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4-6 対渦螺鬼戦

「やったっ!」


 爆発の轟音に負けじと、シルフィーが叫んだ。殻が爆散しぐったりしたサザエ野郎に、とどめとばかりマルグレーテが、爆散魔法を連発している。


「ぐ、ぐぐぐっぐっ」


 虫の鳴き声のように、苦しげな呻きが、野郎の口?から漏れている。


 戦闘は十五分ほど続いた。マルグレーテやシルフィーの雷属性攻撃魔法、それにニュムの呪術、そこにアヴァロンのフィールド属性付与、さらには息をもつかせぬレミリアの炸薬矢連発を受け、サザエ野郎は殻に閉じ籠もった。そこにとどめのマルグレーテ炸裂魔法を受け、殻が爆散。いよいよ勝負あったと思われた。


 直接攻撃こそ不可能な海面接敵だが、こちらの手札には分厚い間接攻撃枚数がある。いくら殻のある守備的モンスターと言えども間隙なく攻められて、序盤を除けば防戦一方になっていた。


「よしっ」

「やったねっ、モーブっ」


 レミリアが抱き着いてきた。


 野郎のつらら攻撃が連発で俺を狙ってきたときはやばかった。胸に突き刺さる寸前でヴェーヌスが蹴り飛ばしてくれなかったら、どうなっていたかわからん。


「野郎……反射で生きる守備型モンスターかと思いきや、知性があるのか……」


 なんたって俺をリーダーと見て集中攻撃してきたからな。海棲モンスターと言えども、こりゃ今後も侮れないぞ。


「まだだっ!」


 さらに続く爆散音を、グレイフィンの怒鳴り声が上書きした。


「こいつは渦螺鬼うずらき。殻の中に危険なマナを溜め込んでいる。そしてそれを一気に解放する。死ぬときに」

「ぐぐぐぐぅっぐっ」


 サザエ野郎の軟体が急に、ソフトクリームのように捻れた。雑巾を絞るように、体が収縮していく。


「来るぞっ! どこでもいいから掴まれっ!」


 叫んだグレイフィンが、手近なニュムの手を引くと操船室の陰に飛び込む。ランとマルグレーテを抱え込むように、俺も続いて甲板に倒れ込んだ。視野の隅に、各人が習うのが見える。


 ──……っ、……っ……っ──


 なんとも言えない、金属が擦れ合うような超高域の軋み音と共に、サザエ野郎の体が発光した、激しく。


 ──と思うまもなく、俺の体は吹っ飛ばされた。


「モーブっ!」

「いやあああっ!」


 しがみついているランやマルグレーテと共に、俺の体はごろごろ転がされた。甲板端のブルワーク、つまり転落防止用の魔樹柵が俺達を抱きとめてくれたが、強い衝撃に堪えきれず、魔樹というのにぽっきり折れた。わけもわからないまま空と海が視野をくるくる横切ったと思う間もなく、体に衝撃を感じた。落水したのだ。


 叩きつけられるように水面に落ちたので体を強く打ち、激烈な痛みと共に、肺から全ての空気が排出された。


 苦しい。


 健気に俺に抱き着いたまま、ランとマルグレーテも強く瞳をつぶっている。水中をくるくる回りながら、俺達は沈下していく。温かく澄んだ水に、陽光が射している。ふたりの髪が竜巻のように水中に広がっている。


 ──と。俺達の体は、誰かに抱き取られた。ルナヴィアだ。信じられないほど強い力で俺達の胴を抱く。そのまま、俺達はぐんぐん浮上し始めた。ルナヴィアは泳いでもいない。ただただ体から強い浮力が生じているのだ。


「ぷはっ!」

「はあっ!」


 ざばんという衝撃と共に、空中の音が戻ってきた。見ると、水面には何人かの頭が覗いている。


「モーブっ!」


 船上で、レミリアが手を振っている。


「み……みんなはっ」

「大丈夫。モーブたちで最後。みんな上か、海面にいる」

「よしっ」

「今、魔導ロープ投げるねっ」

「俺達は大丈夫。ルナヴィアがいる。他を優先しろ」

「わかったっ」


 やはりというか、船上にいるのはエルフ連中。バランス感覚に優れているからな。同じく体幹の強いアヴァロンやヴェーヌスは、海上に浮かんでいた。落水した仲間を助けるために飛び込んだのだろう。ルナヴィアのように。


「なかなか温かいのう……」


 ルナヴィアが、呑気な感想を口にした。


「いい海水浴じゃわい。婿殿と抱き合えるし」

「にしてもあいつ、死ぬときは敵も道連れにとか、極悪すぎる」

「言ってみれば、蜂や毒虫の戦略だのう」

「それで懲りた相手は、二度と手を出さなくなるってか」

「暖流で良かったわね。水温二十八度くらいありそう。これが四度くらいだったらみんな、数分で死んでいたわよ──ランちゃん、大丈夫」

「う、うん……」


 かろうじて微笑んだものの、ランはげほげほ咳き込んでいる。


「少し……水飲んだ」

「なに、たいしたことはない。少しすれば落ち着くはずだ」


 そう言いながらもルナヴィアは、ランの体を持ち上げた。水面から大きく体が出るように。


「あははっ。私空に浮かんでる」


 ランは大喜び。どうやらもう、平気なようだ。


「お前凄いなあルナヴィア。泳いでもいないのに、浮きみたいじゃんか」

「ドラゴンだからな。巨体の空中浮遊には仕掛けがあるわい」

「そう言えば、ドラゴンって翼もないものね」


 マルグレーテはしきりに感心している。


「モーブ、まだそこでいちゃつくか」


 こっちに魔導ロープを投げて、グレイフィンが苦笑いしている。


「俺はそれでもいいぞ。こっちはこっちで、みんなで飯にする」

「俺達が最後か」

「ああ」


 後ろを振り返る。


「そうだ」


 みんな舷側に体を乗り出して、手を振っている。


「モーブ、ご飯だよっ」

「今日は巻き貝のパエリアだよ」

「あのモンスターを倒したからな。験担げんかつぎだ」


 楽しげに笑っている。長旅を経て、みんなたくましくなったなあ……。ついさっきまで、生きる死ぬの戦闘をしてたっていうのに。ただ俺と嫁との永遠に続く新婚旅行だってのに、歴戦の勇者旅かよ。


 浮力に満ちた魔導ロープを俺達が掴むと、船上のウインチが巻かれ始めた。

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