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9-7 対アドミニストレータ戦

「愚者の淀み……」


「アドミニストレータ」と名乗った中ボスの指先から赤い稲光が輝き、俺に飛んでくる。腹にスタンガンを百も押し付けられたかのような衝撃が走った。


「痛ったっ!」


 間抜けな叫びが、つい出た。それくらい痛い。やたらと。十人から一気にバットで殴られたくらいの痛みだ。腹は痺れて、感覚がない。


 この攻撃は知っている。ゲームの中ボスクラスが使う、無属性魔法だ。決定的な効果こそないが、属性に左右されず、安定したダメージを与えられる。無属性だけに、属性防御魔法が効かないのも、嫌なところだ。


 だが……かろうじて立ってはいられる。仲間からHP増大や魔法攻撃緩和の補助魔法をもらっている。それに敵の魔法攻撃力も、効果時間こそ限られているとは言うものの、リーナさんが半減させてるしな。あれがなかったら、死んでたかもしれん。


「それにしても……」


 それにしても、ゲームでの戦闘ではラスボスだろうが裏ボスだろうが痛くも痒くもないのに、実際の現実として戦うと、中ボスクラスでも生きる死ぬの痛さだ。当たり前だが俺、改めて即死モブとしての厳しさを感じたわ。「あーあ負けちゃった」でリセットするわけにはいかんからな、人生って奴は。


「HP半減っ」


 マルグレーテの魔法が飛んだ。俺が攻撃を喰らったのを見ても心乱すことなく、自分の役割に撤している。わかっているのだろう。自分がやらないと俺達は全滅。ランや俺、自分の未来も悲惨なことになると。


 その気持ちに応え、俺がマルグレーテを守ってやらないと。ランも。リーナさんも。……それがパーティーリーダーの務めって奴だ。


 即死モブに転生した俺にだって、意気地いくじはある。絶対にこの野郎に勝つ。そしてこのダンジョンをクリアし、みんなに明るい未来をもたらしてみせる。


 心に誓い、俺は剣を構え直した。


「うおーっ!」


 まっすぐ突き出すようにして突進する。野郎の腹を串刺しにしてやる。三メートルの敵とはいえ、へそくらいまでなら問題なく剣が届くからな。


「……」


 無言のまま腹を指差すと、俺の剣は、また弾かれた。


「甘いな、てめえ。喰らえっ」


 腹を突いたのは陽動だ。素早く剣を引くと、叩きつけるように太腿に斬り込んだ。


「……っ!」


 奴の指から風が巻き起こって、俺は吹き飛ばされた。


 ごろごろ転がりながらも体勢を立て直し、剣を突いて立ち上がる。ランの真ん前に立った。


 驚いたように、奴の顔が歪んでいる。見ると、体を覆うローブが斬れ、太腿のあたりから煙が立っている。


「へっ。ざまあねえな」


 初めて、ダメージを入れられた。中ボスのHPからして擦り傷程度のダメージだろう。でも即死モブだって、やればできる。それがわかっただけでも心強い。


「癒やしの海っ」


 ランの手から緑色の竜巻が巻き起こり、俺に飛んでくる。途端に、俺の痛みがかき消えた。


 いやこれ、中位の回復魔法じゃん。ラン、いつの間にか魔道士スキル上がってるな。さすがはゲーム最強ヒーラーに育つだけあるわ。


 中ボスは、今度は左手で俺を指差した。


「効果付与無効化……」


 時刻表を読み上げるような、なんの感情もない声だ。赤い稲光が、また俺に飛んでくる。俺を包んでいた優しい光が、すべて消え去った。相手にかかっていた「魔法攻撃力半減」効果すら消えている。


 なんだよこの中ボス、そっち系の技使うのかよ。魔法の保護が消えた状態で攻撃食らったら俺、どうなるかわからんぞ。おまけにいちいち効果を無効化され掛け直していたら、戦闘が長引く。俺達はボスだけでなく、時間とも戦っているってのに……。


「敵魔法効果半減っ!」


 宣言したリーナさんが、即座に敵の魔法威力を減少させた。さらに次の補助魔法の詠唱に入る。ランからも、魔法が俺に飛んでくる。


「愚者の淀み……」


 ランやリーナさんの補助魔法がまだ半分ほどしか戻ってないというのに、敵の指先から赤い稲光が輝き、俺に飛んできた。


「ぐげっ!」


 たまらず、俺は吹っ飛んだ。一メートルほどごろごろ転がされる。補助魔法が足りてないだけに、痛い。さっきの比じゃない。釘バットで殴られた感じ。腹どころか、魔法を受けた正面全体が痺れている。痛みと麻痺で、どうしても立ち上がれない。


 芋虫のようにもがきながら、体を起こした。吹っ飛ばされた長剣を拾う。


「モーブっ!」


 駆け寄ってきたランに、強く抱かれた。


「しっかりっ。死んじゃやだからねっ」


 大きな瞳から、つっと涙が伝う。俺の制服に、涙は真珠のようにころころと転がった。


 ランの体から俺に、直接癒やしの力が注ぎ込まれる。痛みが消え、俺の体に、体力と気力が舞い戻った。ガントレットのHP回復効果も、地味に俺を回復させてくれているはず。詠唱型の補助魔法と違い、敵に効果を抹消されない利点がある。


「ありがとうラン。俺は大丈夫だ。下がってろ、ここは危険だ。巻き込まれるぞ」

「でも……」

「お前のことは俺が守る。約束したろ」

「うん」


 強い瞳で、ランは頷いた。


「私も頑張るね。モーブのために」


 今一度俺をぎゅっと抱くと距離を取り、また魔法詠唱に入る。


「HP半減っ」


 マルグレーテの魔法が、またボスを直撃した。三回ぶち当てて、これで野郎のHPの八十七・五パーセントをすでに削ったことになる。つまり残り一割くらいだ。


「さあ来な」


 煽るように剣を振り回し、手でくいくいと、俺は奴を挑発した。


「てめえの相手は俺ひとりだ。俺にだけ、いくらでも魔法撃ってきやがれ。てめえの攻撃なんかじゃ、俺は倒れやしねえぜ。なんたって、みんなの力が俺を奮い立たせてくれるからなっ!」


 俺の挑発にも、全く動じない。無表情。眠い朝の通勤電車で、吊り革に掴まっているときのようだ。


「効果付与無効化……」

「愚者を斬首……」

「ぐはあーっ!」


 補助魔法を無効化された瞬間、さらに上位の攻撃魔法が襲ってきて、俺は激しく吹っ飛ばされた。

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