4-1 晴天の霹靂
「あら、なにかしら」
いつものように村をひとつ解放しての帰路。エリク家屋敷前で、侍従長のブローニッドさんと料理長のヨーゼフさんが、気ぜわしそうにうろうろしていた。
「なにか……気がかりなことでも」
「あっ! お嬢様」
馬上の俺達に駆け寄ってくる。
「お気をたしかに」
「どうしたの、ヨーゼフ」
馬を降りたマルグレーテは、しゃがみ込んではあはあ息をしているブローニッドさんの手を取った。
「あんなに走るから」
「なにかあったんですか」
「はいモーブ様」
マルグレーテの手を借りて、ブローニッドさんはようやく立ち上がった。
「エリク家に縁談でございます」
「縁談……。お兄様に?」
「コルンバ様に縁談が来るわけございません」
ヨーゼフさんは、顔をしかめた。
「マルグレーテお嬢様にです」
「わ、わたくしに……」
マルグレーテは、俺を見た。
「いえわたくし、まだ縁談など早いわ。お断りしなくては」
「残念ながら……」
ブローニッドさんは、マルグレーテの手を握った。
「すでに婚姻契約が済んでおります。取り消しはできません」
「私どもも寝耳に水で」
悔しそうに、ヨーゼフさんが付け加えた。
「ど、どうしよう……」
しっかり者にしては珍しく、マルグレーテは動揺していた。
「モーブ……わたくし」
ブローニッドさんとヨーゼフさんがいるのにも関わらず、マルグレーテは抱き着いてきた。
「わたくし……どうしたら……」
「しっかりして、マルグレーテちゃん」
ランが励ます。
「モーブがなんとかしてくれるよ。いっつも私達の危機を救ってくれたんだもん」
「うん……うん……」
頷きながらも、マルグレーテの瞳に涙が浮かんできた。
●次話「マルグレーテの縁談」、明日公開!
急転直下の状況に、マルグレーテは、エリク家はどう動く?
そしてモーブは……。




