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8-1 ドワーフの前でいちゃつくw

「もうすぐ出口のようね。ドワーフが合図しているもの」

「そうだな、マルグレーテ」


 馬車の御者席で、マルグレーテが俺の手を握ってきた。


「ほら、また」


 約束どおり、何人かのドワーフ案内役が、馬車を先導してくれている。古代魔導士の隧道……いや今はドワーフ王アグリコ様の地下隧道か、ともかく外界と内部を繋ぐトンネルを進んで。徒歩でも馬車でもない。ドワーフが騎乗しているのは「オニモグラ」とかいう、モンスター並の巨大モグラだ。ロバかポニーほどもあるサイズ。這うようにしてだが、意外なほど速く移動している。


「モーブ様、外界の匂いがします」


 荷室から、アヴァロンが声を掛けてきた。


「もうすぐですよ」

「この隧道は、カルパチア山脈内部をまっすぐ貫いている。ただ一箇所、ものすごく硬い岩盤があってね、そこだけ避けて迂回しているの」


 三人目の御者席は、もちろんリーナ先生。帰郷するんだ。全てを見せてあげたいじゃないか。


「今、右カーブでしょ。これが終わったら出口が見えてくるわよ。……ほら」


 指差す。屈曲した道路の先に、輝く開口部が現れた。壁面から顔を覗かせる三日月のように。


         ●


「ではモーブ殿、我々はこれにて」


 出口を抜けたところで、俺達とドワーフは、別れを交わした。


「案内ありがとうございました」

「モーブ殿とお仲間は冥王のクエストを完遂し、我らがアグリコ様の呪いを解いてくれた。それに比べたら、いくらお礼をしてもし足りないというもので」


 振り返って、隧道を指差す。


 光を恐れ、オニモグラはトンネルの中で縮こまっている。早く飼い主が戻ってこないか……といった表情で。


「いえ、レミリアの食欲の勝利ですよ」


 なんたってあいつ、メンテーの草を香草として旅の間、抱え込んでいたからな。いつか食べようと。冥王のクエスト……と聞くと難易度SSSな印象があるが、なんのことはない、食い意地エルフの隠し食材だけで解決だからな。


「はあ? あたしのこと悪く言うならモーブ、もう寝台で相手してあげないから」つーん

「お前が嫌ならいいよ別に。エルフなら他に、カイムやニュム、シルフィーがいるし」


 レミリアの目の前で、ハイエルフのカイムを抱き寄せた。見せつけるようにゆっくり、キスを与える。


「ん……ん……っ」


 瞳を閉じ、カイムは俺に体を預け切っている。


「モーブ様……」


 キスが終わると、微笑んだ。


「それでは……今宵……」


 吐息が熱い。ニュムやシルフィーも、頷いている。


「そ、そのっ!」


 レミリアが飛び上がった。


「だ、誰も嫌だなんて言ってないでしょっ」

「言ったよなあ……」

「なーん」


 猫まで呆れ声を出している。


「それとこれとは別。ハイエルフやダークエルフ、アールヴにあたしが負けるわけにいかないのっ。あ、あたしも予約するから、今晩」

「よしよし」


 腰を抱いて引き寄せる。


「いやっんんんっ……」


 唇を重ねられてしばらくじたばたしていたが、そのうち大人しくなった。背伸びしてキスを受け入れながら、俺の体に腕を回してくる。


「それでは、これでっ」きっぱり


 ドワーフが言い切った。やれやれといった顔で、ドワーフ連中は腰に手を当てている。いつまでもいちゃこらする俺達には付き合っていられない……といった表情だ。


「……ん。はい」


 レミリアを抱いたまま、挨拶する。何度も俺達を振り返りなにかひそひそ囁き合いながら、連中は闇の隧道に消えていった。


「さて……」


 俺は仲間を見回した。


 暗い闇の世界から解放されて皆、思い思いに体を伸ばしている。道路脇の大木に抱き着いて、リーナ先生は頬を擦り寄せている。


「あれは……」

「故郷の香りを楽しんでおるのだ」


 ヴェーヌスが俺を見た。


「気持ちはわかる。あたしもたまに、魔族の土地の匂いを思い出すからのう、懐かしく」

「匂い? あれは臭い方の『臭い』だろ」


 腐敗臭とえぐみが混ざりあった、あの悪臭を思い出した。臭くないのはマジ、魔王城くらいだったからな。


「なに。モーブ、お前だって前世の郷愁があるであろう」

「俺か……」


 陽当たりの悪いぼろアパート一階の湿気とか、ぼろ社畜ビルの古臭エアコンのヤニ臭とか。どうにも「ぼろ」関係の嫌な臭いばかりを思い出す。


「俺はどうかな」


 苦笑いするしかない。


「きれいな土地だねーっ」


 俺の元に戻ってくると、バンザイするように空を示し、ランがくるっと一周回って見せる。


「そうだな、ラン。たしかにきれいだ。でも……どこか……」


 ここはカルパチア山脈中央部。峻険なカルパチア山脈に四方を王冠のように囲まれた山間地だ。盆地……と呼ぶには狭く、どこか巨大なカルデラ火口のようにすら思える。


 ここ内側の山肌は巨大な岩石や岩盤が多く、土色や樹木の緑と混じり合ってはいるものの、全体に灰色じみている。山間地ならではの淀んだ空気で、山は青くけぶっている。


 山斜面を駆け上る風は上空に雲を作るので、晴天でもなんとなく機嫌が悪く見える。おまけに山脈で狭く切り取られているので開放感がなく、たしかに美しい土地だがどこか息苦しい。言い方は悪いが、監獄の中庭、一日一時間と決められた散歩のときに見上げる空のようだ。


「そう思うわよね、やっぱり」


 いつの間にか、側にリーナ先生が立っていた。


「地元の人はここを単に『窪地』って呼ぶの。子供の頃からの代わり映えのしない生活に、この閉塞感。隧道以外の山越え道は少なくて危険だしね。だから交易も途絶えがち。思春期になると外に出ていく人も多いわ」

「いい感じなのに」


 ランは不思議がっているが、俺にはなんとなくわかる。あの山を越えたらなにがあるんだろう……というのは、子供なら自然な好奇心だ。


「過疎化の末に村自体もどんどん減っていってね。私のソールキン一族くらいよ。代々、凝り固まるようにここでの頑固な暮らしを選ぶのは」


 出ていくのは、一世代にひとりかふたりだと教えてくれた。


「だいたいは、放浪の冒険者ね。辿り着いた先で仕官することが多いわ。武官として。ほら……私の一族、特殊な力があるでしょ。いざというときはそれを使えるし、俸給で故郷に仕送りするんだよ」


 なにしろ貧しい村だからねっと、ぺろっと舌を出した。


「なるほど。それで……」


 ポルト・プレイザーのカジノですごろく記録を出したリオール・ソールキン、それに居眠りじいさんや学園長と四十年前の大戦を戦い抜いた、リーナ先生の祖父、イラリオン・ソールキン。彼らがそういう「跳ねっ返り」なのだろう。


「さあ、モーブくん……」


 リーナ先生が、俺の手を取った。


「私の故郷に案内するよ。馬車を使えば、ここからそう遠くはないから」



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