第23話 着せ替えアリィ
「いやまったく、恐れ入ります!!」
「見事に全部片付けちまうなんて、君ら凄いねぇ!!」
扉前で会った2人の保安兵に喝采され、集まって来た周辺住民からも拍手の嵐。
入口で会った小柄な保安兵は急ぎ朗報を持ち帰ったようで、時計台から降りて来たオレ達は実に英雄的な扱いを受けた。
皆があの魔物にどれだけ困らされていたのか、そこで初めて実感する。
吹き飛ばされ転落死したカラス共には幾つかの建物を破壊されたらしいが、幸いケガ人も出なかったようで。
結果として、オレ達の存在はこの町に少々知れ渡ってしまった。
「まぁ食ってくれ、俺の奢りだ。 しかしこんなに早く、あっさり退治して来るとはなぁ……」
店主に差し出された料理を遠慮なく受け取る。
保安所へ招かれ謝礼金とやらを貰ったオレ達は、その足で再び酒場を訪れていた。
「まぁアリィの手柄だ、オレ達は援護だけだったし。」
「アリィってのは……君かい?」
「はい! 魔道士のアリィです!」
「へぇ……魔道士なんて滅多に会えない人種だが、その若さで凄いねぇ。」
店主にまで褒められ、すっかり有頂天の魔道士。
黙々と料理を口に運ぶオレは、買い物に付き合いたくないって理由から謝礼金をアリィに渡すべきか迷っていた。
同時に、大会までの余り有る時間を如何にして過ごすべきかに考えを巡らす。
「で、君らこれからどうする気だい?」
「町の近くに洞窟とか無い? 洞窟じゃなくても魔物が密集してる場所とか。」
「んー……まぁ何処かに有るかもしれんが……聞いた事も無いねぇ……」
残念な返答を貰い、食い終わったオレは頬杖を付いて暫し悩む。 一度この街を離れるべきかと。
その時――
「おい……」
肩をポンと叩かれ、席を立てと顎で指示してきたのはジョセフィーン。
この場で言えない様な話があるのか、ともあれ2人で席を離れ店の隅へ。 アリィの視線が妙に痛い。
「……大会まで別行動をとる」
「何故だ……?」
「する事が無いのだろう? 私は町周辺の魔物を掃除して来る。 お前は魔道士の買い物にでも付き合ってやれ。」
何を言い出すのかと思えば、アリィの事をオレに押し付ける気だコイツ。
そんな事を許すものか、と少々興奮気味に。
「それ却下…! 買い物は女同士が1番だろうが…! お前が付き合ってやれよ…!」
「馬鹿を言うな…! 私はもう御免だ…! ジステアで私に押し付けただろう…! 次はお前だ…!」
「オレだって御免だ…! 女の買い物に付き合うのとか戦闘よりよっぽど疲れるんだぞ…!」
「女を一括りにするな…! 私は無駄な物など見て回らない主義だ…! 」
「んな事どうでもいい…! 話の論点を変えるなっての…!」
「こら!! 2人で何コソコソしてんの!! っていうか丸聞こえっ!!」
気付けば背後に立っていたアリィ。 カウンターの向こうで笑う店主。
そして、忍び寄る気配に全く気付かなかった間抜けな剣士が約2名。
両者の意向も虚しく、結局この日は3人揃って買い物へ出向く事に。 当然、その資金はカラス退治で得た謝礼金。
そして買い物の舞台となるのは、眠らない町と言っても過言ではないこの大都市。
――もうイヤな予感がプンプンする……
ノルディー北エリアの巨大ショッピングモール、とある洋服店にて――
服屋ばかりを回ってもう7軒目……全く疲れを知らないアリィに振り回され続けて。
これは目眩というのだろうか。 別に荷物持ちの役がキツい訳じゃない、あえて言うなら精神的に辛いだけ。
しかもジョセフィーンのヤツ、新しい剣を見たいと言って武器屋を覗きに行ったまま戻って来ない。
――まさか逃げたんじゃ……
「レグザ見て! これ似合うかな!?」
言って試着室からヒョイと出て来たアリィだが、そのスタイルを見たオレは唖然。
襟元がフリルになった白の半袖シャツに、レースやフリルといった装飾付きの黒い…これはビスチェワンピースというのか。 しかも黒タイツに、頭には黒のミニハット。
何処かで聞いた事がある……こうゆう服装をゴスロリ系ファッションと呼ぶらしい。
それを見て、少なからず癒されてしまうオレは大馬鹿者だ。
「滅茶苦茶……似合ってる……が、それ何処で着るつもりだよ……」
「んー……じゃあ大会で応援する時に!」
「やめてくれ……頼むから……」
オレが持たされている荷物袋はアリィの服ばかり。
購入したのはオレが厳選して最終判断を下した物のみだが、それでも既に両手が塞がる程の量で。
「思ったんだが……買った服を全部、この先ずっと持ち歩くつもりか?」
「あ、そうだ! 肝心な物を忘れてた!」
そう言ってまた試着室に戻ると、元の服に着替えたアリィが飛び出して来て。
「レグザこっち!」
「は……?」
「服はもう終わり! 次は別のお店!」
終わりと聞いてホッとしつつ後を付いて行くと、次に訪れたのはバッグ専門店。
まぁ鞄を売っている店なのだが、旅人には不向きな高級バッグやお洒落リュックなどがズラリと並ぶ。
「おい……まさか……」
「着替えを入れる為のリュックを買うの! レグザも一緒に選んで! 可愛いの限定ね!」
「………」
もう何度目か分からないが、とにかく呆れた。
しかし、既に何着もの服を買わせてしまった以上、この流れを予想出来なかったオレにも責任がある。
「ほら、こっちだってば!」
「はいはい……」
何故かもうアリィには逆らえないオレが居て。
どうも最近、パーティー内の主従関係というか、立ち位置的なモノに変化が現れてきた様な気がする。
まぁ、アリィが楽しそうに商品を選んでいる姿はそれなりに可愛くもあり。
――しかしリュックを背負った魔道士が何処に居るんだ。
…とは突っ込めず、虚しくも心の中で呟くオレであった。
ゴスロリ服のアリィ………ゴクリ
今回ほど挿絵を入れたい想いに駆られたのは初めてかもしれない。