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2-2 対スガミ戦闘の戦略

「水中戦だと負ける。たしかに俺もそう思う。なぜなら俺達が水中で有効な攻撃を撃つのは難しいからだ。見てみろ」


 俺の返事に、みんなが紙を覗き込んだ。


「水中では水の抵抗が大きい。よって剣や弓矢、ないし格闘系といった物理の攻撃力は半減する」

「そもそも矢はたいした距離飛べなくなるしね」

「あたしのキックも同様だ」


 レミリアやヴェーヌスも認めた。


「ただし、絡み付ければ別。絞め技なら相手に有効なダメージを与えられる」

「だがフィールドは水中だ。ヴェーヌスやあたしが相手の関節を極めたとしても、何分息が続くか」


 とんとんと、シルフィーが紙を叩いてみせた。


「なにしろ格闘しているのだから息が上がっている。反して相手は水中が本拠地。何十分でも戦える」

「現実的に考えて唯一有効なのは、わたくしや魔導系の放つ魔法ね」

「あとは私の地形効果付与、ニュムさんの呪術くらいでしょうか」


 昏睡を続ける猫を膝の上で撫でながら、アヴァロンが付け加える。


「しかも足の届かない水深での水中戦だ。攻撃も防御も泳ぎながらということになる」

「いずれにしろみんな、息継ぎの必要はあるものね」

「息継ぎの間は完全に無防備。敵はこれ幸いと攻撃してくるだろう」

「ルナヴィアさんはどう。ドラゴンなら水中も自在なんじゃないの」


 ランの問いに、ルナヴィアは首を振った。


「ドラゴン形態ならのう……。だが余はすでに婚姻形態へと姿を変えた。仔を腹に宿すまでは基本的に、あの形にはなれんだろうて。……つまり今は人型種族と大差はない。少なくとも水中での振る舞いとなれば」

「エリナッソン先生、水中でゴーゴン石化が可能ですか」

「それは……モーブ様……」


 眉を寄せて首を振った。頭の蛇と共に。


「石化は視覚を通じての能力です。水中ではご存じのとおり視覚は強く制限されますし、よほど近づいてからでなければ無理でしょう」

「近づかせてくれるわけがないものね。モーブの書付を読む限り、スガミは水を自在に操る能力があるということだし」


 マルグレーテは腕を組んだ。


「それにこの鏡像攻撃とか逆界波とか、相当厄介よ」

「水上からの攻撃に無敵なだけでなく、反転攻撃されちゃうものね」

「やはり水中戦闘は無理ね。ベイヴィルさんや狼神アルドリーを加えたとしても、水中では同じことだろうし」


 ほっと息を吐くと、リーナ先生がお茶を口に運んだ。


「となるとこちらは陸上、ないし水上から攻撃を仕掛けることになるけれど……難しいわね。相手は水上や陸上からの攻撃には無敵だもの」

「だからヴェーヌスの提案のように、相手を水上に引っ張り出す必要があるってことさ」

「水中に居れば安泰なのは、向こうもよくわかっておる。よほどの理由がなければ、こちらのフィールドには引き出せまい」

「水中に毒を撒くのはどうかな。強力な毒なら、僕は持ってるよ」

「いや、それはまずい」


 ニュムの提案を、俺は退けた。


「今回は戦うのが目的じゃない。最終目標は、デュール家水源の汚染を正すこと。毒を撒いたら元も子もない」

「そうか……そうだね。僕の家系は呪術巫女だからね。発想が偏ってたよ、ごめん」

「謝らなくていいさ、ニュム」


 小柄のニュムを引き寄せると、膝の上に抱っこしてあげた。


「俺のことを思っての提案だ。かわいい嫁のな」


 ぎゅっと抱き寄せるとニュムは、甘えた声を漏らした。


「モーブ……」


 振り返るようにして耳に口を寄せ、好き……と囁いてくれた。


「神聖な水域を汚さないように相手を水上に引き出し、水域を汚さないように戦う……のか」


 カイムが首を傾げた。


「なかなか難しいですね、モーブ様」

「多分……水面に引き出すのには、様々な能力を重ねがけしないとならないと思うんだ」

「それはいいけれどモーブ、具体的にはどうするのよ」

「そうだなマルグレーテ。まずはお前の初手魔法からだ。水中に入るまでに詠唱を終わらせておき、入水後すぐに氷結魔法を撃て」

「水槍か氷球を相手に飛ばすのね。魚雷のように」

「解ければ元の神聖な水になる。水域汚染はないということか」

「同時に私が地形効果を加えましょう」

「ああアヴァロン、それを頼もうと思っていた」

「相手もこちらを攻撃してくるだろう。だが鏡像攻撃や逆界波といった反射攻撃の心配はない。俺達は水上攻撃をしないからな」

「なるほど」

「一進一退の攻防が続くだろうが、徐々に距離を詰めていく」

「息継ぎはなるだけ分散させねばのう。それであれば水中に残った仲間が援護できる」

「三メートルくらいの間合いになったら、一気に勝負だ。なにか鞭のようなもので相手を絡め取り引き寄せ、ゴーゴン石化させ、そのまま水上にぶち上げる」

「あとはこちらも浮上し、石となった相手を総攻撃するのじゃな」

「ああルナヴィア、そういうことさ」

「近づけさせてくれるかのう……」


 ルナヴィアは、俺をじっと見つめてきた。


「相手は水中が本拠地。おそらく水中移動もお手の物であろうよ」

「まあ……な」


 そこなんだよなー。原作ゲームでも結構苦労するんだよ。水中では防御中心で逃げ回り、こちらが息継ぎで無防備なときに無慈悲な攻撃してくるし。水中呼吸の補助アイテムを事前に入手していなければ、ほぼ負け確だし。


 そしてもちろんそのアイテムは、本来の古代研究所跡の奥深くに放置されている。俺達のいる場所じゃない。なんたってスガミは原作ゲームのダンジョンではなく、この土地に出てきやがったからな。


「まあとにかく、それが基本戦略だ。あとは──」

「ベイヴィルさんやアルドリーさんと合流してから再検討だね、モーブ」

「そういうこと。みんなも道中、色々考えてみてくれよ」

「うん……」


 体を反転させると、ニュムが俺の上に跨る形となった。


「今晩、一緒に眠ってくれるよね、モーブ」

「あ、ああ……」


 ニュムは、自分の存在にコンプレックスを抱えている。なにせ性別を隠さざるを得なかった生い立ちだし。だからあんまり自分から積極的になることはないんだ。珍しい。


「モーブに抱かれていたら……なんだか……こうなっちゃって……」


 そのまま身を倒すと、唇を重ねてきた。情熱的に。


「……」

「……」

「……」

「ん……」


 力を入れて抱いてやると、吐息が漏れた。


「はあ……モーブぅ……」

「よしよし……」

「仕方ないわねえ……」


 立ち上がると、マルグレーテが腰に手を当てた。


「この宿には二泊するし、今晩はニュムやエルフ各部族と眠るといいわ、モーブ。わたくしたちは続き部屋の寝台を使うから」

「じゃあ明日の晩は、私とヴェーヌスさんが予約しましょう」


 涼し気な表情で、アヴァロンが付け加える。


「私もヴェーヌスさんも体力はトップクラス。モーブ様……寝かしませんよ」


 なかなか恐ろしいことを口にする。


「あの……」


 リーナ先生が口ごもった。


「大丈夫ですよ、リーナ先生。ランさんマルグレーテさんと共に明日の午前中、モーブ様とお昼寝なさいませ。もしかしたら……」


 澄んだ猫目が、俺をじっと見つめた。


「もしかしたら、エリナッソン先生やルナヴィアさんと共に」

「あの……」


 エリナッソン先生の顔が、真っ赤になった。


「は……恥ずかし……」


 頭の蛇まで照れててかわいい。


「余は遠慮しておこう」


 鷹揚に、ルナヴィアは笑ってみせた。


「まだモーブの心と魂が余と契ってはおらんようじゃ」



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