4-13 リーナ先生の謎技炸裂
あと十メートル。誰もがまだ数秒の猶予があると思った瞬間、アヴァロンは跳んだ。獣人ならではの筋力を生かした跳躍で、一気に距離を縮める。リーナ先生はまだ補助魔法を次々詠唱している最中だ。どう考えても、術式展開は間に合わない。
「殺られるっ!」
観客の絶叫に重なるように、リーナ先生が横に跳んだ。テレポートしたかのように素早く。そのまま体を回転。いつの間にか手にはジュエルダガーが握られている。
だが、アヴァロンは逃さなかった。一瞬だけ着地したかと思うと、横っ飛び。リーナ先生の胸、そのど真ん中にのぞみの匕首を叩き込む。バーチャルコロシアムは完全無音なのに、「どんっ」という野太い音が響いた気すらした。それほど完璧な刺突だ。リーナ先生の胸から剣が生えているようにすら見える。
「なにっ!?」
観客が総立ちになる。
「なんてこったっ」
「相討ちだっ」
たしかに。リーナ先生のジュエルダガーも、アヴァロンの首を貫いている。
HPバーは、一気に削れた。リーナ先生が八割減。アヴァロンは六割減。ふたりとも急所に致命傷。この違いは基礎VITの数値の差と思われた。どちらのHPバーも、急速に長さを縮めている。消滅するまであと数秒。VITの差だけ、リーナ先生不利と思われた。だが……。
「見ろっ!」
満員の観客が、口々に叫ぶ。
「まただっ!」
リーナ先生の瞳が、輝き始めた。赤く。リーナ先生のHPバー減少が止まる。アヴァロンのバーは減少速度を速めた。同時に、リーナ先生のバーが伸び始める。減少を止め、増加の方向へと。
「一回戦と同じ……」
「なにが起こっているんだ、あそこで」
HPが一方的に削られているというのに逃げるどころか、アヴァロンは身じろぎもしない。まるで氷結魔法を掛けられたかのようだ。
「始まりましたね、モーブ様」
実況席のアヴァロン(リアル)が、俺の手を握ってきた。
「なにか……とてつもない力をお持ちのようですね、リーナさんは」
「私……なにがなんだか」
リーナ先生は困惑顔だ。二回目なのでさすがに、一回戦のときのように動揺してはいない。眼前の光景をただただ、呆然と眺めているだけだ。
「これで決まりですね」
「んなーんご」
アヴァロンの言葉に、猫も頷く。実際、アヴァロンのHPバーはもう残り五パーセントほどしかない。対してリーナ先生のバーは九割まで回復し、さらに回復速度を速めている。一回戦のときのようにいずれ、百パーセントを超えて増え続けるだろう。理不尽に。
HPバー消滅と同時に、バーチャルアヴァロンは消え失せた。ひとり、硬直したかのようにポーズを崩さない、リーナ先生を残し。




