表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/450

3-1 ランとデレデレお弁当タイム

「ねえモーブ、お昼のお弁当食べよっ」

「おう」


 Zクラスのボロ机を、ランががたがたと寄せてきた。午前中の授業(らしきもの)が終わり、昼飯の時間になったところだ。


「今朝の女子寮、ご飯、豪勢だったんだー」

「そうなのか、男子寮はいつもどおり、悲惨の極地だったけどな」

「だから、今日はご馳走だよ。はいっ」


 かわいい弁当箱をふたつ、ランが並べた。俺、前世の学校では、一度も女子とお弁当タイムとか無かったわ。まるで夢だな、これ。


「ほら」

「おう。こいつはいい。牛カツに野菜と玉子の炒め物、それに肉団子煮まであるじゃないか」

「でしょう、ふふっ」


 俺とランは、旧寮暮らし。もちろん食事なんか出やしないので、朝晩はそれぞれ男子寮と女子寮に分かれて飯を食う。調理スタッフの休憩の関係で、昼飯はSクラス以上でないと出ない。Aクラス以下はみんな、腹減っても我慢するか、実家から送らせた保存食で済ませる。


 そもそもSクラス以上は、朝晩も特別扱いだ。貴賓室で、教員と一緒に食事取ってるからな。内容も一般食とは段違いらしいし。


「はい、モーブ。あーん……」


 牛カツをつまむと、俺の前に持ってくる。おう。これ、前世で一度も俺の身に起こらなかった、例のイベか。中学高校時代の夢というか。せっかくだから俺はこの、金色の夢に乗るぜ。


「あーん」ぱくっ。


 さくっと香ばしいカツの歯触りと共に、牛肉から旨味たっぷりの肉汁が滲み出て、口に広がった。激うまい。絶対女子寮のほうが男子寮よりいい料理人使ってるわ。


「おいしい?」

「うん」

「やーん。モーブ、かわいい」


 喜んでるな。


 俺とランには実家なんかないし、昼を我慢するのも嫌だ。なので朝食のとき、ランが女子寮の飯の余りを、弁当箱に詰めている。ダイエットだなんだで、女子寮は飯が余る。それに男子寮より全体に飯がうまいとわかったしな。


 楽しそうにおかずを詰めるランを見て、貧乏くさいと眉を潜める学園生もいるみたいだ。でもかまやしない。実際、俺とランは貧乏だし。誰はばかる必要はない。学費から仕送りまで実家頼りのお前らと違って、自分の力で生きてるんだ。文句言われる筋合いなんかない。


 ランはZクラスの胸章をしているとはいえ、本来SSSクラス楽勝合格だったのは、学園の全員が知っている。なんせSSSクラスはマジ、学園の頂点だからな。そんなランに、表立って文句を言う奴はいない。陰口は叩かれてるだろうけど、別にかまやしない。


 他人になに言われたって、それが俺の指示なら、ランは気にもしない。素直な性格だからな。


 加えて前世ブラック社畜の俺は、その程度の侮蔑で傷つくようなヤワなメンタルは持ってない。てかそれだったら、激務薄給の毎日に、とうの昔に首くくってただろうし。


「おいしいね、モーブ」

「そうだな、ラン」

「……村のみんなにも食べさせてあげたかったな」


 手が止まった。悲しげな瞳だ。


「気にするな。魔物が来るって、俺達はちゃんと警告したんだ。仕方ない」


 頭を撫でてやった。


「そうは思うんだけれども……」


 優しい娘だな、ラン。それにとびきりかわいい。これまでは孤児のお下がり服だったから、かわいいとはいえ、田舎臭さは拭えなかった。でも王立学園ヘクトールの、仕立てのいい制服を身に纏うと、まるで別人。磨けば光るとかよく言うけど、それどころじゃない。


 上着のブレザーを強く押し上げ、シャツのボタンが弾けそうなほどの胸。きゅっと締まったウエスト。ミニスカートから覗く、柔らかそうな太い腿。すらっと長く伸びた足――。これまでの田舎服では隠されていたランのスタイルの良さが、制服でははっきりわかる。


 加えて、整った小顔に、きれいな金色の巻毛だからなー。俺はまだこの学園の全学園生を知ってるわけじゃないが、これまで見た学園女子で一番――というかダントツだわ。マルグレーテは地方貴族の娘で、育ちの良さがにじみ出ているが、見た目だけならランのほうがよっぽど育ちが良く思える。


 なんせ俺と腕組んで歩いてるだけで、男は全員、振り返って見てるからな。そらブレイズ、メインヒロイン寝取られて敗北感に打ちひしがれるわけだわ。


「ねえモーブ。午後の授業って、なんだっけ」


 自分の肉団子をひとつ、俺の弁当箱に入れてくれた。


「ありがとな」


 俺がもりもり食べるのを面白がって、よく飯を分けてくれるんだわ。俺達、一緒に食べられるのは昼の弁当タイムだけだから、ランはすごく楽しみにしている。


「午後かあ……」


 時間割を、頭に思い浮かべた。


「魔法概論だったかな」

「あれ、眠くなるよねー」


 魔力桁違いのくせに、のほほんとしている。思わず笑っちゃったよ。


「まあ、教科書を自分で黙読するだけだからなー。眠くはなるわ」


 ヘクトールは、とにかく実力主義だ。上位クラスは生活面で優遇されるだけでなく、授業内容も下位とは全然異なる。AとかS、SSのクラスだと、戦闘経験豊富な戦士や魔道士が、実践的なテクニックを教えてくれる。SSSなんて、王国で名だたる戦士が教師だからな。


 授業内容はB、C、Dと落ちていって、Dにもなれない底辺Zは基本、座学のみ。それも教えてくれるわけじゃあない。学生代々受け継がれている、いたずら書きびっしりの小汚い教科書を、ただ黙って読むだけだ。教師もいるがつるっぱげのよぼよぼじいさんで、授業中は教壇で居眠りしている。


 教科書だって、「戦闘基礎術」「地形の読み方」「魔法史」とか、どえらく基礎的な内容ばかり。現実の学校でたとえるなら、小学校の教科書を高校生が読んでいるようなもんだ。それだけ落ちこぼれクラスってことだよ。


 正直、こんなに酷いとは思ってなかったよ。ゲームはブレイズ視点で進むから、学園編ではSSSクラスのド派手な授業で育成みたいのばかりだったしな。


 開発者も、ひとつくらいZクラス授業イベント埋め込んどけばいいのに。ゲームであったのは、Zクラスの跳ねっ返りがブレイズに挑んで惨めに負ける、咬ませ犬イベントだけだからなー。


「ちょっと見てみるか」


 魔法概論の教科書を取り出してみた。今日の部分を開く。今日の部分たって、みんな勝手に読むんだから、俺が読んでる部分ってだけだが。


 えーとなになに……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
書籍版でこのシーンの挿絵を見て「おおっ!」でした。 箸がないからこうなるのか~と新鮮。 WEB版と書籍版の違いを楽しんでいます~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ