4-7 アバター戦闘展開の謎
「今のは……いったい」
自分の口から、思わず声が漏れた。たしかに、観客の言うように、魔道士と巫女の戦いとは思えなかった。まさかの剣ナイフ格闘だったし、リーナ先生アバターの勝ち方も異様だった。
「モーブ様、今の一戦を振り返って下さい」
ベイヴィル女将に促され、我に返った。
「ふたりの職業種族柄、意外ではあった。けど……」
なんとか声を振り絞った。
「考えてみればふたりとも、間接攻撃の手段はほぼない。近接戦闘で決着が着くのは当然かも」
「私のHPバーが伸びたのは。それに……一撃を受けたニュムちゃんが凝固してたのは?」
リーナ先生に見つめられた。
「わかりません」
「んなーん」
「僕にも……なにがなんだか」
ニュムも首を振っている。
「ただ……ここまでの三戦でひとつだけ、次第にはっきりしてきたポイントがある」
俺の言葉に、実況席の視線が集まった。
「アバターは、現し身の体や能力、それに装備をコピーした。だが……どうやら性格は受け継いでいないようだ」
「そうでしょうか。……私は皆さんと知り合ってまだ間がない。そこまではよくわかりません」
「三戦とも、アバターの戦い方にためらいがなかった。全力で相手を潰しにかかった。仲間であるという事実は受け継がれず、勝負が決まっても手加減なしで最後まで相手を追い込んで」
「なーお」
「たしかに、リーナの優しい性格は、どこにも見られなかったのう」
実況席の背後で、ヴェーヌスが呟いた。
「にゃーんこ」
いや猫、ところどころ相槌みたいに鳴くのやめれ。あと俺の顔にケツの穴押し付けるな。後で遊んでやるからじっとしてろ。
「そういうところはあるかもしれませんね」
ベイヴィル女将が、プログラムの紙をめくった。
「その意味で、次の対戦も興味深いところです。なにしろランさんとマルグレーテさん。王立冒険者学園の親友対決ですからね」
いやマジそうだわ。ふたりが互いの首を狙って殺し合いするとか、現実には考えられないことだからな。
呆然としたリーナ先生を支えるようにしながら、ニュムが選手席に戻った。入れ替えでランとマルグレーテが実況席に来る。
「いよいよ私とマルグレーテちゃんの番だね」
ランはにこにこ顔だ。
「もちろん私が負けるけど、楽しもーっ」
「まあそう負ける負ける言うな。まだわからん」
あっさり負け宣言したら、観客席が盛り上がらないだろ。ランの奴、天真爛漫なのはいいけど、もう少し商売考えろw
「まだわからないわよ。ここまでの勝者を振り返っても、意外な展開が多いし」
観客席の声援に優雅に手を振ると、マルグレーテは腰を下ろした。
「レミリア対シルフィーは、間接攻撃戦かと思いきや、最後は斬り合いでシルフィーの勝ち。アヴァロンとカイムだって、地形効果と呪力戦は前哨戦だったもの。アジリティーと家宝匕首の切れ味で、アヴァロン勝利。第三戦はこうして、伏兵リーナ先生が残ったし」
「なるほど」
これから始まる第四戦、つまり攻撃魔道士と回復魔道士の模擬戦なら、普通に考えれば圧倒的に攻撃魔道士が有利だ。
「でもマルグレーテさんは、魔法を輻輳させる奇跡のアイテムをお持ちですよね」
女将が首を傾げた。
「序盤に強魔法を重ねがけされれば、瞬殺では」
「それはどうかな。事前に効果減少の魔法フィールドを広げておけば……」
俺にもわからないわ、実際。
「とにかく、ふたりの装備はこれだ」
■ラン(ジョブ:呪文詠唱系ヒーラー)
特殊スキル:羽持ち(アルネ・サクヌッセンムにエンチャントされている)、マジックトーチ
●武器:
銘「ソロモンの杖」
クラスS装備
カジノ賞品
特殊効果:魔力増大、CHAにボーナスポイント
銘「放浪者の短剣」
クラスA装備
カジノ賞品
特殊効果:DEFとAGLにボーナスポイント
●防具:
無銘ミスリル製チェインモノキニ&チェインスコート
クラスS装備
天才ドワーフ遺作。「トルネコ」ことコルムより贈与
特殊効果:物理ダメージ軽減(コルムによれば「ほとんど防ぐ」)、魔法耐性
●アクセサリー:
銘「即天王の指輪」
裏ボスレアドロップアイテム
エリク家領地アドミニストレータ戦で入手
特殊効果:即死回避、状態異常無効化、HP/MP無限回復
銘「無銘の頚飾」
クラス不明装備
ヘクトール時代にマルグレーテにもらった首飾りで、ランが大事にしている
特殊効果:魔力増大
銘「弁財天のネイル」
クラスA装備
カジノ賞品
特殊効果:魔力増大、CHAにボーナスポイント
●他、所持アーティファクト
魂の絆:すごろく罠マス景品のコイン:宝箱解錠キー
■マルグレーテ(ジョブ:呪文詠唱系メイジ)
特殊スキル:鑑定
●武器:
銘「ソロモンの杖」
クラスS装備
カジノ賞品
特殊効果:魔力増大、CHAにボーナスポイント
銘「放浪者の短剣」
クラスA装備
カジノ賞品
特殊効果:DEFとAGLにボーナスポイント
●防具:
なし
●アクセサリー:
銘「エリク家の指輪」
先祖伝来の結婚指輪
母親からの継承品
特殊効果:エリク家祖霊の守護、魔力増大、婚姻相手との絆
銘「従属のカラー」
裏ボスレアドロップアイテム
カジノ賞品
特殊効果:二回詠唱。斬撃無効化。物理ダメージ八割削減。『契約主』との絆
銘「弁財天のネイル」
クラスA装備
カジノ賞品
特殊効果:魔力増大、CHAにボーナスポイント
●他、所持アーティファクト
愛の徴:すごろく罠マス景品のコイン:宝箱解錠キー
「ふたりとも、凄い装備のてんこ盛りですね」
「まあ俺とも長いし、道々入手したり。あと実家継承とか友達贈呈とか、因縁のある装備も多いしな」
「ただ……マルグレーテさんに特別な防具なしというのが、目を引きますが」
「まあね。日常生活で体を傷から守る、旅人の服を着ているだけだし」
「トップクラスの魔道士と伺っています。ちょっと意外ですね」
「魔道士でだいたいパーティー最後部にいるから直接攻撃を受けにくいのが、ひとつ。あと他の装備がダントツなんで。従属のカラーとか、物理ダメージ八割減だからな。防具なんかより鉄壁の守りだろ」
「なるほど。そこで防御してるなら、重い防具を着込むより空身で動きが速いほうがむしろ、身体デイフェンスに効果的ですね」
「そういうこと」
「それにわたくし、モーブが守ってくれるし……」
熱い瞳で、マルグレーテに見つめられた。
「素敵な……お婿さんが」
なぜか、観客席から絶叫が巻き起こって笑ったわ。いやあんたらも恋人といちゃつけばいいだろ。
「さて、アバター戦士の登場です」
バーチャルコロシアムに、ふたりの姿が現れた。これまで同様、左右に分かれて。ふたりは、相手を見ている。睨むとか見つめるとかではなく、ぼんやりと。昼寝から覚めたばかりのように。相手を捉えているはずの瞳には、なんの感情も浮かんでいないように思える。
「きらきら輝く、チェインモノキニ最高っ!」
まあビキニみたいなもんだからな。
「見えそうで見えないように下半身に巻かれたチェインモノキニがまた……」
「もう少し短かったらパンツ見えるのに」
「見えないからいいんじゃないか。お前は黙ってろ」
やっぱり紳士いるな。見た目が派手な分、ランに関しての感想が多いがもちろん、マルグレーテファンもたくさんいるぞ。野趣溢るる山生まれの天然美少女か、地方貴族育ちだけにすれていないお嬢様美少女か、ってわけだからな。そらおっさんどもの趣味次第だわな。
「では、一回戦第四試合……」
立ち上がると俺は、マイクを構えた。
「両者、戦闘開始っ!」




