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8-5 四人の誓い

「戦略はかなりまとまってきたわね」


 マルグレーテは、ほっと息を吐いた。


 二月も末の放課後。校舎五階の王立学園図書館。片隅にある打ち合わせコーナーに、俺のパーティー四人は陣取っていた。テーブルにはダンジョン地図を大きく模写したものが広げられ、ルート案いくつかや細かな注意点が、様々な色のペンで、そこここにびっしり書き加えられている。


「うん。私も道全部覚えたし……」


 ランが頷いた。


「それにモーブも、お馬さん乗るの、上手になったよね。子供の頃から、あんまり馬に乗りたがらなかったのに……」


 俺の手を、恥ずかしそうに握ってきた。


「モーブ、たくましい……」

「いやラン。俺が乗るの、いかづち丸だからさ。あいつ優しいから、全力疾走の襲歩しゅうほでも、なるだけ揺れないようにしてくれるんだ」


 それにしても、馬に乗るのにこんなに体力使うとは思ってなかったわ、俺。馬が勝手にぱかぱか進むだけだと考えてた。だが常歩なみあしとかならともかく、飛ばし始めると実際はかなり揺れる。下半身でしっかり鞍をホールドして踏ん張ってないと、振り落とされそうになる。


「はい。お茶」


 持ち込んだポットから携帯カップに茶を注ぐと、リーナさんが配ってくれた。


「馬の体調はランちゃんとマルグレーテちゃんが考えてくれるから、そっちのタイミングは見てもらうとして……」


 茶を飲むと、ほっと息を吐いた。熱い茶なので、湯気が立っている。


「あとなにか決めておくこと、あるかな」

「装備じゃないかしら」


 地図の書き込みを、マルグレーテが指差した。「戦闘皆無」と書かれている。


「戦闘がないんだから、武器も防具もいらない。つまり学園制服でもいいと思うのよ。でも、時間が厳しいでしょ。だから魔力を上げるアイテムとか、詠唱時間を短縮させるチャームとかがあると便利」

「なるほど」


 マルグレーテの言うとおりだな。


「ルート以外に時間を短くする余地があるの、宝箱解錠、宝回収の場面だけだもんな」

「モーブくんたち、なにか手持ちの装備あるの?」

「いえリーナさん。俺とランはなにも。それこそ制服とジャージくらいしか持ってないし」

「わたくしの部屋には、実家の両親が送りつけてきた魔法の杖と頚飾けいしょくがある。どちらも魔力を高める効果のある奴」


 頚飾ってことは、首飾りかペンダントみたいなもんか。


「いらないって言ってるのに次々送ってくるから、余ってるわ。あれ、ランちゃんにあげる」

「いいの、マルグレーテちゃん」

「同じような装備、いくつもあっても無駄だもん」

「じゃあ大事に使って、試験が終わったら返すね」

「いいのいいの」


 マルグレーテは手を振った。


「そのまま使って。わたくしたち、親友じゃないの」

「わあ、ありがとうマルグレーテちゃん」


 ランがマルグレーテの手を握った。マルグレーテは、そのまま手を取らせている。


「アクセサリーなんかは問題ないとして、杖は馬に乗るとき邪魔じゃないんか」

「安心して、モーブ。杖と言ってもペンくらいの大きさなの。使わないときは、制服ジャケットの内ポケットにでも挿しておけばいいのよ」


 それなら邪魔にはならないな。


「いいわね。私もいくつか魔力強化アイテム持ってるから、当日、みんなに配るわ。相乗効果出るし」


 リーナさんも頷いた。


「あと、使い捨てタイプのマジックアイテムを持っていくね。回復魔法の代わりになるポーションとか、万一のときに、モーブくんが使えばいい」

「そうね。ランちゃんやリーナさんの回復魔法と同時に使えば、効果倍増だし、回復時間も節約できる」

「あと麻痺や閃光のアイテムも持っていく」

「戦闘はないんですよ、リーナさん」

「いいのよ。こういうのは私のお守りみたいなもの。フィールドやダンジョンに出るときは、持っていくことにしてるの。……なんというか安心するというかね」

「なるほど」


 落ち着けば、普段以上の力が発揮できる。たとえ使わないのがはっきりしていても、持ち歩く意味はある。まさに「お守り」だ。


「宝回収用の荷袋に放り込んでおけばいいですしね」


 今回のダンジョンで法外なサイズの宝が無いことは、すでに確認済みだ。一トンの魔鉱石が宝とかだと、そもそも持ち運べずクリア不可能だし。


「そうそう。ならあとは、馬の具合だけね。バイオリズムが最高のときに、挑戦しましょう」

「決まりですね」

「ところでブレイズも準備進めてるのかな。私達みたいに」


 ぽつりと、ランが呟いた。


「さあ……。わたくしは知らないわ」


 マルグレーテは首を捻った。


「SSSではもう誰もブレイズに話し掛けないし。変に絡まれると、嫌な思いするから。それにみんな、自分の卒業試験対策で頭いっぱいだもの。面倒なブレイズのことなんか、気にしてる余裕ないみたいよ」

「ブレイズくんには、ヘクトールトップクラスの教師がついているからね」


 リーナさんが教えてくれた。


「前国王の大病を治療した、回復魔道士。回復魔法系は究極まで使いこなせる。それに辺境での魔物越境戦のとき大活躍した、上位職のスカウトリーダー。スカウト・ニンジャ職系の、即死剣術が使える。スカウトだから弓術も超一流。その意味で前衛も後衛もこなせる。あとは大小二本の剣をげた、二刀流の魔法戦士。この人は攻撃魔法も回復魔法も使えるわ。それもマナ召喚系の」

「凄いわね、その人選」


 マルグレーテが首をすくめた。


「みんなSSSでも二、三度しかなかった特別授業でしか教えてくれない、雲の上の存在じゃないの。普段は国王に駆り出されて、あちこちの戦場を回ってるから」


 あのドラゴンのダンジョン、ゲームでは攻略した奴皆無だからな。それでもこのくらいのパーティーなら、なんとかなるかもしれんわ。全員「強くてニューゲーム」どころじゃないクラスだし、ブレイズにはなんたって主役補正がある。


「サポート教師に聞いたけれどブレイズくん、卒業試験ぎりぎり、最後の一日で挑戦するって主張して、まだ準備してないって話だったわよ」

「へえ……そりゃまたなんでですか、リーナさん」

「学園歴代トップの自分が挑戦する以上、最難関のダンジョンを最後の日にクリアして、みんなに手本を見せたいんだって」

「へえーっ。……ブレイズらしいね、モーブ」


 天真爛漫なランにしては珍しく、呆れたような顔になった。


「そうだな」


 あれかね、「見事にトリを飾って、みんなに尊敬される自分」――的な幻想を持ってるのかもしれんな。さすがの主人公ムーブだわ。雑草即死モブに転生した俺じゃ、したくてもできない戦略だ。


 いや別に羨ましくはないけどな。むしろ哀れみしか感じない。もっと周囲の奴にいろいろ聞いたらいいのに、どう振る舞うべきか……とか。


「まあブレイズはブレイズだ。俺達は自分の成功に集中しようぜ。なにせガチ、失敗したら将来暗いからな、三人とも」


 ランとマルグレーテが頷いた。


「私も全力でサポートするから」


 リーナさんが、眉を引き締めた。


「この学園で勤め始めて、いちばん仲良くなったのが、みんなだし。教師の立場で言っちゃいけないことだけれど……正直、ずるしてでも卒業させてあげたいくらい。ランちゃんもマルグレーテちゃんも、モーブくんもそれくらい好きだから」


 リーナさんの言葉に、俺達四人はまた、互いの手を握り合った。




●次話から新章「第九章 卒業試験ダンジョン攻略クエスト」開始。


三月某日、全学園注目の中、ついに謎のダンジョンに転送されたモーブ組四名と馬四頭。皆の力を合わせわずか三時間で七つの宝箱を全て回収し、脱出しないとならない。ところが最初の宝箱の部屋が開かず、早々に危機に陥るモーブたち。だがそれは、誰もが想定しなかった、恐怖の試練の幕開けに過ぎなかった……。


果たしてモーブはクエストを成功に導き、ランやマルグレーテ、リーナの未来を救えるのか。そして試練の果てにモーブを待つものとは……。


いつも応援ありがとうございます。応援に力を得て毎日更新中です。








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