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3-6 猫の名前

「……」

「……」

「……」


 レミリア達の危機wを解決してリゾートに戻る山道。クエストは解決したので、急いで戻る必要はない。皆、森を楽しみ寄り道しながら三々五々と湖畔に向かっている。レミリアとかよせばいいのに、またぞろ脇道で木の子採取したりしてるし。


 で、俺は狼神アルドリーの背に跨り、みんなから少し先行していた。俺に「幅ネーロ」ケーキを無理やり試食させられただけに、アルドリーは怒っていた。なんせ俺の下半身に噛みついてきたくらいだしな。でもまあランとマルグレーテがせっせと毛並みをブラッシングしてくれたおかげで、なんとか機嫌を直し、俺も乗せてくれた。


 ……まあとはいえこうして黙り込んだままだが。


「……」

「……」

「話せ」

「はあ?」

「余に乗りたがったのだ。なにか話があるのであろう」

「……バレてたか」

「余をなんだと思っておる」

「ワン公」

「……食い殺してやろうか。ランやマルグレーテには悪いが」


 脚を止め、俺を振り返ると唸ってやがる。


「悪い悪い。冗談だ」


 ほっと息を吐くと、俺は話し始めた。


「いや、俺が連れてる猫のことなんだが」

「……わかったのか」


 アルドリーは、またゆっくり進み始めた。


「ああ。あいつは水神霊スガミ戦のとき、ドラゴンロードのルナヴィアと俺に生命力を与えてくれた。それで昏倒し、未だに意識が戻らない」

「……なるほど」

「ルナヴィアは婚姻形態となり、俺の嫁候補になったんだ。それで教えてくれたよ、この猫が狼神の仮の姿だと。お前の仲間なんだろ。例の……謎の転生者に攻撃されて吹き飛び、かろうじて猫の姿で蘇った」

「うむ」

「お前がこれだけ傷だらけになり、片目を失ったほどの衝撃だ。猫姿になれただけでもたいしたもんだ。実際、もうひとりの狼神はそのまま行方知れずなんだろ」

「おそらく死んだと思っておる」

「あの猫と会った時、お前はなにか会話していただろ。それで言った、こいつも俺と共に旅したいようだと」

「ああ。余はすぐわかった。あれが仲間だとな」

「あの猫の本当の名前は」

「……シュレ」

「それは俺が仮に名付けた奴だ」

「それでいいではないか」


 ゆっくり歩きながらアルドリーは、空を見上げた。


「あいつはお前について行きたがったのだ。いずれ……狼神姿にもし戻ることがあれば、真名もわかるだろう。それにしても……」


 また振り返る。


「こんな阿呆について行きたがるとはな。おなごの考えはわからんわ」

「猫姿だと遠くまで行けないからだろう。狼の本性だろ、野山を駆け巡るのが」

「うむ」


 その猫がどうやら睡眠中に俺の夢に登場し関係を持ったことは、とりあえず話さずにおく。一目惚れでついてきたはずはないが、道中俺のことを知るにつれ、そういう気持ちになったのだろうと俺は想像している。あるいは転生者たる俺と関係を持つと、狼神としての復活が早まるとかなのかもしれない。いずれにしろこいつは「にゃあ」としか話せないから、真意はわからん。


「あやつがお前に生命力を分け与え倒れたというならモーブ、お前を大事に思っておる証拠だ。おそらく……伴侶として」

「それはありがたい話だ」


 とだけ言っておく。


「俺達は旅をしている。リーナ先生の故郷と、ドラゴンルナヴィアの因縁でな。東の大賢者タチバナの遺念を叶えるために。東に行き、信太の森に幽閉されマナの苗床とされている、ホワイトドラゴンを復活させるために。死返玉まかるかえしのためというアイテムを使って」

「つくづく、お前も厄介な案件に巻き込まれるのう」

「嫁のためだ。なんでもやるさ。……それで道中、なんとか猫も昏睡から蘇らせたい。どうしたら──」

「どうしたら猫──シュレ──を目覚めさせられるか、か」


 アルドリーに先回りされた。気になっているんだろう。


「ああそうさ。教えてくれ、アルドリー」

「この話をしたかったから、余に乗ったのか。皆と少し離れて」

「まあそうだ。どうだ。マナを注ぎ込めばいいのか。それならちょうどホワイトドラゴンクエストで同時達成できるかもだ」

「原理的にはそうだが……残念ながらお前にも仲間にも、そんなことはできまい」


 アルドリーは首を振った。


「時間が解決するのを待つしかないだろう。神は内発的に生命力を蓄積させる能力がある。それを待つのだ。……それにしても」


 立ち止まると体を振って俺を背中から振り落とした。


「それにしてもこんな男に命を与えるなど……」


 首を傾げている。


「まさか……とは思うが……」

「モーブぅ、待ってーっ」


 はあはあ息を切らしながら、ランが走ってきた。


「もう。急ぎすぎだよモーブ。モーブが一緒じゃないと、みんなさみしいんだよ」


 飛び込むように、俺に抱き着いてくる。


「えへっ。なでなでして」

「甘えん坊だなあ、ランは」


 艷やかな髪を、ゆっくり撫でてやる。


「モーブに撫でられると……落ち着く」


 ランの瞳は、しっとり濡れてきた。


「……好き」


 俺の胸に、頬を寄せてくる。


「うむ」


 アルドリーは唸った。


「やはりモーブよ、お前は転生のときにインキュバス能力を得たのではないか」


 呆れたような声だ。


「そうとしか思えん。ランやマルグレーテだけならともかく、十人以上も嫁を取るとは」

「ここにいるお嫁さんだけじゃないよー」


 ランが微笑んだ。


「ゴーゴン孤児院のエリナッソン先生、それにリゾートのベイヴィルさん。あと……ポルト・プレイザーにジャニスさんがいるでしょ。あとあと……えーと、あと誰だっけモーブ」

「もういいだろ、ラン」


 キスして唇を塞いでやった。このままじゃ猫の夢婚姻のこともバラされちまう。


「……好き」


 唇を離してやると、ランがまた呟いた。


「困ったもんだのう」


 アルドリーは苦笑いだ。


「いいかモーブ、こうなったからには仕方ないが、ベイヴィルは幸せにしてやれ。デュール家とは因縁がある。その子孫は大事にしたいからな。もし泣かすようなことがあれば……」


 唸り声を上げた。


「今度こそその粗末なものを食いちぎってやるわい。ランの回復魔法でも復活できないくらいに」

「物騒なこと言うな」

「大丈夫だよ、アルドリーさん」


 ランは微笑んだ。


「ベイヴィルさん泣いてたけど、幸せの涙だったもん。モーブとちゃんと結婚できたから」


 ランの余計なひとことを聞いたアルドリーが、また俺の股間に咬み付いてきた。

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