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10-1 大深度地下迷宮へ……

「長いなあ……」


 思わず愚痴が出た。もう三日ほど、地下を下っている。


「仕方ないでしょ、モーブ」


 背後から、マルグレーテの声が聞こえた。


「遠足に来たわけじゃないわよ」

「まあなー」


 ダークドラゴンが棲息する大深度地下に向かい、俺達は進んでいる。ドラゴンが上り、そしてワラキアの民との戦闘で転がり落ちた穴だ。垂直に近く、しかも幅広い。もちろんそんな穴に挑めば「落ちる」しかない。なので俺達は、穴の縁に出っ張る岩を、螺旋階段のように下り続けている。


 時折、横穴のようにえぐれている部分がある。そこで休憩し、またビバークもこなしてきた。今日はまだいい場所がなく、昼食が遅れている。予定が狂い、俺は少し焦っていた。



「モーブ」


 先頭を進むニュムが振り返った。なにしろ危険な降下だ。バランス感覚に優れたエルフに先行を頼むしかない。中でもニュムは小柄だから最適任だ。


「ここ、少し段の間が広い。飛び越えるしかないけど、足元の岩がつるつるだ」

「危険なのか」

「滑ったらそのまま穴を滑落する。……永遠に」

「ひとり……いやパートナーとふたりずつ、注意深く跳ぼう。前後の人間は、ロープで支えるんだ」

「はい、モーブ様」

「じゃあまず、僕が飛ぶから。みんなそこで止まっててね」

「よし」


 全員停止したのを確認すると、ニュムは次段へと飛んだ。幅だけでなく、想像以上に上下の段差がある。


「……」


 大丈夫かな。まあ信じて進むしかないか……。


 俺、ラン、マルグレーテ、リーナ先生といったヒューマン四人組には、降下バランスの補助を付けてある。一番体力に劣るマルグレーテには、大柄なダークエルフのシルフィー。ランにはハイエルフのカイム。リーナ先生には森エルフのレミリア。俺には獣人巫女のアヴァロン。それぞれ手を繋ぎながら、慎重に下っていく。もちろん全員、ロープで体を繋いでいる。


 殿しんがりは魔族ヴェーヌスだ。最後尾から全体を見ていて、誰かが足を滑落するなどあれば、飛び込んで助ける。あーちなみに猫は布でくるんで俺の服の中に収めている。胸から顔だけ出して、興味深そうに周囲を見回しているよ、こいつ。度胸あるなあ……。


「すぐ先に横穴がある。この難所を抜けたら、休憩できるよ」

「わかった、ニュム。……いいか、アヴァロン」

「お支えします、モーブ様」

「んなーん」


 偉そうに、猫まで返事してやがる。いやお前は一番楽してるじゃないか。


「みんな、俺とアヴァロンを見て参考にしろ」

「大丈夫だよ、モーブくん」


 気丈にも、リーナ先生が微笑んでくれた。


「エルフのみんな、すごく頼りになるし」

「よし。……跳ぶぞ、アヴァロン」

「カウントします。三、二……今ですっ!」

「よ……っとうわっ!」


 ギャップは飛び越えたものの、足が滑った。滑落しそうになった俺の腕を、アヴァロンが掴む。かわいい姿からは信じられないほどの握力で。俺の次、マルグレーテ組のシルフィーとニュムが踏ん張ってロープを引くのが視野の隅に映った。


           ●


「ふう……」


 額から流れた汗を、俺は拭った。最初はひんやり感じられた地下も、深く入るにつれ気温が高くなり、今日はもうはっきり、サウナの中にいるかのようだ。


 例のギャップをなんとか全員渡り切り、横穴になだれ込んでようやく昼休憩を取っている。なにしろ危険なので毎日の降下距離は短めにしているが、気を張るので精神的に疲れる。


「おいしいよ、この干し肉。ほら」


 レミリアが俺の口に、肉を押し込んでくれた。


「おう。ありがとな」


 もしゃもしゃ食べる俺を見て、安心したかのように、自分も食べ始めた。この食欲モンスターが自分より優先してくれたんだ。相当気を遣ってくれているという証拠だろう。


「モーブ様……」


 俺の正面に来ると、アヴァロンが正座した。ごつごつ岩肌に正座できるとか、さすがは「のぞみの神殿」正巫女だわ。鍛え方が違う。


「未見の香りが強くなってきました。生き物の匂いです」


 俺の瞳を、じっと見つめてくる。トーチ魔法があるとはいえ暗い地下に、猫目の瞳が大きく広がっている。


「……ドラゴンだと思うか」

「はい。このペースで進めば、明日にはドラゴンの寝床に着くでしょう。……寝ていてくれれば、ですが」

「起きてたら厄介だな……」

「今一度、戦略を確認しておこう、モーブよ」


 頭を左右に傾けると、ヴェーヌスが首を鳴らした。


「深い眠りであれば、モーブがよじ登る。うたた寝の様子であれば、遠くから観察し、機会を見て跨る。そうでなければ……」

「様子見だ。だが、気づかれるリスクはある。そのときは……やるしかない」


 みんなを集め、再度戦術を徹底した。


 まず前衛。ドラゴンスレイヤーの俺。体術の魔族ヴェーヌス。ダークエルフ戦士シルフィー。次に攻撃的中衛。森エルフのレミリア。アールヴの呪術戦士ニュム。アジリティーを生かした獣人巫女、アヴァロン。防御的中衛は、ハイエルフのカイムとリーナ先生。そして後衛がラン、そしてマルグレーテの魔法主体組。


 ドラゴンはまずブレスが怖い。よって魔法組はまず防御主体で厚めに配置したい。ランとリーナ先生が回復魔法と補助魔法を連打する。この際アヴァロンも初手は防御組に回して、地形効果を加えてもらう。


 仮にブレスを封じられたとしても、敵の物理攻撃だけでも厳しい。被害を防ぐためこちらからの初期攻撃は、間接手段に限る。マルグレーテの魔法、それにエルフ組の魔法と弓矢。なんとか毒矢を目に命中させたいところだが、動き回る敵相手に、いくら名手レミリアでも難しいだろう。


「とにかく間接攻撃で、敵を対処いっぱいに追い込む。隙を見て俺は、アヴァロンかヴェーヌスに放り投げてもらう」

「ドラゴンライダーになるのだ、モーブよ」


 無表情に、ヴェーヌスが言い切った。


「あたしかアヴァロンなら、正確に逆鱗の位置にお前を投擲できる。……だが、敵は暴れる。チャンスは秒しかない」

「すかさず刺すんだな、こいつを」


 伝説のドラゴンスレイヤー、冥王の剣(+草薙剣)を、俺は引き抜いた。


「おっ!」


 なぜか、刀身が輝いていた。微かな緑に。


 どういうことだ、これは……!?



●書籍版「即死モブ転生」発売してます!

大量加筆で「より熱い」モーブとラン、マルグレーテの姿をお楽しみ下さい。

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