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9-4 通路崩落

「あっ!」


 入り乱れる馬の蹄音に交ざって、ランの悲鳴が聞こえた。


「止まれっ!」


 俺の号令で、全頭が歩みを緩めた。


「どうした、ラン」


 馬を降り駆け寄ると、ランはいなづま丸の上で唸っていた。


「あ、足が……」


 あぶみに乗せていた足が外れ、バランスが崩れたらしい。


「ここ五分くらい、地面が悪かったものね。見せて……」


 リーナさんが、ランの左足首を持った。


「どう、これ」


 ゆっくり足首を曲げる。ランが顔を歪めた。


「い、痛いです」

くじいてるわね。今、治療する」

「俺が抱えます」

「うん」

「モーブ……」


 俺にしがみついたランをなんとか馬から降ろし、洞窟の壁にもたせかけた。


「少し休もう。マルグレーテ」

「それがいいわ」

「すぐ脇に泉があった。あそこで馬に水を飲ませてやってくれ」

「わかった。……ランちゃん」

「ごめんね。マルグレーテちゃん……」

「気にしないで」


 ランの手を握って励ましてくれていたマルグレーテが、馬を誘導して泉へと向かった。


「ごめんねモーブ、私が怪我したから……」


 ランはもう泣きそうだ。痛みというより、時間のロスを招いたことで。


「いやラン。俺が悪い。休みなしで調子に乗って走ったから」


 頭を上げて、俺はタイマーを見た。




――1:33:49――




 取り出した回復ポーションを、リーナさんが振りかけた。


「いい、ランちゃん。私が回復魔法を唱える」

「自分でも掛けます」

「そうしてくれたら、速いわ。ふたりでやろっ。いかづち丸のときのように」

「はい、リーナさん」


 ランとリーナさんがハモるように詠唱を始めると、緑の光がかすかかに、ランの足首の周囲を取り巻いた。


 しゃがみ込んだまま、俺は改めて地質を確認した。硬い岩盤を覆う砂が、これまでと異なり、かなり大粒になっている。小石と言えないくらいまでに。足元が悪いから、そりゃ揺れるわけだわ。


「リーナさん、発光弾もらいます」

「……」


 詠唱を続けたまま、リーナさんが頷いた。


「なにをするの、モーブ」


 いかづち丸たちを泉に誘導したマルグレーテが、戻ってきた。馬は大人しく水を飲んでいる。


「ちょっと気になってな」


 棒状の発光弾を起動させる。青緑のクールな光が、俺の手の先に灯った。発光弾は、強い輝きを放っている。


「やっ!」


 思いっ切り放り投げる。通路のずっと先に向かって。トーチ魔法でも光が届いていなかった洞窟の奥が、ぼうっと浮き上がった。


「見ろ、マルグレーテ」

「……崩れてるわね」

「ああ」


 ずっと先で右の壁が崩れ、地面が塞がりかかっている。ここしばらく地面が荒れていたのは、このあたりに地殻変動でもあったためだろう。


「地図くれ」

「待ってて」


 マルグレーテが地図を持ってきてくれた。広げる。


「馬では通れないな」

「そうね。この先の宝は、ここよ」


 地図のポイントを指差した。ついでに崩落地点に、太いペンで大きくバッテンを描き込む。


「馬をここに待たせて、崩れたところを歩いて進めば、先には行けるわ」

「ただそれだと、明らかに時間切れになる」

「そうね」


 マルグレーテも同意した。


「回り道して向かうしかない。……大丈夫かしら」

「安心しろ。こんなこともあろうかと、ルートを何通りも検討したんじゃないか」


 地図の脇にびっしり書かれた書き込みのひとつを、俺は示した。


「A案を捨てる頃合いだ。ここからBルートを辿るとすると……」


 俺の指が、地図を辿る。


「五分ほど戻った分岐を左に進むか。それでずっと先の宝を先に取る。その後で右に回り込んで、この崩れた先の宝を拾おう」

「いい案だと思うわ」

「まだよかった、宝箱へのアクセスが二ルートあって。行き止まりの宝箱で途中が崩れていたら、かなりクリアが難しくなる」

「不幸中の幸いって奴ね」

「ああ」


 今一度、俺はタイマーを見上げた。




――1:29:58――




 すでに制限時間の半分を切っている。ここまでで、宝を三つ回収した。例の革のガントレット。それに消費アイテムがふたつ。戦闘中に便利な高回復ポーションと、耐久向上ポーション。いずれも消費アイテムとしてはそこそこレベルが高く、長期戦で役立つアイテムだ。


 ここまで、施錠されていたのはガントレットの箱のみ。他は罠も鍵も無い。どの宝箱にも、「アルネ・サクヌッセンム」という銘があった。


 ルートとしては半分を越えたあたりだが、この崩落で回り道が生じる。半分弱と思えばいいだろう。それで、宝があと四つ。この休みで十分は消費する。余裕を持つとして、残り一時間で宝を四つ回収して入り口まで戻らないとならない。


 これまで以上に急がないとならないだろう。幸いというか、ここで馬を休められた。多少飛ばしても問題はないはずだ。


「マルグレーテ。例のガントレット、特別な効果があると思うか。……なんか時間の進みを遅くするとか」

「戦闘中に使うものだからねえ……」


 眉を寄せて唸った。


「期待薄。それに鑑定スキル持ちは、リーナさんだけよ」


 だなー……。


「リーナさん、治療はどうですか」

「もう終わった。予想よりずっと早く。ランちゃん、どんどん魔力が増大してる。もう中級の回復魔法も使えるし。普通、三年以上修行しないと無理なのに……」


 舌を巻いている。さすが最強ヒーラーに育つキャラだけあるな、ラン。


「ならすみません。念のため、ガントレットを鑑定してみて下さい」

「わかった。けど鑑定すると、三分くらい時間かかるよ」

「はい。お願いします」


 その程度なら問題ない。ランと馬の休憩にもなるし。


「じゃあやるね」


 荷袋から取り出したガントレットを地面に置き、手をかざす。特に光るような効果は無い。


「どうだ、ラン」


 脇にしゃがむと、ランは俺の手を握ってきた。


「もう大丈夫だよ、モーブ。痛くなくなったもん」

「無理させて悪かったな」


 頭を撫でてやると、抱き着いてきた。


「平気。……モーブが優しくしてくれて、元気出たし」

「よし。……無理するなよ」

「わかってる」


 トーチ魔法のオレンジの明かりの下、ふたり見つめ合った。


「モーブくん。鑑定終わったよ」


 リーナさんが顔を起こした。


「これ、回復系効果があるわ」

「どういう」

「戦闘中のHP自動回復、それに戦闘速度アップ」


 そりゃいい。前衛ならHP回復は役立つし、速度アップは後衛魔道士にも有用だ。


「なら先に進もう。この先が崩れているので、少し戻ってBルートを辿ります」


 簡潔に説明し終わった頃には、マルグレーテが馬を引き連れてきていた。気が利くな、マルグレーテ。


 馬に跨ると、俺はタイマーを再度確認した。


「よし。馬も休養充分。ここからは飛ばすぞ。……怪我をしない程度にな」

「わかった」

「うん。もう大丈夫だよ、モーブ」

「モーブに任せるわ」


 三人の先頭に立って、俺は走り始めた。いかづち丸頼むぞ。お前の力を見せてくれっ!



 ――あと一時間と、二十二分五十六秒――




●次話、モーブ組の誰ひとりとして予想だにしていなかった、驚愕の展開に! 四千五百字、一挙公開です。おたのしみにー。


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