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8-6 タチバナの救済、そして俺の剣

「タチバナ様はの、とある請願のために辺境を回っておったのじゃ」


 タチバナは謎の大賢者魔法を使い、フレイヤを昏睡状態に導いた。そうして自らのアミューレットにフレイヤの血を封じ、彼女の首に巻いた。呪いを封印するために。


「それがこの……ロザリオ」


 首のアミューレットを、リーナ先生が握り締めた。


「そう。『タチバナのアミューレット』じゃ。それを身に着けておる限り、呪いは発動せん」

「それで代々、受け継いでいるのか。嫡女の呪いを封印するために」

「……そういえばあのアバター戦でも、リーナは最初、普通に戦っていた」


 なにかを思い出そうと、ダークエルフのシルフィーが斜め上を見上げた。


「……そう。たしか、ニュムのアバターがリーナのアミューレットを下から斬り飛ばした。あの瞬間から、リーナの瞳が赤く輝き始めた。そうして……吸血を……」

「いやっ」


 頭を抱えると、リーナ先生が首を振った。なにも認めたくないかのように。


「大丈夫よ、リーナ」

「お前はこの年齢までちゃんと育ったじゃないか。呪いに翻弄されることもなく」


 両親が差し出した手を振り切って、先生は俺の胸に身を投げた。


「怖いよ、モーブくん」

「大丈夫ですよ。お父さんやお母さんの言うとおりじゃないですか」


 強く抱いてあげた。わずかでも心が安らぐようにと。


「それからすぐ、東方の大賢者は亡くなった。……自らの生命力を、ロザリオに全て注ぎ込んだためじゃ」


 長老は、深い溜息を漏らした。


 世間から呪いを隠すため、アミューレットは無銘とされた。その代わり、ソールキン一族の女だけが、ミドルネームを持つことにした。タチバナという。もちろん、恐ろしい呪いを受け継いでいることへの警告と、恩人への感謝を残すために。


「……」

「……」


 リーナ先生の両親は無言だ。知らなかったからではない。知っていて、それを先生には明かさなかった。大事な娘を、政治的思惑が渦巻く戦いとまつりごとの世界に巻き込みたくはなかったからだろう。だからこそ、一族の危険な魔法、それに嫡女の呪いについて秘密にしていたわけだ。


「なら私は……とても……危険な存在……」


 リーナ先生の顔が、苦しげに歪んだ。


「最終兵器のような、どっちに転ぶかわからない魔法を使える。自分や仲間に向くかもしれない危険な魔法を。それに……もしロザリオを失えば、バーサーカーのように暴れ始める。誰彼構わず吸血し生命力を一滴残らず吸い上げるバンパイアとして……」

「大丈夫。俺が守ります」

「モーブ……くん……」

「まだ大事なポイントがあるよね」


 さすがにレミリアも、もうなにも食べてはいない。真剣な瞳で、じっと長老を見つめている。


「長老さんは、もうワラキアの里には戻れないと言っていたもん。……今の話からして、ドラゴン絡みってことでしょ」


 珍しく鋭い。


「そういうことじゃ。何百年か振りに、ドラゴンの鳴動が始まった。きゃつは眠りから目覚めつつある。もし目覚めれば……」

「自分を封じ込めた憎き敵、ソールキン一族の里を破壊しに来る。……だから里を捨て、ここ祖霊に守護される土地に避難したんですね」

「そういうことじゃ、モーブ殿」

「ドラゴンはいつ目覚めそうなのだ。あたしが倒してやるわい」


 ヴェーヌスが首を鳴らした。


「ドラゴン、それも王者種ドラゴンロードが変性した強大なダークドラゴンともなれば、相手にとって不足はない。……楽しみだ」

「もうすぐ……。今日にも明日にも……」

「ここにいれば無事なんですよね」

「そうとは……限らん」


 父親が、苦しげな声を上げた。


「里よりはマシというだけ」

「遠くに逃げたら」

「追ってくるだろう。カルパチアの外にドラゴンが出ればもちろん、世界の破滅だ」

「……モーブ」


 マルグレーテに見つめられた。わかってるっさ。これもアドミニストレータ〇〇一の務めだ。


「俺が……俺と仲間がやります。ドラゴンを倒すか、また何百年も眠らせればいいんですよね」

「しかし……相手はほぼ無敵。まさか……リーナに『アレ』を使わせる気なのか」

「お父さん、私はやるよ。この里を守り、世界を守るためだもの」


 決意を秘めた瞳で、リーナ先生が言い切った。


「問題は、魔法がこちらに向くかもしれないという点。でも命を捧げれば違う。ただ一度、そのときだけは必ず、ヨートゥンが敵を襲う。私の……命と引き換えに」

「そんなことはさせません」


 リーナ先生の手をもう一度強く握ると、俺は立ち上がった。全員の視線が集まる。


「先生には絶対、命なんか捧げさせない。俺がそのヘビトカゲ野郎を倒す」

「でも……どうやって。……まさか」


 リーナ先生の瞳が陰った。


「違いますよ。使いやしません。先生にも使わせない」


 俺には「あらゆる存在の抹消スキル」を持つブレイズ無銘剣がある。だがそのスキルを解放すると致命的反動があるとされている。言ってみればリーナ先生の究極魔法と同じ。基本的には使う気はない。だが……他にも方法はある。


「相手はドラゴンですよ。しかも……ダークドラゴン」


 母親は眉を寄せている。


「無茶じゃ。今のうちに逃げなされ。リーナだけでも生き残れば、ソールキン一族にはまたいずれ繁栄の時は来る。モーブ殿とリーナが儲ける子や孫を通じてな」

「大丈夫。俺にはこれがある」


 ソールキン一族の三人に、俺は微笑んだ。腰の短剣を抜くと、バンっと音を立てて、テーブルに置く。


「こいつは『冥王の剣』」

「た、短剣じゃないか」


 父親が目を剥いた。


「……相手は大きなドラゴンだぞ」

「大丈夫です。この剣には、剣の魂がもうひとつ宿っているので。『草薙剣くさなぎのつるぎ』という剣のね」

「魂をふたつ持つのね」

「そうですよ、お母さん。しかも草薙剣は、俺の前世から送り込まれた、特別な品だ。八岐之大蛇やまたのおろちという首と頭が八つもある特別なドラゴンを、向こうの世界で倒した剣。つまり……」


 持ち上げて、剣を灯りにかざしてみせた。


「つまりこいつは、世界最強のドラゴンスレイヤーだ」



★次話より新章! いよいよドラゴン退治に! お楽しみにー★

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