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5-1 決着の夜

 その晩。イベント大成功の宴の後、俺達は寝所に戻った。スカウト王アルドリーのコテージに。イベントの余韻はリゾート中に残っており、俺達はあちこちで握手やサイン攻めにあった。でもさすがに、ここまでは誰も押し掛けてこないからな。今晩はゆっくり、ここで飲み直すわ。


「まさか……」


 自分のグラスの蜂蜜茶を飲むと、ランはほっと息を吐いた。


「先生が優勝するなんてねー。びっくりしちゃった」


 別にこれはリーナ先生に対する侮蔑とか嫌味ではない。素直に驚いているだけなのだ。ランは裏表のないまっすぐな性格だからな。それに酒に弱いから、あんまり飲ませてはいない。だから酔った勢いの暴言というわけでもない。


「いちばん驚いたのは私よ」


 リーナ先生が、ほっと溜息をつく。


「私、自分で自分がわからなくなったもの」


 決勝戦。魔族ヴェーヌスを絡め取った先生が首筋に口を当てると……もうそれで勝負がついた。他の対戦相手同様、ヴェーヌスは動きを止めた。どんどんHPバーが短くなる。


 もちろん「死中活の指輪」効果でダメージは反射され、先生のHPも削られはした。だが削られる側から、ヴェーヌスのHPを吸収する。結果、先生のバーはわずかに短くなったりまた伸びたりするばかり。ヴェーヌスは削られる一方だ。あっという間に倒されたのも、当然と言えるだろう。


「ドレイン系スキルだな、あれは」


 自分の酒をぐいっと飲み干したヴェーヌスは、ゴブレットを壁にぶん投げようとして、止めた。飲むと器を壊す癖は、俺達と同行することでほぼ抑制された。まあ「しつけが行き届いた」ってことさ。


「リーナ先祖伝来のジュエルダガーにそのスキルがあるのかと思っていたが、違ったしのう。短剣を弾き飛ばされてからも、口でドレインしておった」

「本人にスキルがあるということですね」


 自分のゴブレットをそっと置くと、カイムはお代わりを注いだ。周囲の仲間にも。


「少なくとも……レベルカンストまでには、リーナさんのあのスキルが解放される」

「聞いてないのか本当に、リーナ」

「ええシルフィーさん。両親からも全く……」

「ドレイン系のスキルは古種族のものだろう。よほど古い魔物か、あるいは古筋魔族の」


 ニュムは、難しい表情だ。


「しかしリーナは明らかにヒューマン。……わからないよ、僕は」

「んなーん」


 猫──シュレ──は、猫獣人アヴァロンの太腿の上でごろごろ言っている。なんだか眠そうだ。まあ……やたらと寝るから「寝子ねこ」と呼ばれたって説があるくらいだしな。


「本来のスキルではなく、外部から注入されたということでしょうね」


 猫を撫でるとアヴァロンは、巫女服の襟を整えた。瞬間、豊かな胸が垣間見える。


「私の母、カエデにも神託が下りましたよね。この世界には、解き切れない謎……矛盾がある。鍵を握るのは、草薙剣と……リーナさんの血脈だと」

「だから俺達、故郷カルパチア地方を目指してるんだしな」

「アルネにも頼まれたしね。アドミニストレータ役として対策しろと」

「カルパチア地方って……」


 レミリアの瞳が輝いた。両手に野鳥の骨付き肉を握り締めている。食堂から盗み……いや持ち帰ったものだろう。


「名物料理なにかな」

「……レミリア、お前はなに食っても名物料理だろ。真面目な話の最中に、飯話題とかぶっ込んでくるな」

「そうそう」


 マルグレーテも苦笑いだ。


「なんでも美味しく食べられるんだからある意味、特殊能力よね、これも」

「いずれにしろリーナの一族は、過去に大きな謎がありそうだ」


 みんなの視線が、先生に集まった。


「そもそもあのユグドラシルとかいう大技も、普通のものではないしのう」

「そうそう。効果はランダム。敵に向くか自分達に向くかすらコントロールできない」

「しかも一生に一度だけ、必ず敵に向けられる。……自分の命を代償として」

「これはもう能力と言うより、呪いの類であろう」

「それに加え、ライフドレインだからな」

「あの……」


 リーナ先生は、不安げな瞳だ。


「ほら……」


 マルグレーテに肘でつつかれた。……というかどつかれた。


「モーブの出番でしょ」

「あ、ああ……」


 先生の体を抱き寄せた。


「大丈夫ですよ、先生。俺がついてます。それに……みんなも」

「モーブ……くん……怖いよ」


 すがりついてきた。学園入試で最初に会ったときはお姉さんみたいなキャラだったけど、嫁にしてからはすっかりかわいい人になったな、リーナ先生。


「先生……」

「モーブ……くん」


 求めてきたので、キスしてあげた。みんなが見てるけど、別に恥ずかしい行為じゃない。なんなら毎日、みんなの前で誰かとキスしたりもっとディープな行為してるしな。


「今晩……添い寝して」


 見回すとみんな、頷いている。


「はい。……いっしょにぐっすり眠りましょう」

「あたしも交ぜてよ」


 空気を読まないレミリアが、手を挙げた。


「あたしだってモーブと抱き合いたいもん」

「わかったわかった」


 俺は溜息をついた。


「それでもいいから、ちゃんと手を洗えよ。鳥の脂でべたべただから」


 あははははっと、レミリアが笑った。いつもどおりのどちんこ見せながら。


「大丈夫。晩御飯の前にちゃあんとお風呂入ったし。この後すぐ、手や口は浄化しておくよ。とはいえすぐ寝台で……モーブのあれこれで汚されちゃうだろうけどさ」


 余計なこと言うなし。


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