表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
394/464

4-4 一回戦第二試合「獣人巫女・アヴァロンVSハイエルフ・カイム」

 アバターだから声こそ出ないが、コロシアムのアヴァロンは、なにか叫んだ。そのまま体を低くし、上げていた手を地に置く。……と、アヴァロンの手から地面の四方八方に、紫の発光が広がった。


「のぞみの神殿の巫女だからな、アヴァロンは」


 解説した。観客は多分、誰ひとりこれがわからないだろう。


「戦闘では地形効果を操れる」

「ええ。私はケットシー巫女ですから。こうやって戦闘の前に、味方に有利な地形効果を与えるのです」

「カイムとアヴァロンは、ふたりとも霊力系だ。属性の優劣は無い。ただ……カイムはハイエルフだから、直接戦闘力は勝る」

「そこですね」


 カイム(リアル)が頷いた。


「アバターの私が、ああしてアヴァロンさんに突っ込んでいっている。私は長剣。アヴァロンさんは短剣。遣い手の力量が仮に同じとしても、長剣のほうが間合いや攻撃力に優れる。自分の不利を補うよう、地形に効果を与えたのです」


「なるほどっ」

「アヴァロンちゃんは俺の嫁ということだな」

「ならカイム様は俺がもらう」

「お前ら調子に乗るな。ふたりとも俺様のものだ」


 いやお前ら、ちゃんと話聞いてないのかよ。美少女に見とれてるんじゃないよ。これ、ショーとはいえ、格闘技だぞ。少しは頭使え。本能だけじゃなく。


「といってもアヴァロンは獣人。VITが高いから打たれ強い」


 俺の指摘に、カイムは頷いた。


「たしかにそうですね、モーブ様」


 実際、不死の山でのアドミニストレータ四体ボス戦でも、最後まで生き残っていたしな。


「それにAGIも高い。高いアジリティーを生かし、攻撃速度が半端ないから、敵の剣一撃の間に、最低でも二発は叩き込めるだろう」

「まして、私のアバターは長剣。アヴァロンさんは短剣。間合いが短い反面、素早く扱えます」

「そう褒められては……なんだか恥ずかしいです」


 アヴァロンが、頬に手を当てた。少し顔が赤くなっててかわいい。


「カイムは長剣。アヴァロンは地形効果と短剣。観ものだがまあ、すぐわかる。ほら……始まるぞ」


 すでにふたりは、あと一歩の間合いだ。カイムが長剣を上段に振りかぶる。アヴァロンはまだ短剣を抜いていない。……ただ体をすっと落とし、半腰になった。頭では猫耳が激しく動いている。相手の気配を探っているんだ。


「これは……決着が早いぞ」


 背後から、ヴェーヌスの呟きが耳に入った。魔王の娘ヴェーヌスは、格闘系前衛。それだけに直接戦闘については、誰よりも判断が正しい。


 ヴェーヌスの言葉どおりになった。大歓声の中、カイムが長剣を振り下ろす。誰もが、アヴァロンは斬られたと思った。だが、カイムの剣筋は宙を切った。なぜなら、目にも止まらぬ速度で、アヴァロンが横に跳んでかわしたから。


「速いっ!」

「しゃがんだのはこのためかっ」

「脚のバネを最大限に使うためだ」

「さすが獣人。脚の筋力、パねえ」


 空を切ったカイムの剣は、銀色の残像を残していた。


「あの残像……」

「霊力が溢れているんだ」

「あれで斬られたら、ダメージはでかいぞ。特に……邪悪な魔族やアンデッド系は」

「それよりアヴァロン様が……」

「すげえ……」


 実際、アヴァロンは凄かった。横っ飛びに一メートルほども移動し、巫女の履物でぐっと静止する。胸が地面に着きそうなくらい低い姿勢だがよろけることすらなく、踏ん張っている。超人的なバランス能力だ。


「……っ!」


 無言の叫びを上げたカイムが、アヴァロンに襲いかかった。逆襲を警戒し、下段の構え。振り回す剣がまた、銀を曳いた。……が、避けるどころかアヴァロンは、敵の間合いに飛び込んだ。体を回転させるように。


 カイムの剣がアヴァロンの腹を割く。HPバーが大幅に減る。ほぼ同時にアヴァロンが、回転しながらアヴァロンに攻撃を始めた。まず肝臓あたり、二周目に腎臓、三周目に内腿の大腿動脈を薙ぐ。ふたりの体、ダメージを受けた部分が次々に銀色に輝く。実戦であれば、両者とも血塗れだろう。攻撃を受けるたびにカイムのHPバーが、がくっがくっと短縮されていく。


「見ろっ!」


 観客が総立ちになった。四周目のアヴァロンが、カイムの心臓あたりに「のぞみの匕首あいくち」を突き刺したからだ。


「嘘だっ」

「魔法銀の胸当てを貫通してやがる」

「ただの短剣じゃないぞ、あれ」

「巫女筋伝承品だもの」

「それに初っ端、地形効果を与えていたろ。あれが地味に効いてるんだ」

「魔法と違って地形効果は、戦闘中はキャンセルできないからな、敵側からは」


 胸当てを貫いた理由はどうあれ、この一撃が致命傷になった。カイムのHPバーは最後のひと筋まで削られ、見えなくなった。凍りついたかのように、カイムとアヴァロンが静止する。そのまま、カイムの姿が掻き消えた。


「……さすがです、アヴァロンさん」


 実況席で、カイム(リアル)が溜息を漏らした。


「一応敵設定だというのに、見とれてしまいました。見事な太刀筋。回転しながらもバランスを崩さず、確実に相手の急所にダメージを入れていくなんて……」

「獣人ならではのバランス感覚ですね」


 ベイヴィル女将も、手に汗を握っていたようだ。溜めていた息をほっと吐くと、かわいいタオルで額を拭っている。


「いえ、カイムさんの太刀が凄すぎたんですよ」


 アヴァロン(リアル)は首を傾げてみせた。


「だからこそ、相討ち覚悟で懐に飛び込むしかなかったのです」

「実戦だとあれだよな、言いたくはないけどアヴァロンも致命傷食らってるだろ。カイムの最初の一撃で。いくら獣人のVITが高いとはいえあれ、ハイエルフ渾身の一撃だし」

「そういうことです、モーブ様」


 澄んだ瞳で見つめられた。


「あれは感情レスのアバターだからこそ取れた作戦。実際の私では、あそこまで踏み切れないでしょう。……モーブ様の命が危ないとき以外は」

「そのときなら私も、命を差し出すでしょう。同じですね」


 楽しそうに、カイムも微笑んでいる。


「いや、それは困る。ふたりが冥府に落ちるくらいなら、俺の命を差し出すわ、敵に」

「まあ……皆様、お熱いことですね」<ベイヴィル女将

「んなーん」<猫知らん顔。顔ぺろぺろ


 なんだよ猫、感動のない奴だ。まあ猫だから仕方ないか。


「次の試合が楽しみですね」


 女将の感想に、大歓声が重なった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ