表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
425/463

7-2 ドワーフの盟約

「待て待て」


 微笑むと、俺は両手を上げてみせた。敵意がないと相手にわからせるためだ。手を上げていては抜剣できない。


「今、馬車を降りる。落ち着いてくれよ」


 いきなり戦闘にならないよう牽制してから、ゆっくり御者席を降りた。ランとマルグレーテも続く。残りは続かない。長い経験から全員、俺の考えがわかっているからだ。ドワーフがいきり立っている今、特にエルフなんか出てきた日には、まとまるものもまとまらない。


「俺達はただの通りすがりだ。ここは古代魔導士の隧道ずいどうだろ。トンネルを抜けたいだけさ」


 ランとマルグレーテは、俺の両脇に位置している。なにかあれば即応するためだ。……といっても、ふたりともまだ詠唱を始めてはいない。どうやら相手の勘は鋭い。悟られれば戦闘開始の合図と取られるだろう。


「今はドワーフ王アグリコ様の地下隧道だ。わしらドワーフが管理している。よそ者は通さん。特に……エルフなど」

「エルフだけではありませんよ」


 言いながら、アヴァロンが荷室から降り、地に立った。


「私は獣人、ケットシー。神殿巫女として、モーブ様をお護りしております」


 尻尾と猫耳の巫女姿を見て、ドワーフは目を見開いた。ちらと一瞬だけ後ろを振り返る。数人だけだったドワーフだが、穴から這い出してきたようでもう十数人に膨れ上がっている。しかもまだ増えつつある。新しく出てきた連中は、さらに重武装だ。


「んなーん」


 足元から駆け上った猫が、アヴァロンの肩に陣取った。なんやら知らんが、あれでもアヴァロンと俺を守っているつもりなのかもしれない。


「モーブくんは、エルフだからどうのとか、ドワーフだからこうのという偏見はありませんよ」


 リーナ先生が、アヴァロンに並んだ。


「もっと心の広い男の子です」

「そもそもエルフだのドワーフだの、元は大差ないではないか」


 鼻で笑って荷室から出てきたのは、ヴェーヌスだ。しなだれかかるように俺に腕を回してくると背伸びして、これみよがしに首筋にキスしてくる。ドワーフに見せつけるかのように。


「あたしを嫁に取った男だぞ。お前らドワーフに、そんな度量の広い男はおるのか」

「ま……魔族……」

「しかも……高位だ。とてつもないオーラがある」


 ドワーフ連中に動揺が広がった。


「魔族を……嫁に」

「どうして……この男が……」

「この冴えない男が」


 いや冴えないは余計だわ。腹立つ。


「別にケンカしに来たわけじゃないもん」


 ぴょんと、レミリアが荷室から飛び降りてきた。


「そういうことです」

「勘違いしてもらっては困るわ」

「僕も少し気分が悪いね」


 カイムとシルフィー、ニュムが続いた。全員、武装を解いている。もちろん、害意がないとドワーフに知らしめるためだろう。


「森エルフに……ハイエルフ、それにダークエルフまで」

「犬猿の仲なのに、ひとつのパーティーに三種族……」

「それどころか、知らん部族までおるぞ。エルフの匂いはするが……全然違う」

「あれは……もしや……いにしえの……」

「俺達は、洞窟を抜けたいだけだ。カルパチア山脈に挟まれた村に行くために」

「山脈の間……だと」

「なんのために」

「それは──」

「待ちなさい」


 鋭い声と共に、奥からひとり歩いてきた。周囲のドワーフがさっと道を空ける。見た感じ他のドワーフと変わりないが、声からして女だろう。相当の老婆だ。武装の鎧ではないが、ひときわ豪奢な服装をしている。


「そこの女には見覚えがある」


 リーナ先生を、じっと見つめている。


「数年前、ここを抜けた女だろう。あのときは……ハーフエルフ率いる大戦の賢者が率いておった。この隧道の管理をまだカルパチアの人間がしていたからな」

「ドワーフ王アグリコ様が、どうして管理を引き継いだのですか」


 リーナ先生が、一歩進み出た。


「それはな女、人間の力が、極端に衰えたからじゃ。……祖霊の護りが陰ったのであろう」


 医術や産物の提供を条件に、ここ隧道管理をドワーフに託したのだと、ドワーフのおばばは続けた。いやおばばだと思う。見た目からはドワーフの年齢は判別しにくいけどさ。


「あの……私の村は……」

「安心せい。別に皆、死んだわけではない。慎ましやかに暮らしておるわ」

「良かった……」

「いずれにしろ……」


 ドワーフ女は、仲間を振り返った。


「いずれにしろ、中の村の女であれば、この隧道を自由に抜ける権利がある。それが、ここの管理を引き継いだときの約束じゃ」

「しかし婆様……」

「例外はない。たとえ……エルフを連れておろうがな」


 婆様やっぱりが言い切った。周囲のドワーフを睥睨へいげいしている。


「盟約は守る。それが我らドワーフの誇りではないか。お前たち、病に臥せるアグリコ様の顔に泥を塗る気か」

「それは……」


 ドワーフ連中は黙り込んだ。


「アグリコ様に、なにがあったのですか」


 アヴァロンが眉を寄せた。


「もしよろしければ、私が祈祷を捧げましょうか。わずかなりと、力にはなるはずです」

「それは助かる……と言いたいところだが」


 婆様は溜息をついた。


「いかな獣人巫女殿と言えど、荷は重かろう。なにしろ、ハーデス絡みだからのう」

「ハーデス……って、冥府冥界の王じゃんかよ」

「モーブ……」

「モーブ様……」


 仲間の視線が俺に集まった。




●業務報告

本作書籍版「即死モブ転生」第一巻、一週間後の6/13発売!

桑島黎音先生の美麗イラスト満載にて、書影(表紙画像)が公開されました。

詳しくは活動報告にて紹介中ですので、ご覧下さい。

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3452010/

追加エピソード満載の大量加筆ですので、お楽しみに。

本作共々、書籍版のSNS拡散・応援購入など、今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ