4-12 二回戦第二試合「リーナ先生VS獣人巫女アヴァロン」
「さて、二回戦第二試合ですが……」
ベイヴィル女将は、バーチャルコロシアムを見上げた。リーナ先生とアヴァロンのアバターはすでに登場しており、互いを見つめている。
「補助魔道士と獣人巫女の戦いということになりますね、モーブ様」
「はい。初手は双方、補助魔法と地形効果付与の掛け合いになる。ここまでは五分。それからは接近戦。どちらも間接攻撃手段は持たないから」
頭上に、両者の装備一覧が現れた。
■リーナ・タチバナ・ソールキン(ジョブ:複合魔道士:補助魔法と回復魔法)
特殊スキル:養護教諭
●武器:
銘「ジュエルダガー」
ソールキン家女子限定家宝の両刃短剣
クラスS装備
特殊効果:CHAに大ボーナスポイント。DEFにボーナスポイント
●防具;
銘「ナイチンゲールの革胸当て」
王立冒険者学園ヘクトール秘蔵装備
着任時に学園長から下賜された。古代のアーティファクト
クラスS装備
特殊効果:回復魔法効果増大(CHA連動タイプ)
銘「祝福の尼僧エプロン」
裏ボスレアドロップアイテム
ラルギュウス崖縁村にて贈与を受ける
クラスS装備
特殊効果:テイム効果二割向上。魔力二割向上+回復魔法増進効果。物理・魔法ダメージ二割減。必要MP二割減。詠唱加速(戦闘時間が長引くほど詠唱時間が短くなる)
●アクセサリー:
無銘 フォービドゥンアミューレット(通称)<★現在ロスト★
首に掛ける、ロザリオ状の御守。ソールキン家女子嫡子専用伝承装備
DEFとCHAにボーナスポイント
クラス不明装備
特殊効果:なし
■アヴァロン・ミフネ(ジョブ:巫女系ケットシー)
特殊スキル:地形効果付与
●武器
のぞみの匕首
クラスS装備
ケットシー正巫女継承品
特殊効果:CHAとAGIにボーナスポイント。地形効果付与強化
●防具
正巫女の服
クラスS装備
ケットシー正巫女継承品
特殊効果:CHAとDEF、VITにボーナスポイント。霊力強化
六尺下衣
クラスB装備
聖なる布で巻かれた褌。紙垂と梵字あり
特殊効果:霊力強化。婚姻相手との絆
●アクセサリー
透明貴石小珠
鑑定不能装備
ケットシー正巫女継承品
戦闘に関わる特殊効果なし
「リーナさんのアミューレットがロスト状態ですね」
女将が唸る。
「一回戦で、ニュムに破壊されたからな。でもまあ特殊効果はないらしいし、たいしたマイナスにはならないだろう」
「それにしてもこれは……」
女将が俺を見た。
「これは……また高速の戦いが見られそうですね、モーブ様」
「普通に考えれば、VIT、AGIに優れる獣人ケットシー、アヴァロン有利。……だがリーナ先生には一回戦、対ニュム戦で見せた、謎の麻痺技がある」
「短剣で一撃。それがなぜか相手の動きを止め、HPバーを削り切った、例の奴ですね」
「実際、俺達の実戦では、あんな技はなかった。なにせ当人すら知らなかったからなあ……」
「ええ。私も全然……」
実況席、俺の隣のリーナ先生も、困惑顔だ。なんせ自分で怖いとか言ってたくらいだもんな。
「あの技がまた出るのか、興味深いですね、モーブ様」
やられるのは自分のアバターだというのに、アヴァロンは楽しげだ。
「私も楽しみです」
「リーナ先生に絡み取られる前にアヴァロンが相手を瞬殺できるか。見どころはそこだろう」
「んなーんご」
いや猫、お前頷くな。解説者かよ。
「ああ……。先生の短剣技で、巫女服だけ斬れないかな」
「む、胸のところだけで構わん」
「意外に胸あるしな、巫女さん」
「獣人だとやはり胸にも和毛が……」ごくり
またしても観客紳士湧いとるな。
「いや、ポルト・プレイザーのビーチバレーで、アヴァロンちゃんはビキニ姿になってた。あれ見る限り、胸には生えてない感じ」
「なんだ……柔らかな毛をナデナデしたかったのに」
「でも、ビキニの胸のすぐ下からうっすら毛が生えていて、下に行くほど濃く……。そしておへそから下に繋がるあたりは……」
「ど、どうなってるんだよ」ごくり
「あれは現場に居た俺様だけの秘密だ」
「この野郎……」
「殴れ殴れ」
「イテッ」
大騒ぎになってるし。
「と、とにかく始めましょう」
呆れ返った女将に振られ、俺は宣言した。
「両者……戦闘開始っ」
リーナ先生の体が、激しく明滅し始めた。予想通り、補助魔法を連発しているのだろう。一方……。
「なにっ!」
観客が絶叫する。リーナ先生同様、地形効果付与で戦闘フィールドを有利に整えると思われていたアヴァロンが、全速で発進したからだ。一直線に。リーナ先生に向かい。
しかも、超絶前傾姿勢。まるでサバンナを疾走するチーターのように。時折、前脚……じゃないか片手を地面に着いている。
「先生が魔法で場を整える前に、攻撃するつもりだ。少しでも自分が有利なうちに」
「しかもあれ、手を着いてるでしょ」
実況席のリーナ先生が、指摘した。
「あの瞬間、地面に地形効果を打ち込んでるわ。……何度も」
「なーご」
猫も目を見開いてるな。アヴァロンはケットシー。猫獣人だから、そっちに入れ込んでるのかもな。それだけ知恵あるかは知らんが。
「意外に私の地形効果付与も速いですね、モーブ様」
自分のことというのに、アヴァロンは呑気な感想だ。
「カンストしてるだろうからな、お前も」
「あそこまで育つのが、自分でも楽しみですね」くすくす
アヴァロンは、どんどん速度を上げた。戦闘フィールドの電磁波が乱れ、仮想地面が揺らぐほどにも。
「すげえ……」
誰か観客が、感嘆の声を上げた。さすがにもう、胸がどうとかアホなこと抜かす奴はいないな。
「すごく……速い」
「揺れてるな……胸が」
「ああ……始まったな」
もとい。やっぱ居たか……。
巫女服でどうしてここまで……と思えるほどの疾走に、ふたりの距離は見る見る縮まった。
「接敵するぞっ!」
「あと五秒っ!」
観客の絶叫の中、アヴァロンは剣を抜いた。先祖代々の品、「のぞみの匕首」を。
湖畔の陽光を、刃がきらきら反射した。相手を殺す装備だというのに、清流の反射光のように。




