9-6 ドラゴン退治の秘策
即死モブ転生書籍版発売記念連日公開、本日が最終日です
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「死人が増える……って」
さすがのレミリアも絶句した。
「そういう問題じゃないでしょ。あんたそれでも王様なの」
「冗談だ」
むすっとした表情を崩さず、冥王ハーデスが言い放った。
「はあ? あんたその顔で冗談とか、冗談も休み休みいいなよ」
「だから冗談だ」
「もういいでしょう、あなた」
ペルセポネーがやんわり口添えしてくれた。
「モーブに情報を与えなさい」
「……うむ」
頷いた。なんだかんだ、こいつも嫁に金玉握られてるんか。よくもまあ、こそこそ愛人作れるもんだわ。
「モーブよ」
改めて、俺に向き直る。
「冥王の剣、それに宿るドラゴンスレイヤーの力で龍を倒すなら、それなりの代償を払うことになるであろう」
「いやあよ、そんなの。モーブが死んじゃうとか」
マルグレーテが口を尖らせた。
「もっと無難な方法はないの」
「安心せよマルグレーテ。命に関わるような代償ではない」
「それはなんですか、ハーデス様」
リーナ先生が、一歩進み出た。
「モーブくんが払える代償なのでしょうか」
「それは……」
ハーデスは、王妃ペルセポネーと顔を見合わせた。
「大丈夫ですよ、リーナ」
ペルセポネーが微笑んだ。
「我が夫に通底する魂を持つモーブであれば、乗り越え……いえ乗りこなせるでしょう」
「はあ……」
わけわからん。
「んなーん」
呆れたかのように、猫が唸った。爪を立てて脚を駆け上ると、いつものように俺の肩に座り込む。
「ドラゴンは魂の乗り物である」
ハーデスが言い切った。
「はあ……」
「んなーん」
「それを覚えておけ」
「なんのヒントにもなってないぞ、それ。俺は『眠らせる方法』を尋ねている」
「眠らせる方法はない」
「……マジか」
なら絶望じゃん。
「だがそのドラゴンは、今ようやく目覚めつつあるところ。まだまだ、夢うつつの刻を過ごすことも多かろう」
「うたた寝で夢見てるところを襲えっていうのか」
「然り」
「近寄りすぎないことですよ、モーブ」
安心させるかのように、ペルセポネーは微笑み続けている。
「見える場所まで辿り着いたら、様子を探りなさい。元気な間は身を隠すのです。そうして居眠りを始めたら……」
「よじ登って逆鱗を貫くんだな」
「判断に気をつけろ」
ハーデスが付け加えた。
「目を閉じただけということもある」
「どうやって見分けるんだよ」
「それは……」
愛妻とまた視線を交える。
「魂を見抜け」
「またかよ。その魂ってのは──」
言いかけたところで、冥王は消えた。ペルセポネーと共に。後には静寂が残されているだけだ。
「──って、逃げやがったか。……はあーっ」
思わず、深い溜息が漏れた。
「みんななにか想像つくか。魂がどうとかって戯言」
「……」
全員無言。そらそうだわな。
「婆様、地下はあんたらドワーフの土地。ドラゴンの居眠りや魂がどうとかいう戯言について、なんかわかることはないか」
「そうよのう……」
婆様はしばらく考えていた。それから首を振る。
「わからんわい。ただ……長く眠りについておったのだ。そのドラゴンも長い夢を見ていたに違いない」
「私の故郷への復讐心を、さらに強めていたのでしょうか」
リーナ先生は心配顔だ。
「あるやもしれん。だが……それだけではあるまい。ドラゴンと言えども、我らと同じ生き物。幸せな人生が頭をよぎりもするものよ」
婆様は俺を見つめてきた。長い人生経験を持つ、皺だらけの顔で。
「魂を見抜くとは、ドラゴンのそうした希望を掴めということではないかのう。……そう思えてならん」
「言ってみれば騙すわけか。クソみたいな生はここで終わる。冥府冥界で穏やかな夢を見ながら眠れと」
「でも代償はモーブが払うって言ってたよ、ハーデスさん」
ランが首を傾げた。
「どういうことだろ」
「人を騙せば、モーブにカルマが溜まる」
ニュムが唸った。
「まして相手はダークドラゴンだ。溜まるカルマは桁違い。モーブの運命に悪い流れを呼び込む可能性が高い」
「ニュムさんは呪力に優れたアールヴの巫女筋。その見立てに間違いはないでしょうね」
ハイエルフのカイムも同意した。
「言ってみればドラゴンキラーとして俺が呪われるってことか」
「それで……どうするんだモーブ」
ダークエルフの魔法戦士、シルフィーは、俺に微笑んでくれた。安心させようとしているのかもしれない。
「逃げるのも手だぞ。ドラゴンなんてほっておけ。目的は要するにリーナの一族を救うこと。皆を引き連れ、どこか辺境に隠れればよい」
「でもダークドラゴンは、ワラキアの里民を恨んでるよね」
レミリアが眉を寄せた。
「どこまでも追ってくるかも」
「ドラゴンは孤絶する種族。情報集めなどできんかもしれん」
ヴェーヌスが腕を組んだ。
「そのあたりは賭けだ。どんな生き方にも人生の賭けはある。それが宿命だ」
「この世界……俺に宿命だの運命だのを迫ってくるよな」
思わず苦笑いが漏れた。
「まあいい。それはプランBだ。まずはドラゴンの巣って奴を拝みに行こうじゃないか。様子を見て……それから……」
みんなを見回す。
「あとは出たとこ勝負だ。俺の人生、前世も含め、その連続だった。転生後のことは、みんなもわかってるだろ」




