れている可能性ありと思い、呼び掛けつつ岩の隙間からあちこちを見て回る。
だが一向に見当たらず、返事も無い事から心配になったオレは、持ち前の頭脳を有効活用する。
「あ! 今度はデカグモが3匹も!! 逃げろおおおおおおおっ!!!」
「イィィィヤァァァァァァァッ!!! ど、何処! 何処!?」
ヒョコッと、まるでモグラの様に姿を現した金髪の少女。
どうやら、その小さな体を利用して岩陰に隠れていたらしい。
キョロキョロと辺りを見渡す少女の元へ、透かさず歩み寄る。
近くまで行くと見開いた目で凝視されたが、そんな事は気にせず全身をチェックする。 いや、別に変な意味でじゃなく。
「ケガは無いみたいだな、気を付けて帰るんだぞ」
「え…あ、あの!」
「ん」
すぐさま立ち去ろうとしたオレを呼び止める、可憐な少女。
礼を言われる展開は苦手で、名前を聞かれる様なベタな展開はもっと苦手なので、ここぞとばかり素っ気ない態度を取っておく。
「…クモ、3匹…どこ?」
「あぁ、君が見当たらないから言ってみた」
礼じゃなく、只の質問。
まぁ相手は怯え切った子供で、まず聞きたくなるのも無理はない。
「なんだ…よかったぁ」
「いいか、子供が1人で出歩いちゃダメだ。 危険なんだ、分かったな?」
言った瞬間、少女の目つきが変わった。
同時に、何か殺気の様なモノを発するその子に寒気がゾクッと。
「うぅぅぅぅぅぅ子供じゃないわよ、バカッ!!」
「バ…」
「いーい!? 私はもう16! つまり大人! 誰がチビよ! しかも由緒正しき魔道士! 子供扱いすんじゃないわよ!!」
――いや言ってないしチビとか…ってか何これ、ツンデレ?
しかし色々とツッコミどころ満載の台詞を吐かれたものだ。
まず嘘か本当か魔道士なんて名乗られ、しかもこれで16才とは信じ難い。
何より助けた相手にバカと言われた事にはピキッときたが、ここは大人として振舞うべきと己に言い聞かせる。
「いや悪かった、大人だよな。 それはそうと…」
怒らせれば面倒だと理解した上で、「魔道士について」 を優しく問い質してみる。
聞くと知識が豊富なのは確かで、実に意味不明な言葉がポンポン返ってきて…どうやら彼女の言葉に嘘は無いらしい。
執拗に詰め寄るとまた怒鳴られてしまいそうで、イイ頃合いで信じる事にした。
「で、何処から来たんだ?」
「…ナトゥーラ」
「お!」
これは好都合、と思ったのは当然。
彼女は、警備兵さんに勧められたあの村に住んでいるらしい。
一刻も早く休養をとる為には、この子に案内してもらうのが最善だろう。
「君の村に…って君、名前は?」
「女性に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀じゃなーい?」
何という高飛車な態度。
可愛い顔をしている癖に、この性格はマジで有り得ない。
「そいつは失礼。 オレはレグザ=ウィンツバーグ」
「ふーん…なんか濁点の多い名前ね」
「…君の名を」
「アリィよ、アリィ=カッテラー」
ムカつきどころ満載だったが、何とか自己紹介を済ませて。
次に、オレが村へ行きたい事を告げると、アリィは少し悩んだ末に了承してくれた。
最短距離で村を目指す事となった今のオレの役目は、少女の護衛。
ゴツゴツした岩場を歩きながら、ふと頭に浮かんだ質問をアリィにぶつけてみる。
「魔道士なら、あんなクモ倒せたんじゃないか?」
「…あぁうるさい! 黙ってついて来なさい!」
突拍子も無く怒鳴られ、やはり嘘かと疑念を持つ。
まぁナトゥーラ村とやら行けば、本物の魔道士に会えるかもしれない。
――何でもいいから今夜はベッドで寝たい…。
些細な願いを胸に抱き、村への道を1歩また1歩と進むのだった。
アリィの案内で草原地帯を超えると、そこに小さな村が存在した。
ここがナトゥーラ村であろうが、骨休めするにも宿屋らしき建物が何処にも見当たらない。
まさか村の民家に泊めてもらえとでも言うのだろうか。
「ここで待ってて」
村の入口に着いた所でアリィにそう言われて。
仕方無く待つ事にしたオレは、ここまでに仕留めた獲物の事を振り返る。
最初の大グモを省いたこの国での戦績。
野生の熊が1匹と、最初のと同じ大グモが1匹に、オオカミ的な魔物が1匹。
オオカミは食料になるし、何度か食った事もあってこれが割と美味。
だが今回は野宿の心配が無さそうなので、死体を持ち運ぶのは止めておいた。
それよりも、この国の討伐隊や戦士共は、まさかあの程度の魔物に苦戦しているのだろうか。
もしそうだとすれば、この国の行く末は 「破滅」 で間違いない。
しかしこの村、本当に小さな村だ。
誰が立てたのか 『ナトゥーラ』 というボロい看板がポツンとあり、視界に入るのは7~8軒の民家と3つに区分けされた畑のみ。
それ以外では、村を囲む様に立てられた柵と、草の手入れが行き届いた道ぐらい。
周りは森に囲まれているが、若干の斜面に作られた村なので、ここからは見えない奥行きがあって酒場やら宿も何処かにあると信じたい。
「剣士さん! こっち!」
「…ん」
呼ばれて振り向くと、遠くで手招きするアリィの姿が。
しかし命の恩人に対し、随分とソフトな扱いをしてくれるものだ。
そうして案内されて来たのは1軒の民家。
この辺りでは最も大きな家だが所詮は平屋で、他と共通しているのは貧相な造りってところ。
「ここがアリィの家なのか?」
「違う、村長の家。 それと…気安く名前で呼ばないで、友達でもないのに」
本当に口の減らない小娘。
オレの苛立ち指数はギュンギュン上昇している。
しかし飽くまで大人の対応を心掛けるオレは、額に青筋立てながらも、案内されるまま家の中へ。