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5-6-2 ダブルボス戦 

「どれ、アルネの仕掛けを崩してやるか」


 ゴーレムが右腕を横に突き出すと、手の先に砂がするすると移動して、長い物体の形になった。色も砂色からくろがねに変わって。――長剣だ。


 腕を下げると先がかろうじて地面に着いたから、刀身は一・五メートルくらいか。間合いは長い。俺の剣が届くほど近寄るのは、厳しそうだ。重そうな剣だが、もちろんこの野郎はぶんぶん振り回してくるだろう。


「お前、アドミニストレータだろ。あのときと、姿形は異なるが」

「ほう」


 面白そうに、巨大ゴーレムは片方の眉を上げてみせた。


「まだ名乗ってはいないが……」

「アドミニストレータは、様々なモンスターの姿を取れる。そうだな」

「どうかな、それは」


 にやにや笑ってやがる。


「なぜならお前は、運営だからだ」

「……やっぱりお前はイレギュラーだ」


 唸った。


「この世界にいてもらっては困る。世界秩序を壊して回るバグは、排除せねば」


 一歩だけ。左足一歩だけ前に出した。ゆっくりと剣を構える。バッターボックスの打者のように。奇妙な構えだ。


「運営も、案外間抜けだな」


 俺は言ってやった。


「用済みのコルンバを殺さなかったのはわかる。俺達をここに誘い込む餌だから。そのために、さるぐつわすら使わなかった。助けを求める声を、俺達に聞かせようと」

「馬鹿の悲鳴は、いつ聞いてもいいものだからな」


 またしてもにやにや笑いだ。


「そもそもマルグレーテの婚姻契約書だって、てめえの仕掛けだ。契約書でマルグレーテを縛れば、俺達への餌になるる。俺が吸い寄せられるに違いないからな。てめえの本拠地、てめえが最高に有利な場所によ」

「ほう」

「ノイマン家当主だの侍従だののゴーレムが全員砂に還っていたのも、そうさ。契約書を確保した以上、仮初かりそめの貴族姿など、もう用済みだからだ。取り繕う必要はない。普通の貴族を装い続けていたら、俺とラン、マルグレーテはこんな地下なんか来やしない。当主野郎と、上階で揉めるだけで。だからわざと砂に戻ったゴーレムを残しておいて、探索する俺達を地下に誘い込んだ。ここならお前が有利に戦えるから」

「今回のイレギュラーは、なかなか頭が回るようだ」


 苦笑いしている。


「口は悪いがな」

「でも俺達が踏み込んだ瞬間に、戦闘に持ち込むべきだろ。コルンバから情報を聞き出している間なら、俺達はまだ戦闘の心構えができてないからな」


 俺の指摘にも、野郎は動揺すらしない。またにやにや笑いに戻っている。


「今となっては、てめえ一匹と準備万端の俺達三人との戦いだ。てめえに勝ち目はないぞ」


 なんたって、卒業試験ダンジョンのときとは条件が違う。俺は各種アーティファクトで武装している。それにランもマルグレーテも、魔道士としてのレベルはあのときよりずっと高い。


「モーブ、この地下がこちらにとって有利な場所だと、お前は言ったな。ああ、そのとおりさ。その点、お前の読みは当たっている」


 落ち着き払った声だ。


「だが、なぜ地下がこちらに有利なのか、その理由を考えたことはあるのか。それにもうひとつ付け加えるなら……、誰が『独り』だと言った?」


 首を曲げた。




 ドンッ――。




 轟音と共に、大きな土煙が立った。サンドゴーレムの隣に。湿気った土の臭いが周辺に拡散する。小さな土くれがいくつも飛んできて、俺の頬に当たった。


 そして土煙の真ん中に、何かが現れた。赤黒い、タコのような姿。ただ目も口も無い。頭こそ一メートルくらいと小さいが、その頭の下から、太く長い触手が何本も生えている。鱗の生えた触手も、生えてない触手もある。ざっと見て二十本近いだろう。サイズのバランスからして頭というより、触手自体が本体にすら思える。数本は途中で切れている。俺達が切ったからだ。神狐の洞窟で……。


 あのときと同じ生臭さが、砂や土の香りに交じり始めた。


「触手の……本体」


 マルグレーテが呟いた。


「こいつが、エリク家の土地を荒らしていた大元ね」

「ご紹介しよう」


 腕を胸の前に置き、ゴーレムは仰々しく頭を下げてみせた。


「アドミニストレータ。私の分身だ」


 こいつもアドミニストレータ……。くそっ、ダブルボス戦か! 地下に根城を構えるモンスター。だから地下に誘い込んだってわけか。屋敷の地下室に偽装した地下に……。クソ野郎め。


 ダブルボスは厄介だ。ボスごとに特徴が異なり、それぞれの特質を生かした連携攻撃をしてくることが多い。それにこちらの攻撃も、役割分担して処理してくるに決まってる。


 加えて原作ゲームにはもちろん、サンドゴーレムロードもこのタコ野郎も登場しない。だから俺には攻略のための情報がない。せいぜい、タコと戦ったときの経験でやるしかない。それはおそらく、俺をこの世界から排除するためだ。そのために、情報を得られない新規ボスをわざわざ作ったに決まっている。卒業試験ダンジョンのときのように。


「さて、そろそろ始めるか」


 ゴーレム野郎が呟く。ボッという音と共に、地下から青白い炎が噴き出た。このドームの壁に沿って全周。間違いない、闘技場で登場する、シミュレーションバトルのフィールドだ。神狐の洞窟で、サンドゴーレムと戦ったときと同じで。


 ダブルボス戦開始か――。


 脳の中で、俺は戦略を組み立てた。




●ダブルボス戦に挑むモーブとラン、マルグレーテ。敵を読み合う頭脳戦に勝ち、鉄板に思えたモーブの戦略は、狡猾なアドミニストレータの罠により一転。モーブはとてつもない窮地に追い込まれる。そして……。


次話「アドミニストレータの罠」。モーブ、死ぬな……。




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