表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/70

第10話 行動開始

「バカ野郎! しっかり口押さえとけぇ、騒がれると面倒だぁ。」

「なぁどうするよ~? アジトに連れて帰る訳にもいかねぇしなぁ~」

「東の港に空き倉庫があんだろ、あそこ行くべ。」

「んぐっ……んぐぅぅぅぅぅぅっ……!」

「大人しくしろってんだよ!」

「へっ、元気なお嬢ちゃんだぁ。 後でたっぷり可愛がってやるぜぇ。」


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアリイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!!』


「うぇ!?」

「ひぃ!」

「なっ!?」


ドッ!   ズシャァッ!!


全速力からの不意打ち飛び蹴りクラッシュ。 そして鮮やかに着地。

相手は3人のようだが、1人は吹っ飛ばした。 あれを腹に喰らったからには2~3日まともに飯も食えないだろう。


「て、てめぇいきなり何しやがる!!」

「……」

「こらぁ! 聞いてんのかぁっ!!」

「………」


揃いも揃って相当な悪党面。

その上、かなり酒が入っているのか赤ら顔で、こんなクズ共とは話す価値無しと断定。 

次の標的は…アリィの腰に手を回し、口を塞いで束縛している男。 

無言で睨み返し、拳を強く握る。 


ゴッ!


「うぶっ…!」


ドサッ


左頬に強力パンチを喰らい、壁に寄り掛かる様にして倒れた相手。 同時に、急に手放された事で体勢を崩したアリィを抱き留める。


「大丈夫か?」

「……うん」


幸いケガは無い様だが、よほど恐かったのだろう。 オレの両腕にしがみ付き、その身を震わせているアリィ。

何処へ連れて行き何をする気だったのか知らないが、今の時点でもうこいつらは充分に許せない領域。


「チッ……こら立てぇ! おいっ!」


残りの1人が他のヤツらを立ち上がらせようとしている。 さては逃げる気だ。

逃がしてなるものかと、アリィに自分で立つよう目で合図したが首を激しく横に振られ、更に強く腕を握られてしまう。

その間もヤツらは逃げる準備を整えているが、アリィを引き離せない以上、無理に追い打ちを掛ける事も出来ない。


「くそぉ! 覚えとけぇ!!」


なんという典型的な悪党の捨て台詞。  よろめく2人を支えて走りつつ、オレに喚いた無傷の男。

聞いた話によるとヤツらが噂の傭兵団らしいが、あんな連中がいるなら只の悪党集団としか思えない。 次に見かけたら捕まえて保安兵に突き出してやる。


「アリィ、もう行ったぞ。 大丈夫だ。」

「うん……恐かったよぉ……」

「よしよし、何もされてないんだな?」

「……腰……掴まれた………手と口も……触られた……」


それぐらいで済んで良かったと言いたいところだが、とりあえず無言で頭を撫でておく。

まだ少女のアリィにとっては深い傷なのかもしれない。 泣き出しそうなその顔を見ていれば分かる。


「……あ」

「どうした?」


俯いていた顔を上げると、自分の首の辺りに触れ、次に何故か胸元を弄り始めたアリィ。


「な、何してるんだ……?」

「……思い出した」

「え?」

「ペンダント! 私のペンダント! あいつらに盗られたの!」


襟に隠れていたせいか今までオレも知らなかったが、どうやらアリィはペンダントを付けていたらしい。

聞くとそれはナトゥーラ村を発つ直前、正式な魔道士になった証として母親から貰った大切な物だとか。


「間違いなくヤツらが盗ったのか?」

「うん……金になりそうだとか言って引き千切られた……」


前言撤回。

もう 「次に見かけたら」 ではなく 「すぐに見つけて」 保安兵に突き出してやる。 というか殺してやりたいぐらいだ。

少女を誘拐しようとした上に、貴重品まで奪って行くとは傭兵団が聞いて呆れる。 盗賊団でも誘拐まではやらんだろうが。


オレはある事を決心した。 ――アリィの大事なペンダントを取り返す。

だが、それだけじゃ気が済まない。 ――この町の傭兵団を残らず叩き潰す。


余計な心配をかけたく無いので、アリィには 「ヤツらを探す」 とだけ言っておこう。






宿泊料の割にはキレイな部屋。 サービスも悪くないし、従業員は最高のスマイル送ってくるし。

そんな宿の一室で、夕方から元気の無いアリィを励まし続ける男がここに1人。

ちょっぴり豪華な夕食をご馳走し、 「ペンダントは必ず取り返してやるから元気出せ」 とか言い続けて。


そんなオレは今、アリィを部屋に残し、1人で酒場へ向かっている。

まぁ最初から行くつもりだったが、その目的は大きく変わった。

傭兵団の連中と接触し、アジトの場所を聞き出す為。


昼間とはまた一味違う雰囲気の裏通りを進み、饒舌な婆さんから教えてもらった大きな酒場に辿り着く。


この癒しの場所を訪れる上で、いつもオレはある制約ルールを自分に課している。

――気の荒い奴に喧嘩を売られてもなるべく無視。 (時間の無駄だから。)

――やむなく買う事になった時は、素早く相手を外へ連れ出す。 (店主から出入り禁止にされるから。)

――人との戦闘は素手で。 (これ常識。 武器使ったら加減できんし、殺人罪で捕まりたくはない。)


今夜ばかりは、この制約を自ら覆す事になるかもしれない。

もしペンダントを奪ったヤツらに出会えば、こっちから喧嘩を売ってしまいそうで。


中へ入ったオレはカウンター席に着き、何処の店にも必ず置いてあるお気に入りの酒を注文する。

いつもなら合い席した客に世間話を持ちかけて面白い情報を引き出そうとするが、今日は店主とおぼしき男に声を掛けてみる。


「へぃマスター、ここに傭兵団の人はよく来るかな?」

「あぁ来るよ、今も何人か来てるがね。」

「どの人か教えてくれないかな?」

「あんた見ない顔だけど、旅の人かい? 傭兵団に入りたいならお勧めは出来ないねぇ。」


案の定、余り評判は良くないようで。

お勧め出来ないその理由も店主に聞いてみた。 ここだけの話って事で。


なんでも、魔物退治は全て引き受けてくれるが、強い魔物の依頼には何かしら理由を付けて 「失敗した」 と、手間賃だけ要求してくるヤツが多いらしい。

あと、昼間から 「酒場を開けろ」 と怒鳴り込んで来るヤツもいて、仕方なく酒を売り渡して追い払っているが、そうゆうヤツらは毎度のように酔い潰れて揉め事を起こすんだとか。


まさしく後者みたいなのがアリィを連れ去ろうした連中だ。


「リーダーとか居ないのかな?」

「そりゃ居るさ。 ここに姿を見せた事は無いが、奴らのアジト付近で何度か見掛けたな。」

「へぇどんなヤツ・・・・・・ってマスター! ヤツらのアジト知ってんの!?」

「あぁ、俺は仕入れの時に近くを通るからね。」


なんて好都合な。 てっきり隠れ家的なアジトかと思っていた。

こりゃ酒場に来てるヤツらに力ずくで聞き出す手間が省けそうだ。


「マスター! そのアジトの場所教えてくれないか?」

「……やっぱり入れてもらう気かい?」

「いやいや、そんな気は無いよ。 ちょっと用があってね。」


相手や場合によっては 「入りたい」 とか言ってアジトに潜入するつもりだったが、相手が店主ならその必要も無い。


「どんな用か知らんが……屈強な戦士共がウジャウジャいるぞ?」

「あ~知ってる。 でも頼むよマスター、大事な用なんだ。」

「……分かった、そこまで言うなら教えるが……くれぐれも気を付けなよ」


こうして、予想外に楽な展開でアジトの場所を知る事が出来たオレ。

とりあえず酒場に来てるヤツの中に、ペンダントを盗んだ犯人は見当たらない。 つまり、これでもう酒場に用は無い。

今夜だけはアリィの為にもゆっくり飲むのは我慢。 注文しておいた1杯の酒をグイッと飲み干し、早々に店を出る事に。


最後に、美味い酒とイイ情報を提供してくれた店主に深く感謝しておく。


「ご馳走さん、教えてくれて助かったよ。」

「あぁ、また来なよ……無事を祈ってるよ」


席を立って出口に向かう途中、オレの身を案じてくれている様子の店主にもう一言だけ付け加える。


「大丈夫、オレ強いから。」


相手の反応を待たず外に出る。

まぁいつもの事だが、口で言うよりも結果を持ち帰るのが1番早い訳で。

迷惑している人が多いと分かった以上、この町の傭兵団を潰す事にもう何の躊躇いも無い。

店主から聞いた場所へ早足に向かう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ