第09話 栄えし町の行く末は
キタコレ。
こんなデカい町があるなら、国境の警備兵さんも最初からこっちを教えてくれれば良かったんだ。
まぁ、あの人らはオレに首都へ向かってほしかったみたいだが……今となってはどうでもいい。
胸を弾ませて何が悪い。 久々のオアシスだ。 こうゆう町では何でも揃う。 金さえあれば。
――ジステア到着!
女剣士が去った後、森を抜けた先には予想通り小高い丘があり、遠く先には見渡す限りの海が広がっていた。
景色を楽しみつつ辺り一面に広がる大草原を下ると、何処かと繋がっているらしい街道に出た。 その街道を海の見える方へ進むとこの町へ辿り着いた。
「随分と賑わってるなぁ……こうゆう町は好きだ」
「私も! 小さい頃、お父さんとお母さんに何度か連れて来てもらった!」
両側にズラリと商店が立ち並ぶ大通りをひたすら真っ直ぐ歩く。
アリィは露店と人の多さにテンション上がりまくり。 オレも少し浮かれ気味だが。
武器屋、防具屋、狩猟専門店、魚釣店、衣服屋、装飾品店、生地屋、魚屋、肉屋、野菜&果物店、立ち食い屋、と実に様々な店をここまでに確認。
それらに群がる客層も実に幅広い。 子供から年寄りまで、中には戦士や異国人の姿も。 さすが港町と言うだけはある。
「ねぇねぇ! 何か買うの~!?」
「とりあえず美味い飯屋を探せアリィ」
「え~服とか見ようよ~!!」
「却下……興味ない」
少女のお買い物に付き合う気は無い。 まずは腹を満たす事と、昼間の内に酒場の場所を確認だ。
オレの旅において、情報収集も兼ねた 「夜の酒場」 に行くのは必須行動。
そうなると、今夜の宿を確保しておくのも忘れちゃいけない。 まさか子供を酒場に連れて行く訳にはいかないので、夜はアリィを部屋で待たせておく事になる。
腰に下げた巾着袋には魔物退治で貰った報奨金や謝礼金がたっぷりと貯め込んである。
――基本的に金は取らない主義だが、たんまり持ってそうな奴からは遠慮なく貰う主義なもんで。
武器も防具も買い足す必要の無いオレ。 金の使い道は飯と酒と保存食ぐらいで、大きな買い物は滅多にしない。
「露店ばかりで店舗が見当たらんぞ」
「この通りは露店街だもん、大きなお店は町の奥だったと思う~」
通りに面して並べられた多種多様な商品の数々。
田舎娘のアリィには魅力的な物が多いのだろうが、立ち寄ろうと言われても決して相手にしないオレ。
露店街を抜け、町の中央まで来る頃には流石に不満気な態度を露わにしたアリィ。
結果、まず宿に部屋を取っておき、今からもう別行動をとる事に決めたのはオレのささやかな優しさ。
部屋に戻る時間を決め、幾らか金を渡しておけば勝手気ままに遊んで帰って来るだろう。
手頃な料金の宿を見つけてチェックインすると、あくまで一緒に行動したいと主張するアリィ。
仕方ないので、宿の受付の人から得た 「激ウマ昼食店情報」 を元に、昼飯だけは一緒に済ませておいた。
その後、子供に小遣いを渡す様な気分でアリィに金を持たせると、部屋に戻る時間をしっかりと言い聞かせておく。
どう見ても相手は子供なんだ、日が暮れるまでには帰って来させよう、うん。
「いいか? 迷子にだけはなるなよ。」
「ならないってば~! でもそんなに心配なら一緒に行こうよ~! デート気分で!!」
「……却下」
別れる寸前までオレの手を引き続けたアリィ。 それでもなんとか引き離し、やっとの想いで1人になれたオレは宿屋街から裏通りに入って酒場を探す事に。
何処の町でもそうだが、酒場ってのは何故か人通りの少ない場所に存在する。 それもあってか、夜の酒場付近には犯罪者やごろつき共が集まり易くなる。 この町もそうなのかは知らないが、大きな町である程、それに比例して裏町の治安も悪くなるものだ。
暫く探し回ってみたところ、かなり広い町のようで酒場も簡単には見つからない。 下手すりゃオレが迷子になってしまいそうだ。
そうなる前に、道ですれ違った婆さんに尋ねてみる事にした。
「酒場かい。 お前さん旅の者じゃの? 教えてやるが、ここい等は物騒な連中が多いから気ぃ付けぇよ。」
「どんな奴らだ?」
「強者揃いの傭兵団が大きな顔をしとるが、まぁこやつ等は別に悪事は働かん。 酔って絡んでくる奴も中にはおるがの。」
「……他にもいるのか?」
「盗賊団には注意せぇよ、あやつ等は悪事しか働かん。 スリに強盗……詐欺に恐喝……何でもしよるわい。」
思った通り、これだけデカい町になれば犯罪者も多くなる。 となると、行き先が大通りとはいえアリィを1人で行動させたのは迂闊な行為だったかもしれない。
えらく饒舌な婆さんから聞いた酒場の場所を記憶し、次にオレは最初に通って来た露店街へ向かう事に。
アリィの事が少し気に掛かる。
田舎娘が1人でウロウロしていれば、スリ共の格好の的じゃないか。
夕暮れが迫って来ているにも関わらず、人で溢れ返る大通り。
この中からアリィを見つけるのは至難の業だが、そろそろ約束の時間も迫っている。 このまま町の入口に向けて歩いて行けば何処かで会えるだろう。
「ん?」
とある露店の前で、中年男女が5~6人溜まって何やら話しているのを発見。
通りの雰囲気にそぐわない真剣な表情の人ばかりで、少し気になったオレはその会話に聞き耳を立ててみる。
「………大丈夫かねぇ……ありゃ傭兵団の奴らだ……」
「……昼間から酔って………タチ悪いねぇ………」
「………保安兵が怠けてっから………まったく……この町も物騒になったもんだ……」
「……あの女の子………心配だねぇ………」
そうか、この町の保安兵は怠けているのか。 ってそんな事はどうでもいいが、どうやら何かあった様子。
何より 「女の子」 って言葉にまさかと思ったオレは、思い切って彼らに尋ねてみる事に。
「ちょっとすまない、何かあったのか?」
「……え? あぁ、酔っぱらった戦士共に女の子が絡まれてたんだよ。」
「それってまさか小柄で金髪の子じゃなかったか?」
「あ……えぇ、そうだったと思うけど……知り合いかい?」
「どうなった!? 何処にいる!?」
おそらくアリィに間違いない。 聞くと、露店前で絡まれてから路地に連れて行かれたらしい。
最初に通った時には気付かなかったが、店同士の隙間にある細い路地から裏通りに続いている場所が何箇所かあったようだ。
話したおばちゃんが指差したすぐ横の細い路地へと駆け込む。 が、人影は無い。
そのまま突き当たり、左右の分かれ道まで進むが見当たらず、そこで1度立ち止まり耳を澄ませる。
「…!」
微かに聞こえたアリィの声。
迷わず右を選び、尚も細い路地を突っ走る。 1人で行動させるべきではなかった、と後悔しながら。
――無事でいろよアリィ……!