第16話 魔道士の才能
「アジトを教えろ、さもなくばコレで叩っ斬る。」
「教えなさい、でないとコレで焼き尽くしちゃうんだから。」
人気の無い所まで運んで来た、その詐欺師を叩き起こしたオレ達が放った第一声。
鼻先に突き付けられた大剣と、目の前に差し出された魔法の炎。 寝起き一発目に見る光景としてこれ以上の恐怖は無いかも。
問い詰めたところ、やはり男は盗賊団の一味と判明。
2人の脅しが効き過ぎたのか、半泣きでまともに喋れない盗賊には道案内を命じ、急いでアジトまで向かわせた。
暫く歩いて着いた先は、裏通りにひっそりと建つ一軒家。 少々古い造りだが、3階建てな上に建坪も割と広い。
まさかこれが本当にアジトかと疑ったオレが案内人の顔に剣を向けると、震えながらも首を縦に振るので信用しておく。
「よし、こいつを盾にしてオレが乗り込む。 アリィはここで待ってろ。」
「ヤダ」
「いや、危ないから待っ…」
「ヤダ」
なんて頑固な。 オレと一緒だと異様なまでに強気だなコイツ。 というか、早く魔法を試したくてウズウズしているようだが。
「初級魔法の応用で、小さな火弾なら前よりずっと早く出せるようになったし、危なくないよ平気だもん。」
「いや、危ないってのはそれを人に使われたらって意味で……」
例えどんな威力だろうが、火の玉なんて喰らって全身に引火したら人間にとっては驚異的。
結局、遠距離攻撃専門のアリィには威嚇と援護と言う形で、家を燃やさぬ程度に参戦してもらう事に。
「オレ的にデジャブーな体験……」
「どゆこと?」
「いや何でも無い」
普通の民家と何ら変わりない正面玄関。 いつぞやと同じくソーッと開いた扉は静かに開く。
薄暗い家の中でまず最初に目に入ったのは、奥へ続く廊下と2階への階段。 更に、玄関脇の両側に2つのドアを確認。
「オイこら、まさか家族で盗賊団ってオチじゃないだろな?」
「ち、違います……」
盾として連れて入った軟弱男が段々邪魔に思えてきたが、とりあえず一味の人数とリーダーの居場所を聞き出しておく。
「リーダーが居るらしい3階まで直行だ、下から誰か来たら火で脅せアリィ。 くれぐれも気軽に撃つなよ、火事になっちまう。」
「うん分かった」
まず2階への階段を昇り切って4つの部屋の存在を確認したが、扉が全て閉まっていたので無視して3階への階段を目指す。
2階廊下の途中まで来た時、オレはこの妙な静けさに違和感を覚えた。 床のギシギシという物音以外は何も聞こえない。 しかも、先客のジョセフィーンが押し入った形跡がまるで無い。
「おい、本当にここがアジトなんだろうな?」
「……お二人様ごあんな~いっ!!」
「!?」
盾が大声で叫ぶと同時に、2階の全室からドタバタと騒がしい物音が聞こえ始める。
そして…
バタンッ!
ドタドタドタドタドタドタッ!!
勢いよく開け放たれる各部屋のドア。 そして1階、更に3階から集結した男達。
2階廊下の中間地点に居たオレ達はあっという間に囲まれてしまう。 加えて、隙を見てオレの元から離れた案内人。
「バカめ!! ここはダミーのアジトだ!! お前らみたいな図々しい奴を袋叩きにする為のなぁっ!!」
「キャアアアア!!! レグザどうしよう!!」
成程、オレ達はまんまと罠に引っ掛かってしまったという訳か。
民家の廊下という狭い空間。 ぐるりと囲む十数人の盗賊。 騒ぎ立てるアリィ。 つまり圧倒的に不利な状況。
だが、窮地の思考こそ刹那の判断力を問われる。 オレは決して慌てない。
「しっかり掴まっとけ!」
素早くアリィを抱き寄せガッシリと体にしがみ付かせたオレは、抜き取った剣を思い切り振り上げる。
「ふんっ!」
ザンッ!! ズガガガガガガガガガガッ!!
余りに馬鹿げた行為と言うしかない回転足場斬り、からの…
ダンッ!!
強烈な四股踏み。
ガガガゴゴゴゴッッッ!!! ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!
狙い通り、凄まじい轟音と共に抜け落ちた床。
周囲を円状に斬った床に強い衝撃を与えれば、この結果は当然の事。 更に、古くなった家の床に大勢が集まっていた事も成功のカギとなった。
ズンッ!
アリィを抱えたまま瓦礫と一緒に着地する。 落ちた先は1階の廊下。 衝撃からの足の痺れを我慢し、透かさず玄関に向かって走り出す。
「レグザのバカアアアアアッ!!! 無茶し過ぎいいいいいいっ!!!」
「あぁうるさい!! 黙って外まで走れ!!」
流石に度肝を抜かれているだろうが、ヤツらが追って来るのは目に見えてる。
別に 「逃げ」 を選んだ訳じゃない。 1人ならまだしも、アリィが居るとなれば広い空間におびき出す必要があった。 人質にでも盗られたら厄介だし。
バギッ!!
もうぶち壊しついでだとドアを蹴破り表に出る。 この周辺は特に人気の無い裏通りだが、さて本当に外まで追って来るだろうか。
『待てこらぁぁぁぁぁぁっ!!!』
『家を壊すなバカヤロオオオオオオっ!!!』
『ふざけんなあああああああっ!!!』
やっぱり来ましたか。 まぁお怒りはごもっともで。
このアジトがダミーだと分かったが、ヤツらが盗賊団である事に変わりは無い。 ここは迎え撃つのみ。
「下がってろアリィ」
「……」
玄関前に立ち塞がり、あえて剣を納めたオレは最初に飛び出して来たヤツを迎え撃つ。
「ていっ!」 バゴッ!
顎先への拳が決まる。 騙された苛立ちがある故、オレのパンチは若干強め。
それでも早く済ませたい気持ちから、一撃で気絶させる事を心掛けようと…
ヒュッ!
「!!」
…余裕ぶっていたオレに生じた完璧な油断。
何やら小さな刃物が飛んで来た。 何とか直撃は免れて腕を掠めた程度で済んだが、不覚にも傷を負ってしまう。
その一瞬の隙を見逃さなかった後のヤツらが玄関から飛び出すと、オレの周りをぐるりと囲む。
「ちっ!」
「レグザ! 伏せて!」
「!?」
背後からアリィの指示が。
アリィも同じく囲まれているのかと思っていたが、どうやら違うようで何故か少し声が遠い。 そちらを振り返るよりまず素直に指示に従っておく。
「初式火弾魔法!!」
ボォッ!! ボボボボボボボボボッ!!
「うぉ! あっちちちちちちちっ!!」
「熱っつつつつつつつっつ!!」
「火! 火! 燃えてる燃えてる!」
「うぁああああああっ!!」
騒ぐヤツらの方を見たオレはマジで驚いた。 オレ以外の全員の足元が燃えている。 アリィのヤツ、人間相手に魔法を使いやがった。
「こらアリィ! こいつら焼き殺す気か!!」
「大丈夫! すぐ消える小さな火だから! 軽い火傷で済むよ!」
見るとアリィは十数メートルも離れた場所に居る。 そんな距離からオレ以外の全員の足を狙い、見事に命中させたというのか。
確かにヤツらの足の火はもう消えかけている。 それでも立っていられない程の痛みからか、全員がその場に倒れ込んだ。 これでは立ち向かうのも逃げるのも不可能だろう。
「凄いな……アリィ」
「へへ~ん! どんなもんだい!」
結局、アリィに美味しい所を持って行かれたが、とりあえず偽アジトのヤツらは一掃できたようで。
――ふぅ…なんだかなぁ……
倒れた盗賊共に本物のアジトを聞き出したオレ達は、近所の住人に頼んで保安兵を呼んでもらうと、急いでその場を立ち去った。
次こそジョセフィーンと合流出来る事を祈って。
それにしても、アリィの魔法には驚かされた。
洞窟で怪物に使った初級の火属性魔法、それを応用して連射させたという。 威力は弱まるが、複数の雑魚相手にはうってつけだからと、是非試してみたかったらしい。
余り褒めると調子に乗るので程々にしておいたが、正直少しアリィの事を見直した。
――魔道士って便利……いや、凄いんだなぁ……