6-8 後続転生者への福音
「うむ……」
俺が剣を収めると、茸神ヴァパク・ソーマが唸った。
「……見事なり、モーブよ」
「手術、成功だ」
転生者を避けるように注意深く刀を入れると、その部位からアンデッドの体が昇華し始めた。いつものように虹となって。特別な作業は不要だった。紙が燃え広がるときのように、入刀部分から徐々にアンデッドの体が消えていった。虹色の煙となって。ジュウジュウという音が聞こえたのが、普通のモンスター戦と違うところだ。
虹色の煙がやがて消えると、そこに男が立っていた。布の軽装に、多数ポケットの付いた、革のジャケット。見た感じ、冒険者というより生産職だ。生前の……というか前世同様、十六歳くらい。特にイケメンというわけではないが、素直な感じで、誰からの第一印象も悪くはないと思われた。存在に付きまとっていた闇も、もうすっかり晴れている。
「……ぼく」
驚いたように、周囲を見回している。
「ここ、どこ。あんたは……」
どうやら、ようやくまともに視力が使えるようになったようだ。
「俺はモーブ。お前と同じ、転生者だ」
「て、転生……」
俺は説明した。ここはゲーム世界であること。生前にそのゲームをプレイしていたユーザーの魂が無惨にも死ぬと、魂を救うため、この世界に吸引されること。この世界でもう一度、人生を生き直せること。
「ぼくが……第二の人生を」
「ああそうさ」
「で、でも、どうやったら。ぼく、なんにもわからないよ。ゲームと言ったってモンスターと戦うとか、怖くてあり得ないし」
「だよなあ……」
多分、そいつの性格に合わせて転生がプログラムされてるんだ。こいつは生産職。ならば、どう生きるべきだろうか……。
「モーブ、どうするの。この方」
マルグレーテが、俺の袖を引いた。
「ショウだよな、お前の名前」
「う、うん……」
まだきょろきょろしてる。そりゃあな。転生初日の自分を思い出すわ。
「とりあえず、次の村だか街だかまで、俺の馬車に乗せてやる。そこでしばらく滞在しろ。馴染むまでな。当座の生活資金は俺が提供する」
「あ、ありがとう」
「お前はどうやら生産職だ。手に職をつけて金を稼ぎ、かわいい嫁さんでももらうんだ」
「うん」
「いいか、次の街でこの世界に慣れたら、馬車を拾え。ポルト・プレイザーという街を目指すんだ」
「ポルト……プレイザーだね」
「ああ、南国ビーチの、いい街だ。そこに、コルムという武器商がいる。俺の同級生だった、優れた男だ」
「コルム……」
「トルネコ商会のコルムを訪ねろ。後で俺が紹介状を書いてやる。お前はそこで武器や防具を造る職人として修行するんだ。それがいい」
「わ、わかった」
とにかく不安なのだろう。俺の提案丸呑みだ。まあ実際、それがいいしな。ショウは性格も良さそうだ。コルムならこいつをちゃんと扱ってくれるさ。俺の紹介状もあるし。
「アンデッドに囚われていて疲弊してるだろ。道の先に俺の馬車がある。そこで休んでろ」
「あ……ありがとう……モーブ」
「おいシュレ」
「んなーん」
「お前、馬車でこいつについてやれ。お前は転生失敗者を慰めていた、ヘンな猫だ。こいつの側についてやれ。きっとショウも落ち着く」
「なーん」
頷いた猫が、山道を辿り始めた。後につくショウを振り返り振り返り、馬車のほうへと導いていく。
「これでよし……と」
「なかなかやるのう、モーブよ」
ヴァパクは感心したような声だ。
「もうモーブの凄さわかったでしょ。早く解放してよあたしを」
「んひひーん」
レミリアとスレイプニールが、網目茸の網目をゆっさゆっさ揺らした。
「そうはいかん。あとひとつ、謎解きが残っとる」
「いいじゃんそんなの。おまけしてよ」
「おまけは後で考えるわい。……さあモーブ、最後の謎解きじゃ」
「わかったわかった」
俺は溜息をついた。
「わかったから。早く出題しろ。どうせまた哀れな魂関係なんだろ」
「かもな」
「実はお前、結構優しいんだな」
「だから言っておろうが。余は辺境の民に智慧を授ける茸神だと」
「最後の謎って奴は、なんだよ」
「うむ」
重々しく、ヴァパクは頷いた。
「マタンゴという茸を探して食べよ」
「マタンゴ……だと」
聞き覚えがあった。そう、前世で。




