6-6 第二の謎掛け
「ちっ気づいたか、化け木の子め」
「なにを毒づいておる、モーブ」
「いいから次出せよ。とっとと謎解きさせろ。いつまでも囚われの身だと、レミリアがかわいそうだろ」
「モーブ……あたしのこと大事に思ってくれてるんだね」
「いくら食い意地の張った奴の自業自得とはいえ、腐ってても俺の嫁だからな」
「……なんか微妙」
いや睨むなし。
「ほら、ヴァパク」
「うむ。では第二の謎掛けじゃ……」
茸神ヴァパク・ソーマが、急に厳かな声色になる。
「生ける死人の人面瘡を治療せよ」
「人面瘡……だと」
今度はヤバそうだ。人面瘡ってことは、呪いとかだろ。
「生ける死人というのは、アンデッドよきっと」
マルグレーテが眉を寄せた。
「アンデッド……」
ランの瞳が陰った。幼馴染のブレイズが、アンデッドを率いる裏ボスネクロマンサーに闇落ちしたのを、思い出したのかもしれない。
「アンデッドは不浄の存在。しかもすでに死んでいる。人面瘡であれ病魔であれ、今さら取り憑かれるのはおかしいですね、モーブ様。定義上、あり得ない話です」
「そうだな、カイム」
カイムは霊力に優れたハイエルフ。生や死にはとりわけ知見がある。
「まあこれも、実際に見てみないとなんともだな。おいヴァパク。どうせこいつも隠してあるんだろ。はよ見せろ。俺の仲間が診断する」
「うむ」
それきり、ヴァパクは黙り込んだ。……とやがて、地面がぼうっと揺らいだ。陽炎のように。ぼこりという音と共に割れると、なにかが這い出してくる。なにか……人間のような形のものが。
「……これは」
奇妙な人影だった。いやたしかにアンデッドだよ。しなびた皮膚でよろよろ歩き、瞳は光を失い虚ろになって。これまで何百回と戦ってきたアンデッド、それもおそらく単純なゾンビ系統だと思われる。だがこいつは……。
「胸から……半身が生えてやがる」
そう。ボロ布同然の衣服を突き破るようにして、胸から頭と片方の肩、それに腕が半分ほど突き出していた。肩から肘くらいまでの。その先の腕や体は、アンデッドに埋まったようになっている。
「これが……人面瘡だと」
俺は振り返った。カイムが首を横に振る。
「このような人面瘡はあり得ません。そもそも人面どころか、体まで生えている。しかも……人面瘡はもっと邪悪な顔つきをしているものです。この人は……まるで……」
「……」
たしかに。生えている体は若い男。だが真っ黒の闇煙に包まれ、表情は苦しげだ。
「呪いの人面瘡ではなく、この方が呪われているのでは」
「おいヴァパク。これはどういうことだ」
「ある日……。余の地下菌糸体網を突き破るようにして、このアンデッドが現れたのだ。体に人面瘡を植え付けられた、この姿で。苦しげだったので、地下にて眠らせておいた」
話はこうだった。アンデッドはそもそも感情も痛覚も失っているので問題はない。だが人面瘡は違った。苦しげな表情で解放されたがっていた、この哀れな状態から。
「余には助けることはできなんだ。……なので誰か、智慧のある者が通りかかるのを待っておったのだ」
「なるほど」
「まあ……モーブのような馬鹿枠の男率いるパーティーとは思わなんだが」
ひと言余計だわ、くそっ。
「……助けてくれ」
人面瘡が口を開いた。掠れ声で。
「ここはどこだ……。札幌じゃない……」
「モーブ……」
ランに見つめられた。
「ああラン。こいつも元は俺の世界の人間だ。間違いない」
「助けてくれ」
転生者の瞳が、苦しそうに揺れた。闇の煙に包まれたまま。
★今回短くてすみません
ちょうどいい区切りがここしかなかったので
代わりに次話は明日公開します




