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7-7 メンテーの草の草

「これが……メンテーの草?」


 レミリアが見せたのは、細やかな葉を持つ、小さく可憐な花。茎の先が穂状になっており、そこに細やかな花がたくさん咲いている。なんというか刺し身食うときに醤油に散らすアレ……えーとそう花穂紫蘇はなほじそってのか、あれに形だけは似ている。


 レミリアの手の上から、清浄な香りが匂い立った。今話に出ていたような。


「これ、どうしたんだよレミリア。冥王がどうしたこうしたとか知らなかったよな、俺もお前も」

「ヴァパクに捕まったじゃない、あたしとスレイプニール」

「ああ。ひと月くらい前な。茸神ヴァパク。お前が木の子食おうと近づいて見事に罠に掛かって」

「失礼ね。あたしだけじゃないよ。スレイプニールもだよ」

「馬と食欲を張り合ってどうするよ。それよりその草だ」

「あのとき、スレイプニールがこの草を見つけてたんだよ。あの謎木の子より先に」

「はあ」

「いい匂いじゃない。ぜえったいこれ、スイーツに散らしたらいい感じ。でもなぜかスレイプニールはふんふん香りを嗅いでるだけで、いつもみたいにむしゃむしゃ食べなかったの」

「そら奇妙だな。お前と食欲王の座を争うあの馬が」

「でしょう。食い意地が張ったスレイプニールが食べないんだもん。毒かもって思ったんだ」


 食い意地……ねえと思ったが、まあツッコむのは止めておいた。婆様もドワーフも皆、押し黙ったまま謎の展開に感心……だか呆れるだかしている。


 要するに、話はこうだった。毒かもとは思ったが、捨て置くには惜しい芳香。レミリアは注意深く、根っこから花を採取した。


「いずれ調べてもし毒だったら、毒抜きしてから食べようって思ったんだよ」


 はあ「食べる」選択肢は揺るぎないわけか。


「で、ずうっと持ってたんだけど不思議なことにこの花、しなびたりしないんだ。ずうっと元気。奇妙でしょ」

「まあ、そう思うわな」

「森の子エルフが知らないなんて普通、あり得ないからね。仙草かなにかだよ、絶対。だから誰か錬金術師に出会ったら鑑定してもらってから食べようと」

「だから保管してきたのか」

「うん。いつか食べるのを楽しみにして」

「スレイプニールが食べなかったのはきっとこの花に、聖なる気配を感じたからでしょうね」


 カイムが口を挟んできた。


「私達ハイエルフも知らない植物です。私でも口にするのははばかれますね。なにか……秘密がありそうだと」


 うんうんと、シルフィーとニュムが頷いた。そっかー。エルフ全部族がそう思うのか。もちろん森エルフもそうだろうな、レミリアという特異な森エルフを除けば。


「神格であったのだ。枯れなかったのも当然と言えるのう」


 ヴェーヌスは腰に手を当てた。


「あたしのような魔族でさえ、心安らぐ匂いがする。これは……凄いのう」

「最近レミリアさんから神聖な香りが漂っていたのは、これだったのですね」


 獣人巫女アヴァロンが首を傾げた。


「ヴェーヌスさんに続きモーブ様の子供をご懐妊されたのかと、てっきり勘違いしておりました」

「その草を……こちらに」


 ハーデスが、ゆるゆると手を差し出した。


「食べちゃダメだよ」


 嫌々……といった様子で、でっかい手のひらに、レミリアが花をぽとんと落とした。いや誰が愛人を食うかい。お前とは違うわ。


「隠された姿を現せ、メンテーよ」


 ハーデスが声を掛けると、花が発光し始めた。豆電球のような小さな明かりから、ついには灯台並の強発光まで。思わず目をつぶって……薄らいでからなんとか開けると……。


 ハーデスと並んで、ひとりの乙女が立っていた。まだ少女と言っていいほどの、小柄な女が。


「……」


 頭を上げると、女は瞳を開いた。俺達居並ぶ謎パーティーをゆっくり見回してから、傍らのハーデスを見上げる。


「……ハーデス様」

「メンテー……」

「ハーデス様……の……」

「メンテー……」


 ハーデスは手を差し伸べた。抱き締める形で。


「ハーデス……様の……バカーっ!」


 飛び上がると、思いっ切り殴りつけた。冥王ハーデスをw



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