9-2 ドラゴン昏睡の方策
「ふわーあ……」
洞窟入り口からの光があるから、どうやら朝だ。仮初の寝床で俺は、大きく伸びをした。
なんだかエッチな夢を見ていた気がする。よく覚えてはいないが。多分……ランやマルグレーテと寝台であれこれした夢だ。ランの後れ毛が揺れているのを見た記憶があるし。
とにかく目覚めると、俺はすっきりしていた。猫は腹の上に丸まって寝ていた。とにかく猫はよく寝る。なんたって「寝子」からネコって呼ばれるようになったという説まであるくらいだからな。能天気でうらやましくなる。
「さて……どうするかな」
天井を睨んでいるうちに、次第に頭がすっきりしてきた。そうそう、なんとかしてドラゴンを眠らせる方法がないか……って話だった。
「モーブ、起きた」
レミリアが顔を出した。
「朝ご飯だって。早く来てよ。あたし、お腹減っちゃって」
「すぐ行く。……なんなら先に食ってていいぞ、みんなで」
「そうも行かないでしょ」
腕を腰に当てて、唇を尖らせる。
「モーブはみんなのご主人様なんだから」
「ヘンなところが古風だな、お前」
「だあってえ……」
ちろと俺を見る。
「愛する旦那様だし……あっ」
抱き寄せてキスした。瞳を閉じてレミリアは、俺の唇を受け入れている。
「……み、みんなが待ってるよ」
「少しくらいいいだろ」
「う……ん」
とかなんとかあって、朝飯の席に。リーナ先生は楽しそうに、なにかご両親と話をしていた。
「待たせてすみません」
「いいんですよ、モーブさん」
「モーブったら、ぜえんぜん起きないんだもん。時間掛かっちゃった」
レミリアの野郎、余計なこと言うなっての。かえって怪しいじゃんか。
「それでさ、ドラゴン戦のことなんだけど……」
堅いパンと干し肉の朝食が終わる頃、俺は切り出した。致命傷を与えるには逆鱗を狙うしかないそして逆鱗を攻撃するなら事前に眠らせないと厳しいと。
「ドラゴンを眠らせる技か……」
シルフィーは遠い目をした。
「ダークエルフの伝承にはないな」
「ランは睡眠魔法使えるだろ」
「うんモーブ、カティーノなら」
「カティーノだと、ドラゴンを眠らせるのは無理ね」
マルグレーテは溜息をついた。
「残念だけど、相手が悪すぎる。普通の魔法じゃ厳しいわ」
「アールヴにもそんな技はない。……そもそも催眠魔法が通じる相手とも思えない」
「魔族はどうだ」
「ドラゴンを昏睡させる技などないのう」
「エルフ各部族、それに魔王の娘まで知らないなら多分、厳しいわね、モーブくん」
「んなーん」
ソールキン一族は、例の技を使いドラゴンを封じたが、同時に末代までの呪いを受けた。しかもそれでさえ殺せていない。封じるのが精一杯だった。俺はリーナ先生にあの技を使わせる気はない。それでいて眠らせるにはどうすればいいのか。
これまで俺は、特異な能力を持つ存在と出会ってきた。彼らが知っているということはないだろうか。たとえば……学園長と居眠りじいさん、アルネ・サクヌッセンム。のぞみの神殿の巫女アカネ。魔王に冥王。カジノの敏腕マネジャー。それにエルフ各部族……と。アヴァロンやヴェーヌスが知らないんだから、巫女や魔王の線は厳しそうだ。エルフ連中も。学園長はエルフ筋と言えるし、じいさんやマネジャーはこの手の案件では頼りになりそうもない。やはりアルネ・サクヌッセンムか。なんたってこの世界の創造者だ。次点で冥王とか。死を管理する存在なのだから、昏睡状態についても知見があるかも。いずれにしろ、誰と会うにせよそこまでの旅程が必要だ。すぐというわけにはいかない。
「アルネを呼び出すか。あいつならこっちを見ているはずだし」
「そうね。次元の狭間にいるから踏み込むのは難しいけれど、声だけなら呼びかけに応じてくれると思うわ」
マルグレーテも賛成してくれた。やっぱこの手しかないか。
そうして俺は、ここカルパチア山脈の開けた土地で、アルネを呼んだ。大声で。……たしかにアルネ・サクヌッセンムは呼び出しに応えてくれたよ。ただ……俺の問いかけにも気もそぞろだった。というのもアルネのねぐらでも、大きな……彼にとって大きな問題が生じていたからだ。それは……。
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