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第13話 天使の寝顔、女神の名前 

宿のベッドで迎える朝。 

普段から野宿が多いオレは、その癖からか異常な早起きぶりを発揮した。

安息で満ちた少女の眠りを妨げるなど愚行かもしれないが、そこは敢えて心を鬼にして叩き起こす。


「起きろアリィ! さっさと準備して保安所へ行くぞ!」

「…ん…ふにゃぁ……むぅ」


正直、可愛いと思ってしまった。

信じられない程の猫撫で声に、例えるならアルパカの様な寝顔。 この子はオレを萌え死にさせる気だろうか。

――相手は子供だ、正気に戻れ…オレ。


「起きろって、一緒に行くんだろ!? 起きないなら置いてくぞ!」

「んむぅ……はむ…たべ……」

「よし、じゃあ行ってくる!」

「んふぁぁぁっ!!」


といった感じで。

飛び起きたアリィを急かして部屋を出る。 本当に自分は鬼だと思う瞬間だった。

朝飯は後回しで、チェックアウトもしない。 取り敢えず宿はこのままキープで良いだろう。


こんな早朝から出向くのは女が解放されたのか早く知りたい為だが、また会いたいその理由が1コじゃない事にオレは気付いた。

一言詫びたい気持ちもありーの、落ち着いて話したい気持ちもありーの、またののしられたい気持ちも(マテ 

住民に迷惑をかけた立場上、解放された女は即座にこの町を離れる可能性がある。 責任感の強いヤツほど罪悪感も重く背負い込むもんだから。  

つまり、今日すれ違ったら今生の別れになり兼ねない。




「ねね、その女と会ってどうすんの? 浮気?」

「……アイツは悪党じゃないからな、出て来るのをちゃんと最後まで見届けたいだけだ。」

「ふぅーーん」


保安所までの道すがら、少し前を歩くアリィは持ち前のウザっぷりを発揮してくれる。

その対応に慣れてきた自分が恐いと言えば恐い。 気安く名を呼ばれる事自体、数日前までは有り得ない事だったし。

人語を扱う魔物といい、馴れ馴れしさ満開の仲間ツレといい、この国に来てからオレの常識は覆されてばかりだ。


「アリィ! 何処まで行く気だ、もう着いたぞ。」

「わ、ホントだ。」


この町の保安所は大型の宿屋よりも更にデカい。

昨夜も通報の為に訪れたが、入ってすぐ脇の受付にはお姉さんが1人座っている。


「あら、昨日の剣士くん! こんな早くにどうかした?」

「傭兵団のリーダーがどうなったか知りたいんだが……」

「え、それってもしかして……スラ~ッとした、髪の長いキュートな女の子じゃない?」


おい姉ちゃん、それが受付嬢の答え方かよ。 どんだけフレンドリーなんだ。

多分そうだ、その女の事なんだが、首を縦に振るべきか迷った。 横のアリィの視線をピリピリと感じたから。


「まぁ連行された中では唯一の女だった」


と、差し障りの無い答え方をしておく。


「その子なら事情聴取も終わったみたいで、少し前に帰って行ったわよ?」

「なに!? 帰ったって何処に?」

「さぁ……住所不定の子らしいからそこまでは……」

「くそっ!」


こりゃ参った。 本当にすれ違ってしまった。

1人でアジトに戻ったのだろうか。 いや、あそこはもう保安兵によって封鎖された筈。 だとすると何処へ行ったのか。

やはり、もうこの町を出てしまったのだろうか。


「取り乱し過ぎ~! すぐ帰れたみたいだし、別にそれで良いじゃん。」


そんな風にアリィに言われても、どこか虚しい気分は拭えない。

だがこの広さの町で手掛かりも無く、まだ居るかも分からない人間を探すのは無謀だと素直に諦めたオレ。

仕方なく、早めの朝食を何処かで済ませようと2人で飲食街へ向かう事に。


と、その時だった。


「おい」


突然、背後から声を掛けられたオレは、それが聞き覚えのある声だと気付かぬまま振り返る。


「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「うわっ!」


早朝の静かな町に轟くオレの叫び声。

声を掛けた方も余りの大声に驚き、思わず声を上げてしまったようで。


「なんだよー!! まだ町に居たのかお前!!」

「チッ……相変わらずやかましい奴だ」


いきなり舌打ちされてしまったが、声を掛けて来たのはあの女。

向こうから接触して来るとは夢にも思わなかった為、ガラにも無く騒ぎ立ててしまったオレは数秒後に深く反省する。


「もう1度会って詫びを入れときたかったんだ」


冷静になったオレは本題を切り出す。

アリィがやけに大人しいと思ったら、どうやら女の風貌に見惚みとれている様子。

オレの言った通り、本当に 「背の高い美形の女剣士」 だった事をさぞ悔しがっているだろう。


「……何を詫びる」

「いやほら、もしオレが問答無用で全員を倒してたら、お前まで悪党だと思ったままだったし。」

「フッ、それは無い。 私がお前を返り討ちにしていただろう。」


――これこれ、このツンツンっぷりを待ってた。

超絶な自信家という上に、これまで出会った数多くの戦士と比べてもズバ抜けて強い。

口だけ野郎なら幾らでも居たが、オレが認める程の腕を持つヤツには初めて出会った。

まぁ最初はムカついたが、同じ剣の道を歩む者としては学ぶべき事もありそうで気になってるってトコ。


「で、傭兵団も解散してこれからどうするつもりだ?」

「その事だが……」


女は答える前に、まずオレに3つの問いを投げ掛けてきた。

お前は旅をしているのか。 お前の旅の目的は何か。 お前は世の魔物をどうしたいのか。


何故そんな事を聞くのか分からなかったが、オレは全ての質問に対し正直に答えた。 当然、仇討ちの事も。

すると、今度は女の方が自らの事を語り出した。




彼女の名はジョセフィーン=アイザック。

元々この町には旅の途中で立ち寄り、戦士崩れのゴロつき共を集めて傭兵団を作った。

だが、彼女の目的は金儲けなどではなく、魔物を倒す事にあった。 いつか、世界中の魔物を全て葬り去る事が最終目的だという。

その理由というのが、彼女の悲しい過去にあった。


なんでも、幼い頃に暮らしていた村が大量の魔物に襲われ、まだ赤ん坊だった弟の命が奪われてしまったという。

悲しみに暮れた両親の姿は、今も彼女の胸に深く焼き付いている。

当然、大事な弟を奪われた彼女自身の悲しみも計り知れない。 そして、その悲しみはいつしか憎しみへと変わる。


誰を憎むのか。 決まっている。 他ならぬ魔物。 だったら魔物共を全て滅ぼしてやる。

それは幼い少女の単純な思考から生み出された強い復讐心。

そして、彼女は両親を村に残して旅立った。




「お前の名を教えろ」

「あぁ……オレはレグザ、因みにこっちは魔道士のアリィ。」

「レグザ、お前の旅に同行させてもらう。 互いの目的は近くにあると感じた。」


突然の申し出に驚いたが、身の上話をしてきた時点で何となく予想はしていた。

断る理由は無い。 肉親の仇を討ちたいという点において、目的は確かにオレと近い。

確認を取る為アリィの方を見ると、いつに無く大人びた表情で首を縦に振る。 OK、決まりだな。


「まぁ貸しがあるしな、ちゃんと返してもらわんと気が済まん。」

「フッ……すぐに返してやるさ」


こうして女剣士ジョセフィーンが、新たな仲間として加わる事に。

それにしても、名前と性格のギャップがあり過ぎやしないだろうかと思ってしまう。

――さて、彼女をなんて呼ぼうか。



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