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第08話 孤高の女剣士

※スローペースで修正中(2/24)

雄大な森は何者も拒まない。

例えソレが、人を食らう凶暴な野獣であろうと。


森は決して救いの手も差し延べない。

例えソレが、少女の生命に関わる危機的状況であろうと。


アリィを置き去りにして駆け付けたオレが見たもの。

それは2匹の巨大なトラに立ち向かう、たった1人の女剣士。

しかし決して邪魔をせず、藪に隠れて静かに見届けようと決めた理由は、女が只者ではないと見極めた故。


動物系統の中でも、トラに関してはパワー・スピード・アクション、全てにおいて別格の強さを誇る。

そんな魔物を2匹も前にし、女は互角以上の戦いを見せていて。

――やるなぁ…あの女。


女が扱う武器は、先が少し湾曲した片手剣。

巨体を相手に、あんな細い剣でよくやるなと感心してしまう。

あのトラの爪や牙を食らえば人間など簡単に引き裂かれてしまうが、女はそれを全て紙一重でかわし、的確に斬撃を加え続ける。


「はぁっ!!」


森に轟く女の声。

それは30~40メートル離れたオレの耳にも余裕で届く。

戦況から見て助太刀する必要はなさそうだが、あの武器では致命傷を与えられない為、少々長引く展開の予感。


そう感じ取った直後、オレはある気配を嗅ぎ取った。

――別のが来た…!?


森という、特に魔物が集まる場所での長期戦は好ましくない。

その音や血の匂いで、他の魔物を呼び寄せてしまうからだ。


目の前の相手に集中している女は、背後に迫る別の気配におそらく気付いていない。

いつでも飛び出せる体勢を取り、引き続き様子を窺う。


――!!

草の陰から見えたのは、戦場に向かう新たな魔物の姿。

それは僅か4~5メートル前を猛然と横切った3頭の魔物トラ

これは手を貸すべきだと身構える。 流石にあの女でも相手が5匹では無理だ。


バサッと。

勢い良く茂みから飛び出す。

仲間の狩りに合流しようと突っ走る3匹の後を追い、事前に拾っておいた木の枝を後ろから投げ付ける。


それは1匹に命中して跳ね返り、残りの2匹ごと上手く引き付ける事に成功。

立ち止まった猛獣トリオは向き直り、牙を剥き出しにジリジリと間合いを詰めてくる。


「のんびりしてると他にも来る!! 手を貸すから一気に殺るぞ!!」

「!?」


交戦中の女は無言のまま、鋭い視線を浴びせてくる。

どう思われたのか分からないが、これで状況は伝わった筈。


剣を構え、視線を目前に戻し、倒す事より “切り抜ける” 為の手段を考える。 

共闘宣言したは良いが、女の元へ達する為には立ち塞がる3匹をまず何とかする必要があって。


「おら来いっ!」


言いつつ、大きく真横に剣を一振り。

単なる素振りに過ぎないが、威嚇の手段としては有効なもの。 


――ガルゥゥッ!!!


最初の1匹が動くとほぼ同時に、他の2匹も襲い来る。


狙い通り、とばかりに全速力で走る。

だが剣は構えず肩に担ぎ、衝突の瞬間―――ジャンプする。


狙いというのは、至って単純なもの。

3匹纏めて引き付け、先頭のヤツの頭を踏み台にして飛び越え、女の所まで一気に駆け抜けるというもの。


それも、この重い大剣を持ったままで。

踏み切るタイミングも、蹴る位置も、着地も、失敗すればそこで終わり。 ヤツらの餌にされてしまう。だがこの剣は今やオレの体の一部と言っても過言ではなく、岩を担いだままでも跳躍出来るオレの脚力を甘く見てもらっては困る。


ザッ、と。

何とも見事にに着地成功。

飛び越えた上で、そのまま必死に全力疾走。

出し抜かれた3匹はというと、即座に向きを変え、同じく全速力で追って来る。

――うひゃあ。


「おい女! 手前のヤツはオレが斬る! お前は傷だらけの方に止めを刺せ!」

「……」

「後ろの3匹は…後で考える!!」


適当過ぎるが、綿密な作戦を練る時間など無い。

もうブレーキの利かないオレの足は、女の前にいるトラ目掛けて突進するのみ。

両手で握った剣は最大限、左脇へ引き寄せる。 イメージは高速の抜刀術。


「うらぁっ!!!」


ズバッ、と。

加速したこの身から放たれた、渾身の薙ぎ払い。


不意を突かれたように、敵は対応する間も無く、オレの一撃の前に沈む。

女が指示通りに動いたのか気になるところだが、余所見などしていれば後ろの3匹に食い殺されてしまう。


透かさず振り向き、今度は横一文字に剣を構える。

息を荒立てた追手は、3匹揃ってこちらに猪突猛進。 最初に無視スルーして怒らせたのは一種の狙いでもあって。


こうして仲良く向かって来てくれた方が、まぁオレにとっては。

――好都合!


ガガガギャインッ!!


敢えて剣の刃に食らい付かせ、全ての牙を一手に引き受ける。

だが、個々の体重に加えて3匹分の突進力。 その圧力たるや流石に凄まじく。


「ぬうううううぅぅぁぁぁああああああああっ!!!」


己の体ごと振り回されぬ様、精一杯の踏ん張りで耐え続ける。

問題はここからどうするかだが、機転の利く相棒が居ればこの機会を逃す事など有り得ない。


3匹の動きを止めた、この絶好のチャンスを。


「はぁっ!」


そんな掛け声と共に。

突如として視界の斜め上に現れた女が、逆手に握った剣を天高く掲げ、まるで舞うように。


大剣に食らい付く3匹の背に華麗な突きを、順に一突き二突きと。

牙の束縛から解放されたオレは、ダメ押しの薙ぎ払いと共に素早く身を引く。


「ナイスだ女!!」 

「…1匹まだ生きてる!」


呻き、地に伏す2匹。 対し、傷の浅かった1匹はもがき、苦しみ、暴れ回る。

オレが次に起こそうとした行動が女と一致したのは、同じ剣士として当然の事かもしれない。


ザシュッ!!!   シュバッ!


頭上高く掲げた大剣をヤツの首筋に振り下ろしたオレ。

左下からの素早い斬り上げでヤツの喉元を斬り裂いた女。


ガッ……ゴッ……グゥゥゥ……


ドシャッ


同時攻撃を食らったトラは、無残にも首からの大量出血と共にその体を地面に捧げる。


戦闘終了…と思ったが、念の為に周りを見渡す。

女に任せた1匹も含め、合計5匹のデカい死体が辺り一面に血を撒き散らし転がっている。


「こら女! 最後の斬り方! オレまで斬られるかと思ったぞ!!」

「……フン、邪魔をするからだ。」


何だこの態度は。 状況は分かっていただろうに、オレに対する第一声がこれとは。

落ち着いて間近で見た事で初めて分かったが、コイツは女っていうより少女だ。 しかも生意気な。


「おい、助けてもらったんだから礼ぐらい言ったらどうだ?」

「……誰が助けろと言った?」

「なんだと?」

「他の3匹が接近している事は気付いていた。 男なんぞの手を借りる必要も無かった。」


これまた酷い言い草。 徐々に怒りが湧いてきた。 完全にアリィよりムカつく女だコイツ。

腰に下げた鞘に剣を納めた女は、長い髪を手グシで整えつつオレの武器を睨み付けてくる。


「えらく無骨な剣に、随分と荒っぽい剣術だ。 筋は良いが……力任せでは限界がある」

「この……余計なお世話だ! 親父の剣に文句つけんな! 剣術は我流だほっとけ!」


これ以上この女と話していると更に心が乱される。 早々にこの場を立ち去ろう。

そう思ったオレより早く、女の方が先に背を向けて。


「まぁ……うちの奴らよりは使えるが……」

「……?」


意味の分からん独り言を残し、唐突に走り出した女。

礼どころか別れの言葉も告げず、あっという間に茂みの中へと消えて行った。

苛立つ心は収まらないが、別に後を追う気も無い。 剣の腕は認めるが、あんな口の悪い女には2度と会いたくない。


いつもの様に剣の血を振り落とし背に納める。

残されたオレは、化け物5匹の死体と共に暫し静寂の時を過ごす事に。

かなりの距離を走ってここまで来たので、自分の居る場所がよく分からない。 何より、未だ追い付いて来ないアリィは完全にオレを見失った可能性が高い。 彼女と逸れてしまった事を少しだけ嬉しく思うオレは愚か者か。



その後、殆ど間を置かずに現れたアリィ。

また魔物にビビって隠れていたのかと思ったが、女剣士の存在は知らなかった。

今の状況を簡単に説明し、無事に合流できた事で改めて目的地のジステアを目指す。 その道中、オレはある事に気付く。

――あの女も同じ方向に走って行った気が……


もしかしたら、あの女剣士にはまた会う事になるかもしれない。

そんな予感が渦巻く最中、女の風貌の事でやたら質問攻めをしてくるアリィが非常にウザかった。

オレは皮肉の意味も込め、こう答えておいた。


「誰かさんと違って背が高くて、栗色の長い髪を持った美形の女剣士……だったかなぁ」


それを聞いた時のアリィの反応が可笑しくて。

信じられないのか 「そんな絵に描いた様な完璧な女がいる訳ない」 とか言い返されて。

まぁ別にどう言われようと関係ない、オレが言った事は全て事実だし。



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