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第18話 ゆらり揺られて馬車の旅

傭兵団に盗賊団、それに関わった小悪党も綺麗に町から消え去って。

事の顛末を見届けたオレ達は、日暮れを待たず次の町を目指す事にした。


チックと名乗った盗賊を保安所へ引き渡し、宿の支払いも済ませ、早々に出発の準備を整えて。 

悪の芽を完全に摘んだとは言い切れないが、結果としてジステアの治安は大幅に回復した筈だ。






ポカポカ陽気の昼下がり。

町と町を繋ぐ街道。 徒歩で行き来する者は皆無。 移動手段は馬車が主流。

街道といっても城や都市や町と違い、防壁なんて物は存在しない只の舗装された道に過ぎないが、国から派遣された警備兵がそこら中に配置されている。


ジステア出発時に確保した小型の馬車は、気の良いオヤジさんの計らいで格安割引に。

そんな馬車で次なる町を目指す車中、横のアリィはオレの肩に寄り掛かってウトウト仮眠中。

――天使の寝顔キタコレ。


時にすれ違い、時に追い抜かされる幾多の馬車。

これだけ往来が激しいと、次なる目的地の事が気になって。


「なぁジョセフィーン、次の町ってどんな所だ?」

「お前……何も知らずに発つ事を了承したのか?」

「まぁ、とりあえず人が多いって言うから行ってみたいと思って」

「……ノルディーという商業で栄えた大型都市だ。 闘技場もあって、人の多さはジステアの比じゃない。」


こっちから話しかけない限り、決して口を開いてくれないジョセフィーン。

彼女は正面に座っているのだが、何故かいつも以上にツンツンしているのは気のせいだろうか。 質問以外の会話が全く弾まず、余計にそう感じてしまう今日この頃。

しかし、ここに来て良い会話のネタを入手し、ここぞとばかりに有効活用。


「闘技場! 血が滾る響きだなぁオイ! 拳闘士とかゴロゴロ居るんじゃないのか!?」

「金の亡者や野蛮人が集まるコロシアムとは少し趣が違うようだ。 討伐隊強化の為に国王が作った物で、大会場としてのみ使用されているらしい。」

「討伐隊ねぇ……成程、じゃあ武術大会みたいなモノがあるって事か?」

「あぁ、定期的に武術大会が開かれるそうだが、開催時期や詳細は私も知らん。」


的確な返答のみを貰って、また暫しの沈黙が訪れて。

口数が少ない事に文句がある訳じゃないが、これからの長旅を共に歩む上で、ある程度は打ち解けたいと思うのもまた本音。

しかし同時に、仲間が出来た事で自身が浮かれている感も否めない訳で。


「ところでジョセフィーン、剣術は誰に習ったんだ?」

「お前と同じで我流だ」

「マジか…!? じゃあ何であんなに洗練されてるんだ?」

「…才能だろう」


ピキピキ、っとオレの何かが音を立てた。

そこだけ流し目で、しかも真顔でそんな台詞を吐かれ、思わず何も言い返せなくなって。


「落ち込むな、お前も悪くない腕を持っている。 問題は自分に合った武器選びの才能が足りない事か。」


追い打ちをかける様にそんな指摘を受ける始末。 だが、ここは黙っていられる訳が無い。


「オレの場合そっちの才能は要らないな……この剣は親父の形見だし」

「あっ……!」

「……どした?」

「す、すまん……忘れていたとはいえ、口が過ぎた……」


――わお、なんて光景だ。

あのジョセフィーンがオレに謝った。 それも初めて見せるような表情で、頭まで下げて。

そういえば最初に 「親父の剣」 と教えてあるし、その親父が殺された旨も話してある訳で、考えてみれば随分と酷い指摘を受けた事になる。

己の発言を悔やむジョセフィーンが妙に可愛く見えたオレは、少しだけ調子に乗ってみたくなり。


「気にすんな、お前も悪くない容姿を持ってる。 問題は…性格が少々キツい事か」

「………黙れ」


瞬間、恐ろしい程の殺意を感じた。 加えて、物凄く睨まれている。

ふざけて彼女の喋り方を真似てみたが、冗談の通じる相手じゃない事をすっかり忘れていた。


「じょ、冗談だ! 落ち着け! …って、今ちょっと剣に手を掛けたよな!?」

「……何なら少し斬ってやろうか? この狭さと間合いでは圧倒的に私が有利だ。」

「ちょっ…待て! 目が本気だぞお前!」

「フッ、冗談だ……落ち着け」


こいつは1本取られた、という感じ。

今度はオレの台詞を真似られ、まんまと仕返しされて、また鼻で笑われて……くぅぅ。


「どうかしたんかい?」


言って顔を覗かせたのは、前で馬を操るオヤジさん。

恥ずかしい声を聞かれてしまったようで、必死に冷静を装って言葉を絞り出す。


「いや、なんでもない……それにしても立派な馬だねオヤジさん」

「そうかい? 余所の馬と変わらんよ?」

「あ……そう」


そりゃそうだろう。

考えもせず咄嗟に口走ってしまった言葉に過ぎないのだ。


「しかしまぁ、両手に花で羨ましいねぇ。 もしかして、寝てる方は妹さんかい?」

「いや……違うよ」


何が羨ましいんだよオッサン、と思いつつ普通に答えておく。

もう喋りたくなかったオレは何気なく景色に目を移し、それを見たオヤジさんも前を向き直す。


ところで、オレとアリィは兄妹に見えるのだろうか。

もし似てるなんて言われると、色んな意味でショックが大きい。

誰かに聞いてみたかったり、考えたくもない気持ちが大半を占めてたり…よし止めとこう。




ひづめと車輪の音が奏でる旅のメロディー。

馬車が向かうは南西。 目指す先には武術都市ノルディー。 …あれ違ったっけ、まぁいいか。


疲れていたのか、アリィはすっかり熟睡中。

ジョセフィーンにはあれから声を掛けていない。 何となく気まずくて。

幾つか話題を用意して、そろそろ話し掛けようかと思った矢先、偶然にも目が合ったジョセフィーンの方が口を開く。


「妹じゃないなら……お前の女か……?」 


――ぶはっ……!!

唐突な質問に唖然とし、何故か鼓動は高鳴り、言葉を発せぬまま数秒経ち、やっとの想いで静かに答える。


「只の仲間だっての」


漸く向こうから声を掛けてきたと思えば、何を言い出すんだこの女は。

しかも、オヤジさんとの会話からは結構な時間が経っている。 今頃それを聞くという事は、ずっと気になっていたのだろうか。


オレの返答に対し、無言のまま納得した様子のジョセフィーン。

だがこの時、彼女の頬が微かに赤みを帯びていたのは、きっと夕陽のせいなんかじゃない。



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