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4-7 その日の朝

●新作「最強能力・闇の掃除人~正体を隠して無双しまくり、心の壊れたエルフを徹底的に甘やかす~」連載開始しました。【俺だけ最強×復讐×溺愛】です。本日中に5話ほど公開予定。応援ブクマ等、よろしくお願いします。

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「……」


 総船室の窓から、グレイフィンはじっと前方を睨んでいる。朝の光を受けて、俺とグレイフィンの前、小さな鳥居の向こうでは猫──狼神──が丸まり、いつ終わるともわからぬ夢の世界に落ちている。


「……」


 操舵機に置いた節張った腕に筋肉が盛り上がると、船は舵角を微妙に変える。


「おつかれさまーっ」


 小さな厨房で沸かした茶のカップを手に、ランが操舵室に入ってきた。


「はい、モーブ。それにグレイフィンさん」


 操船席の俺達の前に、カップを置いていく。


「……」


 無言で礼をすると、グレイフィンはまた前を睨んだ。


「今、朝ご飯、作ってるから」

「ありがとうな、ラン」


 渦螺鬼うずらきが出た日から、グレイフィンは「やたらとさぼって昼寝する」堕落船長ではなくなった。早朝から日没まで操船室に詰め、細かく進路を変更する。食事ももちろんここで取る。


「失われた大陸」との航路は二十年前に失われ、荒れ狂う恐ろしい海域と化している。実際俺達はあの後も何度もモンスターに襲われ、そのたびに退けてきた。なんなら航行を止め流されるに任せる深夜にすらポップしてくるから厄介だ。幸い俺達は大人数。夜通し交代して見張りに立つのが日課になっていた。


「今朝はおだやかだねーっ」


 陽光にきらきら輝く白波を、ランは見つめた。


「昨日は荒れて大変だったけど」


 実際そうだ。「失われた大陸」へと向かう波路にはところどころ、川でさえ信じられないほどの急流があり、船腹を滝のように水が打つ。船首をどちらに向けるか、その一瞬の判断ミスが転覆や船腹穿孔を招く。日に日にグレイフィンはやつれ始め、充血した瞳だけがぎらぎら輝いていた。


「少しは休んだらどうだ、グレイフィン。ランの言うように、見たところしばらくは凪いでいる。一時間ほど、俺とランがここでウオッチする。なにかあればお前を起こす」

「いや……」


 グレイフィンは首を振った。


「今日中に……ブリギット島が見えてくるはずだ。それまでは全力を尽くしたい」

「そうか……」


 ブリギット島。そこはグレイフィンが立ち寄りにこだわった、「墓」があるはずだ。誰の墓なのか機を見て何度か尋ねたが、はぐらかされていた。


 見渡す限り、周囲に島はない。どちらの大陸からも離れた絶海の孤島に、そもそも誰がなんのために墓を作ったのかはわからない。グレイフィンの身内や仲間の墓とは考えにくい。それなら村外れでいい。だからおそらく古代の誰かの墓だろうと俺は踏んでいた。


 たとえば、とんでもないお宝が隠されているとか、古代の貴重なアーティファクトがあるとか。それであれば、危険を冒しても目指す価値はある。いずれにしろモンスター海域だ。俺達のような「頼りになる」戦力が通りかかるまで、グレイフィンはあの浜で待っていたのかもしれない。


「なら私が魔法をかけてあげるよ」


 背後に回ったランは、グレイフィンの肩に手をかけた。そのまま肩揉みの要領で手を動かす。ランの手に、緑色の輝きがまとわり始めた。もやのように。


「……ああ、こいつはいい」


 いつもは苦虫を噛み潰したような表情ばかりのグレイフィンの顔が、思わず緩んだ。


「私、山奥の村ではこうやって、孤児院のシスターの疲れを取ってあげてたんだよ」

「疲れだけではなく……こう……なんというか……」

「癒やされる、だろ」

「ああ。そうだなモーブ、そのとおりだ」


 俺の言葉に、グレイフィンは頷いた。


「癒やされるなど、二十年ぶりだ」

「二十……年……」


 大陸間航路が混沌へと沈み荒らされたのも、二十年前だ。


「グレイフィン、それって──」

「ふたりの朝ご飯だよーっ」


 勢いよく扉を開けて、レミリアが飯の盆を持ち込んできた。後に何人も、同様に。


「ふたり分の飯にしては多いな。十人分くらいある」

「みんな、モーブと一緒に食べたいんだって。もちろんあたしも」

「モーブ様だけでなく、グレイフィン様とも共に朝餉を囲みたいのです」


 能天気でなんも配慮しないレミリアの言葉を、アヴァロンがフォローした。背後の大テーブルに、みんなが盆を並べ始めている。


「モーブよ……」


 グレイフィンは、思わず……といった様子で苦笑いしている。


「家族円満の秘訣を教えてくれ。なんでも、リーナはお前の先生だったそうじゃないか。同級生ふたりだけでなく学園の先生、さらにはエルフや獣人巫女、魔族にまで手を出して恨まれず、しかも仲違いさせずにいる秘密を、俺も知りたいものだ」

「そりゃ……愛だろ」


 適当に答える。


「愛……か。遠い言葉だな……今の俺には」


 一瞬、淋しげな瞳となった。


「はよう席につかんか、馬鹿婿殿」


 ヴェーヌスに睨まれた。


「お前らが来なくては飯が始められないわ、殺すぞ」

「はいはい」


 グレイフィンと目を見合わせ苦笑いすると、みんなが待つテーブルに着く。俺の背後では、猫がすうすう眠っていた。


 にぎやかに朝飯のテーブルを囲む俺達は気づかなかったがそのとき、はるか水平線の向こうに、小さな島が見え隠れし始めていたんだ。そう、ブリギット島が。

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